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第8章 第4話   二つの邂逅

「迷える死神の剣は、その仕える主を見つけたのか?」

 それは、七年ぶりの邂逅だった。


 城内の医務室へとアーサーを担いでいくジークとフィアナの背中を見送り、そしてこの場をあとにしていく兵たちの姿を見守るように、一人刑場に残るシアルヴィの、その背中側から声がかかる。


 わずかに口角を上げ、一度瞼を閉じてから、シアルヴィは静かに振り返った。

 そして、相手を確認するとともに膝をつき、片手をついた礼を行う。


「お久しぶりです、ヘイムダル将軍」

「よせ。お前にそこまでされるほど、私は畏まった存在ではない」

 そう言われ、シアルヴィはゆっくりと立ち上がる。だがその姿勢は直立せず、やや前屈みの、ヘイムダルの胸へと視線を落とせる位置で静止していた。

 目の前の人物は彼よりもずっと、小さく見えた。


 かつてともに帝国へと身をおいていた、博識と名高い魔法使い。魔将軍ヘイムダル。

 七年という時の長さに、頭髪はすっかり白く染まり、その顔にも深い皺が刻まれている。

 しかしまとわれている白い軍服は、彼がまだあの時と同じ、魔将軍の地位にあることを表していた。


「あなたには、我が主を守っていただき感謝の言葉もありません。そして、私もまた、かつてあなたには命を救われました」

「何を……」

「あの竜の最後の瞬間、鎖の魔法で竜を止められたのはあなたですね。あれは、闇魔法のようにみえたが雷魔法だ。

 大地に雷が落ちると、その場で石同士が張り付きあう奇妙な石ができると聞いたことがあります。

 あなたは雷の魔法に造詣が深い。あれは、そのように作られた術ではないのですか」

 シアルヴィの言葉にヘイムダルは下を向き、少し嬉しそうに笑っている。


「そして――」

そう言ってシアルヴィは言葉を続ける。

「私が『処刑』されたあの時も、あなたは誰にも気づかれぬよう、私を逃がしてくださいましたね」


 その言葉に、ヘイムダルの目が大きくなる。

「買いかぶりすぎだ。私はそこまでできた人間ではない」

「そうでしょうか。あなたの魔法力なら、一撃で私の心臓を止める事もできたはずだ。しかしあなたはそれをされなかった。そして、私が海へ落ちた後、魔法で追撃を行うこともできたでしょうに、やはり、そうはされなかった」

「……」

「それに気づいたとき、考えたのです。私は、あなたによって生かされていたのだと」

「――あの海域は北へ向かって海流が流れる。うまく海流に乗れば生き残られる可能性はあった。だが、生き延びたのはお前自身の力だ。私がしたことはただのきっかけに過ぎん」


 その言葉に、シアルヴィは心から安堵したような笑みを浮かべる。

「あなたには、本当に感謝しています」

 そして、一呼吸おき彼は続ける。

「あなたのおかげで私は今、最も大切なものの為に、この生を、使うことができている」


 その言葉に、ヘイムダルは重々しげに言葉を紡ぐ。

「行きつく先は、地獄だぞ?」

「存じ上げております」

ためらいなく返された答え。

 そのままどちらも言葉を発することなく時は流れ、やがてヘイムダルは静かに語る。


「ならば、伝えよう。皇帝は――」



――そしてまたこの時、城内でももう一つの邂逅が、その目覚めを待っていた。


 最初に、視界には光があった。

光の中に自身を覗き込む、人の姿の影が見える。


「ここは――」

そう言って体を起こそうとしたとき、一つの影が大きく動く。


――動かないで。

 そう言われたことを理解し、若者は再び両手を体の横へ下ろすとともに瞳を閉じる。

 彼を包む光は徐々に弱まる。


 そして光が完全に消えたことを感じ、彼は再び目を開いた。

 彼を覗き込んでいたのは一人の少女と一人の青年。

 少女は若者には初対面だった。金の髪を持つ可憐な少女。

 だが、もう一人の青年――、銀髪の青年を目にしたとき、若者はためらうように手を伸ばそうとし、しかし何かを飲み込むように両目を閉じると、体をひねって顔を背ける。


 そんな若者に、青年は優しく語りかける。

「おかえり、アーサー」

 アーサーと呼ばれた若者は振り返るように青年を見る。

 二人の視線がしっかりと合い、一も二もなくアーサーは、銀髪の青年の胸の中へと飛び込んでいた。


 数日前に味わった深い絶望が、今大きな歓喜の奔流となって、彼の心を飲み込んでいた。

「おかえり、長い散歩だったな」

 そう言って、銀髪の青年――ジークはアーサーの背中を抱きしめる。


 肩にかかる腕の重さも、胸に埋まる栗色の髪も、そのすべてが懐かしく、また愛おしく感じられた。

 神官の少女が見守る中、二人はいつまでもその抱擁を交わしていた。

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