1章 6話 内装コーディネートと防犯対策
貴族への見学会の前日。
贅沢にチーク材を作ったゴンザレス特製の取り付け家具が既に各部屋に設置されていた。
光の当たり方で木目が微かに揺らぐように見えるのは、磨きの丁寧さゆえだろう。手をかざせば、吸い付くような滑らかさが伝わってくる。
角取り一つ忘れられていない。丁寧な作り。
「よく間に合ったよな」
俺が感心したように呟くと、ゴンザレスは腕を組んで鼻を鳴らした。
「木工スキルのおかげだ」
さも当然そうにそう言うが、俺はゴンザレスの手の込んだ手作業を知っている。
「それだけで満足できなくて、ヤスリがけしたり掘ってデザイン刻んでたじゃん」
ゴンザレスは恥ずかしいそうにぽりぽりと髭を掻く。
「スキル任せだけでは、血の通った加工はできんのよ。お前にも昔、指摘したことだ」
懐かしいな、と思う。俺も考え方がガキンチョだった。土魔法で簡単に成り上がれると思って作り上げた家がそこらにある家の形をただなぞったコピーペーストなだけの土壁の家。
「職人としての誇りのない家だ、ってよく言われたな」
「今も大してセンスねえから変わんねえだろ、ガハハ!」
「てめぇ!」
「でも、このお前の玄関の回復魔法陣のタイルのアイデア、職人らしいじゃねえか。お前並みの土魔法使いじゃなきゃ、仕上げるのに一週間どころか一ヶ月かかる。お前じゃなきゃ、とんでもねえ人件費になる。まさに、お前ならではのオリジナルだ」
その時だった。
「二人とも、そこ邪魔」
背後から淡々とした声が飛んできた。
振り返ると、ニーナが両手いっぱいにクッションを抱えて立っている。いつの間にかリビングの中央にはソファとテーブルが配置され、空間の印象ががらりと変わっていた。
俺たちは慌てて道を空ける。
俺たちが、雑談している最中、ニーナがアイテムボックスのスキルを使い、ソファやテーブルを並べていき、その上にクッションや花瓶を置いていく。
ニーナは一切迷うことなく、クッションを置き、花瓶を配置し、角度を微調整する。
まるで最初から完成形を見ているかのような手際だった。
これらは内装コーディネートの例として設置するものだ。もちろん、そのまま別料金で購入することもできる。
内装コーディネートをすることで、この建物での生活がイメージしやすくなる。そうすると買い手が付きやすい。
それに、思い入れのある家具を持って来たいという顧客は少なくないので、提案として見せるだけの方が嫌な気分にならない。
その間、俺たち二人は何も手伝わない。
むしろ、手伝うな、とニーナから言われているのだ。
ニーナが次々に、家具を出しながら、迷うことなく設置していく姿に俺たちの声を挟む隙間はない。
それに、設置される度に、自分たちの作った空間がさらに引き締まり、エレガンスになっていくのを、ただただ、感動して見つめるだけなのだ。
あんなセンス俺も持ちたい。
頑張ろう。
そうやって、俺はニーナの後ろ姿と並べられた家具を見つめた。
内装コーディネートが終わり、あとは明日の見学会を待つだけになった。
ローテーションで防犯係を交代して、今日は俺が当番になる。
リビングのソファに座りたいが、売り物になるものだから、座れないし、寝室のベッドも使えない。
持ち込んだ寝袋をリビングに広げて、今日の寝床を作る。
そして、俺はこっそり持ってきたワインとグラスを取り出した。
テーブルに置いて注ぐ。
出来上がった建物を見ながら飲む酒は格別だった。
作り上げて、最後の防犯ローテーションの時にしか味わえない。
満足感と達成感が、アルコールで何倍にもなる。
この家、俺が……俺たちのパーティが作ったんだって。そして、一億円くらいで売り出すだなんて、すごいだろって。
ぐいっとワインを飲み込み、もう一杯注ぐ。
飲みながら、残念だな、と思うのは、この体になって酒に弱くなったことだ。
だから、あまり飲めない。
でも、少しくらいなら……。
頬が熱くなって、視界がふわりと揺れる。
今日くらいいいじゃないかな。
変な奴らが来ないように土魔法のドームで屋敷を包んで、ニーナやゴンザレスが来たら解除されるように設定して……。
グラグラと揺れた。
「リファ! 大丈夫!?」
「いや、こいつ、酔い潰れているだけだ」
揺れながらなんか開放感があるなぁーと感じる。
「え、まさか、またやったの!?」
「誰かにヤラれたんじゃなくて、普通に脱ぎ捨てて寝やがったんだ」
心配していたニーナの顔が眉間に皺がよる。
「アンチポイズン」
ニーナが低い声でそう呟くと、俺の酔いが覚めていく。
「やあ、……いい朝だね。売り出し日が晴れで良かっ……」
「ニーナ! 一人で酒飲むの禁止って言ったよね!」
「いや、まあ、そうだったかな?」
ゴンザレスがソファに、コーディネートとして置いていた肌触りのいい毛布を投げてよこした。
「ほんと、その性格といい、言葉遣いに、酒癖の悪さ……どっかのおっさんじゃねえか。でも、パンツ脱ぎ捨てるのなんて俺でもしねえぞ。
早く服着ろ」
「うるせえ!」
「でもな、その見た目でそれやるのは本当に反則だぞ」
俺はいつもの作業着を着ようとすると、ニーナがアイテムボックスから衣類を取り出して、俺に渡してきた。ぱっと見、テカリ具合からシルク生地だろう。
広げると寒気がした。
今世の両親がイベント時に着るように言ってきた類の服じゃねえか。
「いつもは、私だけで見学会の対応するけれど、罰としてリファにも手伝ってもらいます!」
「待て待て待て!」
背筋に冷たいものが走る。
「俺、貴族への対応方法も話し方もわからないぞ! 俺の口癖を貴族の前で披露したら最悪処刑になるぞ」
「あなただけね。だから、黙ってずっと後ろに付いてきて、相手の動きを察して対応してね」
「それが一番高度なんだが!?」
ゴンザレスが肩を震わせて笑う。
「見ものだな、これは」
「笑ってんじゃねえ!」
「もちろん、やってくれるわよね?」
にこりと笑顔が固まったままのニーナの目が本気だった。
これは逃げられない。
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明日も夜八時半ころから、可能であれば三話更新したいと思ってます。




