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1章 5話 材料が手に入らない時は力技

 リビングの床には大きな穴が直径約50センチメートル。勢いが酷かったため、リビングのフローリング材のほとんどは吹き飛んでいた。

 吹き飛んだフローリング材のほとんどはべきべきに割れており、ここで爆弾が破裂したんじゃないかと思うような損害だ。


「チーク材を注文しないといけないな」


 俺が割れたフローリング材を拾ってため息を吐くと同時に、ニーナは舌打ちした。


「最悪ね。今、念話で業者にチーク材の追加をお願いしたら、品切れ。似たような色の木材も、代用できそうな高級木材自体もない。少し待てば在庫が回復するかもしれないけれど期待はできない。三週間後の見学会までに間に合うかどうか……」


 珍しく、ニーナの声音に焦りが混じる。

 この計画は、単なる改修じゃない。見学会での印象が、そのままこの店の評価に直結する。

 しかも、貴族向けの見学会。

 期日を守らないやつが、他の大事なことも守れるわけがないと非難されるのだ。


 ここで俺たちパーティの作戦は頓挫(とんざ)した。

 しかし、作業の進捗を止めるわけにはいかない。


「ニーナは付近の空からチークやブラックウォルナットの木を探してくれ。見つけたら回収して風魔法使いに乾燥依頼を出そう。ゴンザレスは取り付け家具の作成を頼む。俺は庭園作りをする」


 俺の指示に二人は従い、それぞれ仕事を始める。


 ニーナは軽く宙に浮かび、そのまま屋根を越えて空へと消えた。

 ゴンザレスは誰に言っている訳でもない独り言の文句を言いながらも、工具を手に取り、取り付け家具作りを始めた。

 俺も仕事するか。


 俺は庭に行き、地面に手をつける。

 土操作をし、地面から水分を抜く。すると、地面が急激に乾く。1時間もすれば雑草が萎びていくだろう。

 あとは……。


「あの、クソでかい邪魔くさい木だ。魔族はよくこんな木を放置していたな。庭の南側だぞ。馬鹿みたいに日差しが悪くなるのに」


 俺はそう呟きながら、木の元へ歩いていくと、地面が、ぬるりと動いた。


 足首に何かが絡みつき、ぐい、と上に引き上げられる。

 俺は急にバランスを崩し、勢いよく釣り上げられた。

  視界が反転する。

 気づいたときには、俺は逆さまに宙吊りにされていた。


 シャツが重力に従ってめくれ上がり、腹から胸元までが完全に露出する。


 風が当たる。

 すぐに腹が冷えてくる。


 最悪だ。


ーーー


「何やってんの、リファ。シャツまくれて胸丸出しだよ」


 戻って来たニーナが空をホバーリングするように飛びながら俺の横に近づく。遊んでる暇ないのよ、みたいな呆れた顔していやがる。こっちだって暇じゃねえんだよ。


「ちゃんとご飯食べてる? 体、前より細くなった?」


 ニーナは心配そうに腰回りと薄っぺらい胸を見つめていた。心配するところはそこじゃねえ!


「そんなとこ見てないで、早く降ろしてくれ、

 このクソでかい木、トレントだ」


 そこでニーナの視線がクソデカい木に移る。


「この幹の苔の生え具合、確かにトレント、いやエルダートレントだね。ブレスで燃やすね」


「俺も燃えるじゃねえか!」


「えー、引っこ抜くの? 面倒……エルダートレント?」


「そうだよ、エルダートレント……エルダートレント!? チークより格上の木材!」


 そこでようやく、状況の価値に気づく。


 この最悪な姿勢のまま、心の中はガッツポーズになる。


 俺とニーナの叫び声にゴンザレスが気づいて、窓から顔を出した。


「おしゃべりして遊んでないで……リファ! 職場でなんて破廉恥(はれんち)なことしてやがる!」


 そっちの方注意するの!?


「違うだろ、この木、エルダートレントだ! 魔物そのものが高級木材になるやつ!」


「テメェ、破廉恥な遊びしてないで、そういうことを早く言え!」


「だから好きでこんな格好してんじゃねぇよ!」


ーーー


 俺はニーナに救出してもらい、その後、綱引きにでも使えそうな縄をニーナのアイテムボックスから取り出してもらった。

 

 力仕事は、ドワーフ族の仕事。でも、ドラゴン族には敵わない。今回、ゴンザレスはただの応援、声援係だ。


 ニーナは巨大な縄の輪を作り、それをエルダートレントに巻き付ける。

 きつく締めると、エルダートレントが枝を振るって暴れ出す。しかし、縄は枝と幹の交点に巻かれているため、エルダートレント自身は枝先は届かずもがくだけとなる。


「リファ! 出番だよ!」


 俺はエルダートレントの付近の地面だけ、水分を抜き、ボソボソの土に変える。


「ニーナ、今だ、引っ張れ! 建物の反対側に倒せよ!」


 ニーナは親指を立てて、エルダートレントを締め上げた縄を空から横方向へ移動するように引っ張る。


 すると、ボソボソの脆くなって土では、根が耐えきれず、エルダートレントはそのまま根っこごと抜かれて倒れた。


 エルダートレントは地面から抜けた瞬間、干からびていく。

 トレントは完全に土から離れると、即死する性質を持つ。

 同様にエルダートレントも即死して干からびたのだ。つまり、よく乾燥された木材となるのだ。


 エルダートレントはゴンザレスの巧みなテクニック

によりエルダートレント材、そしてフローリング材として生まれ変わる。


「やっぱり、エルダートレントは違う。チークもいいんだが、含まれる魔力で防虫性が抜群だし、艶がさらに上品なんだ。それにこれをまた何年も使い込むと、いい味わいを出す」


 ゴンザレスは加工しながら胸の高まりを俺やニーナに語る。ニーナはうんうんと頷くが、俺は全くわからない。チークとなんとなく色が少し違うくらいしかわからない。


 リビングでしか使わないエルダートレント材は大量に余った。市場に流すような話をすると、ゴンザレスとニーナは、『それを うるなんて とんでもない』とRPGのNPCの店の店員みたいに首を振った。仕方ないので、ゴンザレスとニーナ、そしてパーティ資産として山分けする。高級木材だけど俺は使い道がないし、2人のボーナスにしてやる。俺は石材原理主義過激派なんだ。

 読んでいただきありがとうございます。

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