第01話 転校生は魔王でした。
「なっ……っ!?」
ソイツが教室に入ってきた瞬間、思わず声が漏れていた。
けれど、幸いにしてというか、それでクラスメートの注目をあつめるようなことは、なかった。
みんな同じように、ビクッと身体を震えさせて、硬直して、息を呑んで……みたいになっていた。
それは何も、俺たち生徒だけ、じゃあない。
ソイツを引率してきた担任も、何だかひどくビクついてるっていうか、緊張しまくってる。
オーラ。
よくマンガなんかで、身体からブワッて噴き出してるような。
そこまで、目にハッキリ見える訳じゃないけれど。
それでも、ソイツが、オーラとしか言いようのないものを身にまとっているのが、嫌でも分かった。
そうして、クラスの全員が、そのオーラに圧倒されてしまっている中。
ソイツはゆっくりと、教室の中に入ってくる。
「ッ……!」
俺は、ようやくハッと我に返って、慌てて顔を伏せた。
けど、手遅れだった。
その直前に、ソイツと目が合ったのが分かったから。
そして、ソイツが俺に向かって「にぃっ……」と、凶悪に笑いかけるのが見えた、から……。
(何でっ……何でこんなとこにアイツが……!?)
全身にブワッといっぺんに、冷たい汗がにじむ。
身体が、ブルブルと小刻みに震え出してしまう。
それでも、恐る恐るソイツの様子を窺えば……。
ソイツは、それこそ悠然、といった感じで教卓の前まで、歩いてきていて……。
教室の中をグルリと、見回して……ふっと、笑って……。
「高城 緋冴だ。よろしく頼む」
その、声は……涼やか、というような感じで。
同年代よりずっと、大人びてるって、いうか……。
いや、でもだから……見た目だってソイツは、その声に似合ったというか、十分すぎるほど、大人っぽさをたたえた……でも、美少女、だ。
背中の中ほどまである、長く、艶やかな、髪。
手足はスラリと長く、堂々としたっていうか、スッと背筋の伸びた姿勢のせいもある、だろうけど……身長も、そこそこっぽくて。
何よりも、日本人にしては、目鼻のハッキリとした顔つきで……その切れ長、というような瞳も、だから……。
(いや、だから外見に騙されちゃ駄目なんだよ!)
俺は、心の中で悲鳴を上げる。
“前”の俺も、初めてその姿を見た時、意外に思ったんだから!
「こんな女の子が……?」って……!
でもっ……でもっ……!
「あ~、じゃあ高城さんの席は、一番後ろで悪いけど、あっちの角ね。――おい、水嶋、水嶋っ!」
「……はっ、はひぃっ!?」
いきなり、教師に名前を呼ばれて、飛び上がるみたいになってた。
その裏声った俺の声に、ソイツのせいで固まったいた教室の空気が緩んで、吹き出すような声がいくつか聞こえてきた。
それをでも、恥ずかしいって思ってる余裕なんて、なくって……。
「あっ、あああ、あのっ! 俺の隣ッ、ですかっ!?」
「そうだ。ちゃんと、いろいろ教えてあげるんだぞ?」
「ッッッ!!!???」
俺の、声にならない悲鳴は無視、されて……。
ソイツが、ゆっくり……俺の方に歩いて、くる……!
通路脇の男子が、ソイツの後を追いかけるように、体ごと振り向くようにしてたりする、けど……。
俺はっ……俺は思いっきり顔を横に向けて、ソイツを見ないように、してて……。
そんなにしてても当然、ソイツは俺の隣に、きて……!
ガタ……と小さく音を立てて、隣の椅子が、引かれて……。
ソイツが、俺の隣に、座って……。
そ、して……!
「珍しいところで会ったな、“勇者”よ」
「……ッ、“魔王”……」
ソイツは、俺にだけ聞こえるような小さな声で、笑うように、言って……。
俺は、恐怖に呻くように、呟いて、いた……。