ファーストコンタクト
プロローグ
AD2115年、とあるビルでの大企業主催のパーティー会場にて。
大きな丸いテーブルの上には豪華な料理に酒。天井には大きなシャンデリア。会場だけではなくパーティーに出る人々も高そうな服やいい靴を身に着けている。
21時ちょうどか、このパーティーの主催者は数人のボディーガードたちと共に壇上に登りスピーチを始める。
「善良なる社員諸君、我が大和防衛装備品製造会社のミサイル・ヤマタノオロチがついに国防軍で採用された。これは諸君の努力の成果である。!わが社はこれからも卑劣なテロリズムに屈せず世のためとなる製品を!兵器を作り・・・」
一方、パーティー会場から1㎞ほどで離れた暗いビルの一室にて。
フード付きのおレインコートを着たガスマスクを付けた女性は窓を開けてうつぶせで狙撃用ライフルを構えていた。彼女の後ろには麻酔で眠らされた人が五人ほど転がっていた。
「そろそろね、悪く思わないで。」
彼女は銃のロックを外すとサイトを引く。普通はここでスコープを覗き込みながら撃つはずだが銃にはスコープがついていなかった。彼女は銃の引き金を引く。
ボッ!カンカンカン(ライフルにはサイレンサーがつけられているため発射音はこもる、ついでにカンカンは空薬莢が地面に落ちる音)
「社員諸君の活躍をこれからも期待する。では、これにて乾杯を、皆さん、お立ちください。」
パーティーの出席者たちは一斉に立ち上がる。その時一人がその場に倒れこむ。周りの人たちの目は倒れこんだ一人に行く。
「血が・・・」
「大丈夫ですか?」
また一人が倒れてから床に血の水たまりができる。人々は慌てる。どこから弾が来たのかが分からない。まずは外からの狙撃はあり得ない。なぜならパーティー会場の窓ガラスはマジックミラーである。とすると中にいる誰かが銃を乱射しているのか?
パーティーの主催者があたふたする中ボディーガードたちは違った。一秒で主催者を取り囲み肉の壁を形成する。
「団子か、お偉いさんは分かりやすいな。」
ボッカンカンボッカンカン
チュン!ブチュッ!チュン!ブチュッ!
ボディーガードたちは次々に倒れていく。倒れた彼らは頭か胸から血を流していた。主催者は「帰りたい。」と絶叫する途中で頭から血を流しながら倒れる。
「おい、血痕を見ろよ。これは窓側から撃たれたんだ。」
「ありえるか、マジックミラーだぞ、ここは。」
「もしかしたら最近ニュースになっているあの化け物じゃ。そうとしかっ・・・」ブチュッ!
「部長!何がなっ…」ブチュッ!
「今日はこれで終わりか。さて、づらかろうかしら。」
女性はすばやく狙撃用ライフルを分解するとケースにしまい込む。それから彼女は麻酔で眠らされた五人の背中に注射器で毒物を注射する。彼女は今いる部屋を占拠する際にそこにいた人々を人質にするために眠らせておいたものの用がなくなり口を割られるとまずいため殺したおいたのだ。一通りの作業を終えると彼女はその場から去るのであった。
1-1ファーストコンタクト
時は2112年、日本は二十一世紀初頭と比べるとかなり荒れていた。次々と過労死する労働者、誰にも気づかれずに腐る老人、地方にはスラム街ができ始め・・・なんてことは序の口だ。なんていうか・・・そうだ戦争?いや紛争が起きちゃってさ。どことどこがだって?地方の一部が反乱を起こして社会主義国を作ることになっちゃったわけだ。そうなっちゃ日本政府はカンカンだ。
しつこく空爆(空爆と空襲は言葉が違うだけでやってることは同じ)をしてきては町をメチャクチャにする。わたくしも2,3回遭遇したっけ?えっ?わたくしは誰だって?一一二十歳の和国の兵隊さ。まともな訓練もろくに受けずに実線を八回ほど経験、けど生き残っちゃったわけだ。今まで何人殺してきたかはわからないが公式スコアじゃ12人。
戦場はろくな場所じゃなかった。人の目玉や手足が爆音がするたびに宙を舞い。科学的にはスカンク以下といわれているものの死体のにおいが鼻から離れない。
これだけがんばってわたくしはどうなったかって?英雄になったと思いきやテロリスト扱いだ。多勢に無勢、和国は事実上壊滅。わたくしを含めた残党は空襲ほかの恨みを晴らすため敵国に潜伏してテロを決行。わたくしはまだ、食料調達ぐらいしかやっていないが今日から狙撃手のお守りをやることになったのだ。
ついでにテロ中の和国のみなさんは仲間同士の情報を互いに伏せておいていざというときに全滅を招かないようにしている。そんなわけでアジトから派遣されたわたくしは上司有留区ヨウサイから受け取った命令書だけを頼りに彼(?)を現地で探すことになったのだ。えーと特徴は紫色の目に眼帯だって?おいおい、狙撃手が眼帯だって?中二病か、こいつ。
なんてことを言っている間に一時間ほど早く集合場所についてしまった。あっそーいえばわたくしは今どこにいるかって?敵様の町のど真ん中だ。ちょうどわたくしが戦場デビューした頃か。日本は今真日本自由主義国と名前を変えている。全く長くて胡散臭い。例の狙撃手もだが。
