柿の実の取り方
私は思わず足を止めてしまった。
頑固じーさんは口をギュッと強く結び、私を睨み付けていた。
その目をみたら、体が動かなくなって、再び走り出す事が出来なくなっていた。
私の体は小刻みに震え、顔はさらに真っ赤になっていた。
少しの沈黙が、学校の授業よりも長く感じた。
頑固じーさんが、きつく結んだ口をゆっくり開いた。
「柿の実を取ろうとしたのか」
目から涙が溢れた。
怒鳴られるとか、耳を引っ張られるとか、そんな事頭の中に無かった。
ただただ、真っ白なっていた。
「あの...あの...」
自分でも声を出した事に気が付かなかった。
「ちょっと待ってなさい」
そう言うと頑固じーさんは家の中に入っていった。
その時、私は全力で走って逃げる事も出来た。
家に帰って、扉に鍵をかけ、明日の朝まで家の外に一歩も出たくなかった。
でも、そうしなかったのは、少しだけ、ほんの少しだけ、頑固じーさんに柿の実を取ろうとした事を謝りたかったのかもしれない。
頑固じーさんが出てきた。
手には重たくぶら下がったビニール袋があった。
中には柿の実がギッシリ入っていた。
「持って行きなさい。」
私はポカンとした。
「あんたは悪い事をしようとしたが、柿の木を傷つけなかった。痛い痛いと泣いていた柿の木の声が聞こえただろう。」
差し出されたビニール袋をゆっくり受け取った。
「あ、ありがとう...ございます。それと...ごめんなさい」
小さな小さな声だから、頑固じーさんには伝わっていないと思ったが、じーさんはちゃんと聞いていた。
「そぅ、『ありがとう』と『ごめんなさい』だ。帰ったらあの悪ガキ共にも教えてやってくれ。柿の実の取り方をな」
頑固じーさんは、今まで見たことないような、優しい顔で笑った。
「はいっ!ありがとうございます」
今度はハッキリと大きな声で言った。
そして頑固じーさんは、ゆっくり、家の中に入って行った。
私はもぅ一度柿の木を見た。
「お前すげーな!!」
男子達が帰って来た。
多分近くに隠れていたんだと思う。
「どーやって、柿の実もらったんだよ!」
「教えてくれよ」
その時だった。
「痛っ」
音もなく、まだ青い柿の実が男子の頭に落ちてきた。
私が柿の木を見上げると、柿の木はサラサラと秋風に揺れた。
私もクスッと笑った。
「教えてあげる。柿の実り取り方。」




