表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

第8章 第6話   月下の約束

 国境の森を抜けた先。

 黒い森に囲まれた古城は月光に照らされ、青白い光を放っている。


 それはあの日、帝国と決別した自分が見た最後の帝都の城ようで、しかし、その視線の先は帝都ではない。


「ヴァナヘイム――」

そう小さく口にしたシアルヴィが視線を落とし、祈るように瞼を閉じる。


 静寂を割くように、彼の背後から声がかかる。


「やはり貴様だったのか。

『紅い死神』――シアルヴィ・ヴァン・アウルヴァンディル!」


 覚悟したようにシアルヴィが視線を上げ、少し間をおき、そしてゆっくりと振り返った。

 視線の先にいるのはアーサー。

 その右手にはすでに完成した、炎の魔法が浮かんでいる。

「やはり気づいていたんだな。君の態度から、そうではないかと思っていた」

そう言うと彼は視線を振る。


「ジークは、どうしたんだ。」

「俺の魔法で、眠ってもらっている。

 これから始まることを、あいつには見せたくなかったからな。」

 問いかけるシアルヴィにアーサーが答え、わからない、というふうにシアルヴィはわずかに首をかしぐ。


「とぼけるな!」

 アーサーの声に呼応するように、右手の印が輝きを増す。

「貴様、一体どういうつもりだ。なぜ貴様とあいつが一緒にいる」


「どんな姿をしてようがあいつは魔族だ。お前らはそんなあいつを利用し、魔族へと剣を向けさせている。

 答えろ。返答次第ではこの場でお前には消えてもらう」


 しかしアーサーの言葉に、シアルヴィはむしろ微笑を浮かべると穏やかな口調で返していた。

「そうか、ジークを思っての行動だな。安心した。ジークが親友だと認めた者が、私怨だけで人を撃つような相手だとは、思いたくはなかったからな」

「愚弄する気か!」

「そんなつもりはない。ジークを思う感情において、私と君は共通している。

 魔法を引け。私は、君と戦うつもりなどない。」

「そのためなら、ロシェを倒すこともできる、そういえるのか」

「――!」


 シアルヴィの目が、一瞬大きく見開かれる。

 その言葉が止まったことで、アーサーはそれが彼の虎の尾であったことを瞬時に悟る。


 やがて、シアルヴィは静かに言葉を紡ぐ。

「そうか――君の上官はロシェだったんだな。彼から、私の事は聞かされていたのか」

「……」

「あれは――やはり、ロスクヴァなのだな」

 先のシアルヴィの反応に思考を停止していたアーサーが、その言葉によって正気に戻る。

 息を飲み、目を大きくするアーサーの反応が、シアルヴィに、彼の予感が事実であると教えていた。


「帝国内でも私の右目のことを知るものはそう多くない。ましてミドルネーム含めた私の本名を言えるものともなれば、その答えは自ずと限られてくる」

「貴様、気付いて――」

「確証をえたのは今だ。――信じたくは、なかったがな」

 そう言うとシアルヴィは一瞬目を細め、数呼吸おいて言葉を続ける。


「――彼が、ロスクヴァであるのなら、私は何としてでも彼を止める。それが、彼をこの戦いに巻き込んでしまった私の罰だ」

「ジークは、あいつはこのことを知っているのか。」

「右目の事は知っているだろう。だがその理由までは知らないはずだ。話してはいないし、これからも話すつもりはない」

「あいつを、騙すのか」

「そうではない。だが私は、私と出会ってしまったことで、背負わずともよい多くのものを彼に負わせてきてしまった。これ以上、私たちのことで彼に負担を負わせたくはない」


 その言葉に一瞬アーサーは言葉につまり、やがて絞り出すようにシアルヴィに問う。


「貴様――死ぬ気だな」

「無論、死んでやるつもりなどない。私がジークから受けた恩はあまりに大きい。こんなところで死んでいては、その恩に報いることなどできはしない」


「だが――」

そして一呼吸おき、シアルヴィは言う。

「もしもこの先ジークに危機が迫り、私がそばにいられない。そんなときには、君がジークを守ってほしい」


「なっ!」

一瞬、口から漏れた言葉を飲み込むように数呼吸おき、アーサーは再びシアルヴィに言う。

「当たり前だろう!そんなこと、貴様にいわれるまでもない!」


 その言葉に、シアルヴィは眉を下げるとアーサーの方へと歩みを進める。

 そして、その姿がアーサーの隣をすぎる瞬間、彼の肩へと一度優しく手のひらを乗せ、そのままアーサーの背中側へと歩みを進め、森の中へと消えていった。


 残されたアーサーが落下音のような音を残して大地に膝と両手をつける。右手の印が色を失う。


 そして天を仰ぐとともに彼の叫びは、月の照らす夜の空へと溶けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