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第5章 第1話   魔法王国ヨツンヘイム

――ぼくは、ぼくはなにをしてしまった――!?


 ジークは両手で頭を抱え、そのまま大地へと崩れ落ちた。

 覚えているのは夕日に染まり始める平原。

 自分が駆け寄ろうとした魔法兵たち、その中心より突如として現れた巨大な爬虫類にも似た怪物。


 魔法を射かける魔法兵の一団が見え、直後、彼らの姿は巨大な怪物の吐き出す黒い炎の中へと飲み込まれていった。

 そして、姿を変える魔法兵たち。

 さらに、怪物の口の端に小さな炎が見え、次なる攻撃に気づいた自分はとっさに自身の印を描き――


「怖い――!」

襲ってくるのは、押しつぶされそうなほどの恐怖感。


「ぼくは――ぼくは一体何を――」

 地に伏せ、両手で頭を抱えたまま、もはや前方を見ることさえできない。

 皿状に浅く窪んだ地形の底。

 ジークはその場に身を伏せたまま、ただ震えることしかできなかった。



「酷いな――これは――」

 シアルヴィがその平原へとたどり着いたのは、すでに夕闇が辺りを支配し始め、わずかな光の片鱗のみが地上に残される時刻であった。

 すでに茜色の時は過ぎ去り、青紫に染まりつつある平原の、そこにあるのは無数の亡骸。

 衣服からすればアールヴヘイム兵は存在しない。おそらくすべてはヨツンヘイムの魔法兵のもの。

 目にすることが初めてではないとはいえ、この状況は幾度目にしようとも、見慣れたと表現できるようにはしたくないものだと感じる。

 馬の手綱を引きながら、シアルヴィは静かに平原の奥へと歩みを進めた。


「ジーク、君はここにいるのか?」

 自分よりも先にこの地を訪れたであろう青年。その姿は今この地点からは確認できない。

 本来ならば亡骸の群れの中、友の存在がある可能性はあったであろうが、シアルヴィはその可能性を自身の中においていなかった。

 そして、あまりにも凄惨なこの現状を目の前にしながらも、彼は逆に落ち着いており、友の姿を探すとともに、この状況がいかにして引き起こされたのか、その原因をここから探ろうとするのだった。


「すまない、失礼する。」

倒れている一人の兵士に追悼をささげてから、うつ伏せになっていた身体を静かに返す。

――魔法による外傷。

 それも火、もしくは光といった、熱を発する属性の魔法。


 しかし、一体どういうことだろう。

 一般に、魔法使いは魔法に対する耐性が強いとされる。

 だがそれは決して魔法使い本人が特殊な人間というわけではなく、彼らのまとう衣装が魔法による加護を受けているものが多いこと、そしてこの世界の魔法の仕組そのものにその理由を認めることができる。


 この世界における魔法の行使においては、まず属性を指定する(いん)をその手で描き、効果を求める(いん)をその口に紡ぐ。

 描かれた印は、韻を与えられることで魔法として完成するが、その折、術者より引き出される魔力の一部を周囲に巡らせ、その術が完成し放たれるまでの間、外部より与えられる魔法による干渉を、緩和することができるようになる。

 そして、より多くの韻を必要とする上位の魔法ほど引き出される魔力は多く、この障壁はより堅固なものとなる。

 また、仮に韻を唱える間がなかったとしても、印がそこにあるだけで少ないながら魔力は巡り、全くの無防備で魔法を受けるようなことはない。

 そしてこれらの事実ゆえに、魔法使いは魔法に対して強いといわれている。


 ヨツンヘイム兵はその大半が魔法兵であり、彼らがそれを知らぬわけはない。

 だが、今この地点にはその魔法兵たちの亡骸が、その数も数えられぬほど多数横たわっている。

 すなわちそれは、彼ら自身による、魔法に対する障壁すら貫く魔法が、この地点で炸裂したことを現していた。


「それに、一体これは……?」

 目の前の亡骸、一見普通の人間に見える彼の首元にはさも獅子のたてがみのような剛毛が見える。

 その毛に触れ、何かの可能性を感じたようにシアルヴィは目を伏せ、やがてゆっくりと立ち上がると、あたりに視線を走らせていく。


 倒れている兵士一人一人をよくよく観察できるわけではないが、兵士たちの数人には、口元が人のものではなくなったものや頭に角を生やしたもの、はては背中に羽をのぞかせたものまでが見える。

――まるで、これは――

 シアルヴィが、脳裏に浮かんだ可能性を否定するように頭を振る。


 そして彼はある事実に気づく。

 兵士たちの亡骸はさもある一点を中心とした同心円状に倒れていることに。

 間を埋めるように立つ低木や周囲の草花も同様であり、彼の仮説が正しいことを示している。


 再び馬の手綱を取り、足元に倒された亡骸の向きを頼りにその円の中心地点へと、彼はゆっくりと歩みを進めた。

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