厄介払い
どもー
初夏の宵に見張りの兵の目が光るバリー王国。
ジメジメした空気が見張り櫓の上にいる兵を夢の中へ誘っていた。
一瞬たれた頭を定位置に戻し、尚もしつこい睡魔に兵は顔をしかめ、耐え切れず欠伸を一つついた時兵は口に当てかけた手を中途半端な位置で止めて固まった。
そのまま目を見開く。
やがて青く強い光が辺りを満たし、その後は兵の慌てた足音と土の匂いが立ち込めた。
「なんと言うことだ...あれは一体何なんだ、宰相」
宰相は望遠鏡を覗く手を止め声の主の疑問に答えた。
「わかりません。恐らく降ってきたものが何であれ我々には何者なのかわからないでしょう。その時には偵察隊を出しますか?」
王はため息をつき、少し苦笑してから言った。
「なぜそなたは世が思ってることを言い当てられるのだろうかね。不可思議だ。」
「だてに宰相を何年もしていませんよ。」
「わかっているのなら話は早い。人材は屈強な精鋭たちで良いか?」
望遠鏡を所定の位置に戻した宰相が首を振った。
「それではいけません。ここはいい口実に奴を送り出しましょう。あれは我々に害でしかありません。千載一遇のチャンスです。」
『あれ』のことが頭に浮かんだ王は少し考えた末、宰相の提案に頷いた。
真上まで登った太陽が僕をジリジリと焼き付けた。小手をかざして眩しさを和らげるも、やはり暑い。
あと数分後には玉座の間で王から新たな指令が下る。玉座の間に通じる外廊下で僕は暇をつぶした。
「王の呼び出し、降ってきた石。悪い予感しか、しない。」
僕は普通のバリー人とは違うところが沢山ある。白髪翠眼であったり、生まれがバリーじゃなかったり。
だからかもしれない、王国軍の中で出征ができないことや何かあったらすぐ罪を押し付けられることが多い。
今回も多分そうだろう。あれは敵国の兵器で貴様がその攻撃の手引をしたのではないか、とか何とか。
そんなことを考えていた刹那、後ろから僕は自分の名前を呼ばれたような気がした。
振り返ると見覚えのあるゴツく黒い巨体が走ってくる。禿頭に太陽の光を反射させて...。
「そんなに急いでどうしたんだよクリューガー。いつもより眩しくて目が開けていられない」
僕より断然背の高い男は僕を唯一悪魔と呼ばず慕ってくれる親友、ジークハルト・クリューガーだった。
「そりゃどーも。それよりお前王によびだしくらったんだって?」
「ああ。偉大な王様のお呼び出しだとさ。」
僕の皮肉発言が通じたようでクリューガーは苦笑いを浮かべた。
「何かあったら遠慮無く俺を道連れにしろよ。」
クリューガーの出した拳を自分の拳で突き返しながら僕は言った。
「そうさせてもらう。」
踵を返してその場を去り玉座の間へと向かった。
玉座の間の入り口は鉄製の大扉で守られている。
その扉の前に立った僕は一度深呼吸し大扉に宣言した。
「テオ・ゲルバー一等兵、王に謁見しに参りました。」
扉がその声を合図に重苦しい音をたてて開く。その先にあるレッドカーペットに足を踏み入れ、謁見の位置にまで来ると静かに膝を曲げ頭を垂れた。時折上官の悪魔という囁きが耳に触れる。
「よくぞ参った。顔を上げ」
王が言った。続けて、
「早速本題と参ろう。昨夜、この地に石が降りてきた。この石の調査をお主にやってもらいたい。承知できるかな?」
予想と外れたその言葉に少し戸惑ったが僕は返事を返した。
「はっ。ですが一つ条件があります。」
一斉にざわめきが広がった。王がそれを手を上げて制し続きを申せと促した。
「流石に僕も一人で王のご期待に沿うことは困難と見えます。それ故、王の寛大さに甘え、もう一人仲間をいただけないかと思いまして」
その時、一人の上官が声を荒らげた。
「貴様ァ!何かってなことを!」
「やめんか見苦しい。」
他の上官がたしなめ謁見は続行された。僕は安堵の息をつき、続ける。
「もし、許していただけるのでしたら第二小隊所属二等兵ジークハルト・クリューガーを我が仲間へ。」
頭を下げた。王はしばらく無言で僕を見つめていた。その目は黒く浮世に疲れたようであった。
「良かろう。いますぐ支度を整え宵のかねがなる前に出国せよ。」
その一言はひどく冷気を帯び、それでいて少々悲しみを帯びているように見えた。
例の石は青みかかった結晶でその青さは青玉のそれとも酷似していた。
日が沈み宵が来る。各地で鳴っているであろう鐘の音を城壁の外から聞いていたテオとクリューガーは必要最低限のものと石しか身に着けず砂漠に立った。先が見えない旅にいきなりほっぽり出された二人は様々な思いが錯綜するなか、夜の砂漠を進んでいった。
テオ一等兵から諸君に通達!
この物語は作者の都合で連載速度がバラバラになる。
その場合は暖かく見守ってほしい...