他にも話したい悲報は星の数ほどあるが。なんてことを長々と読者の皆さんに語っている間にわたくしは見た。いた!彼・・・ではなくて彼女だ。紫色の目に右目に眼帯、それにTシャツにジーパン。眼帯さえなければ町の中で浮かない。私は早速声をかけようとするものの素通りされる。仕方なく後ろから追いかける。
例の狙撃手はいきなり角を曲がる。わたくしも同じように角を曲がる。彼女は再び別の角を曲がる。おかしい、こっちは待ち合わせ場所とは別の方向では?と思ったとき彼女はうつぶせに転ぶ・・・と見せかけて両手を地面につき片足を上げる。わたくしは彼女が姿勢を倒した際にブレーキをかけたのが次の瞬間股間に激痛が走る。彼女はだまし討ちの金ゲリをしてきたのだ。その場に倒れこみそうになるわたくしであったが彼女はそれを許さない。わたくしの服の襟をつかむと建物と建物の隙間に引っ張り込む。そして、リボルバーを額に突きつける。
「バッキャロー!!まだ一度も使ってねえのに!」
何を隠そうわたくしは童貞である。女性と付き合った経験は皆無。(作者もです)だが、ホモではない。
「ふーんDT?DT?・・・で大口たたいていないで十秒以内に所属と目的を言いなさい。明日のお天道様を拝みたければ。」
「あっその・・・お姉さん、頭にごみがついていますよ。」
「・・・あなたも背中に虫が。」
「ああ、今日はなんてついていない日なのでしょうか?」
「これは上司から伝えられた合言葉である。もし、これが間違っていればわたくしの命はない。おやっ、彼女さん銃引っ込めて襟から手を離した。わたくしはその場に座り込む。
「ったくあなたは無闇に近づいて来たりして。誰かに監視されていたらどうするつもりだったの?美竿マモル君。」
「自分は一一ですが・・・りんりんりんりん・・・え~と~」
「リンリン・李院・凛鈴・リンリリンリ・李院・輪鱗(リンリン・リイン・リンリン・リンリリンリ・リイン・リンリン)よ。」
「リン・・・いやっ上官殿どこがファーストネームでどこが苗字でありますか?」(和国は人手不足であるため事務的にはあまり厳しい階級制がないが上下関係は存在する)
「名はリンリン、苗字は李院、後ろの凛鈴はよく分からなくてそれより後ろは父の名だ。」
「では・・・李院さんこれからどうしますか?」
「まあ、いつまでもここにいるわけにはいかないわね。まずは腹ごしらえかしら。少年、ついて来い、ラーメンおごるわ。よさげな看板あったら教えて。」
少年なんですか?わたくし。まあ、文句も言ってられないし歩いて店を探すか。こうしてわたくしはかたっぱしから見える看板を見てみる。にしても、本当にここは平和である。遠くに見えるスラム街を除けば風景は二十世紀初頭と大して変わらない。ラーメン店も山ほどある。本当にわたくしは三か月前まで戦争をしていたのか?
まあ、まず店を決めるか。桜亭、ひまわり亭、チューリップ亭・・・アジサイ亭・・・アジサイテイ・・・味最低・・・スルーだなこれ。
「少年そろそろ決めてくれないか。いいにおいがする。」
「あっはい。」
上司を怒らせちゃまずい。アジサイ亭でもいいかな。わたくしと李院は店に入る。席に座ると李院は早速注文をする。
「味噌ラーメンとギョーザ。」
「悪いねえ。両方ともないね。」
「塩とチャーハン、少年は?」
「醤油とザーサイで。」
「アイヨ。」
「ところで少年、私は自然に呼ばれている。そこにある右と左どっちが女用なの?」
「えっと右は物置ですが。」
「そう、じゃあ荷物頼んだわよ。」
トイレに向かう李院を見ながらわたくしは首をかしげた。この女何かがおかしい。わたくしにつけまわされてから一度も振り返りもせずにわたくしに大ダメージを与えたかと思うとここでは看板にもないメニューを頼み、トイレのドアに書いてある文字も読めず。まさか読み書きができないのか?そりゃありえない。そんなんじゃ命令書を読めないし、もしかして近眼?いやっもっとありえない。スコープがあるとはいえ狙撃手が近眼じゃ話にならない。
頭が痛くなりそうだ。まあ、女はまずは外見だな。(人としてあってはならないことだがどうしても本能でこうなる、男も女も)やはりわたくしは男子だな。髪型はおかっぱで飾り気はないが顔は整っている。(といっても長年眼帯をつけているとつけているほうの目が少々小さくなる)わたくしの日替わり寝癖ヘアーよりはましだろう。欲を言えば男としてもっと胸がほしい。標準サイズであるが。いやっ貧乳家系に生まれた私にそれを言う権利はないか・・・
「ヘイオマチー」
注文したものが来て李院も戻ってくる。彼女は皿のふちをつついてはラーメンをすするという動作をする。わたくしはついその動作に見とれていた。
「何だ?気になることでもあるの?」
「えーとその、何ていうか・・・」
「そうだったわね。話すの忘れてたわ。私は半盲目よ。理由はまた後で。おっと醤油ラーメンもおいしそうね。」
彼女は机においてあったポン酢をラーメンにぶち込む。色が似ているからか?
「待っ!それは醤油では。」
塩ラーメンに醤油ぶち込んで醤油ラーメンになるかどうかは怪しい。ただ、わたくしは今日ろくでもないやつのお守り役になったのだ。半盲目のスナイパーと。