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第一話 僕は誰?

 目が覚めると、そこは見たこともない場所だった。


 真っ白な部屋、まるで病院のようだった。


「……僕はなんでここにいるんだ?」


 以前にもこれと似た光景を見たことがある気がする。そう、どこかの病院の一室だ。そこで何かがあった気がするのだが、何故か思い出せない。


「誰かいませんか?」


 人を呼んでみるが返事はない。どうやら近くに誰もいないようだった。


 僕はベッドから降りると歩き出す。体が固まってしまったかのように動かないのだが、何故か引き付けられるように前に進み続けた。


 何かが違う、決定的に違うのだ。


「……違う」


 周囲の景色、自分の状態、その他すべてが今までと異なるのがわかる。だと言うのに今までがどうだったのかを思い出すことが出来ない。


 ただ今までと異なるという違和感、その感覚に突き動かされるようにして一歩、また一歩と足を進めた。


 扉を開けて外に出るとやはり見覚えのない廊下のような場所に出る。明かりが付いているから廃墟などではないようだが、人の気配は相変わらずない。


 思うようにならない体を必死に動かして歩く。壁に手をついて亀のようにだが、確実に前に。

 そうして歩き続けていると、大きな一枚鏡の前まで辿り着く。そしてそこに映った自分の姿を見て、


 僕は絶句した。


「これは……」


 恐らく5、6歳くらいの子供の姿がそこには映し出されていた。髪と目の色はくすんだ灰色で体もやせ細り、健康とは言い難い。


 だが、そんなことはどうでもよかった。それよりも、


「これが……僕?」


 そっと鏡に手を伸ばし、そこに映る自分の顔に手を当てる。


 こうして鏡に映るっているし、他に人はいないのでその答えに疑いの余地はない。だが、だというのに僕はその鏡に映る自分の姿が他人のように思えてしょうがなかった。違和感なんて言葉でいい表せない気持ちの悪い感覚。


 これに似た感覚を前にも経験したことがあるはずだ。自分が自分でなくなる、最悪の。

 でも、その記憶はない。


 というか僕にはすべての記憶がないことにここでようやく気付いた。


 自分が今まで何をしていたのか、どう過ごしていたのか、何も思い出せないのだ。


「僕は、一体……?」


 その言葉に答えてくれる人は誰もいない。そう思った瞬間に体中が急に重くなる。実際に重さが加わったわけではなく、体が限界を迎えたのだ。


 壁に手をついてどうにか立っていようとしたが、それすらままならない。ズルズルと壁に寄り掛かるようにしながら座り込んでしまった。


 いくらなんでも体力の限界が早すぎる気がしたが、そうは言っても動かないものはどうしようもない。

 僕は壁を背にするようにして座ると、廊下の天井を見上げた。


「僕は、何なんだ?」


 もう一度同じ問いを天のどこかにいるかもしれない神に向かって問いかける。だが、その返答はやはりやってくることはなかった。


 そうこうしている内に廊下の先から誰かがやってくる。どうやら完全な無人ではかったようだ。これで少なくともこのまま動けないで孤独死なんてことにはならないで済みそうだった。


 慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるその人にも僕は問いかける。


「僕は誰?」

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