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1章 3話 リフォームしていたら発見してはいけないものを見つける

 早速、ニーナが仕入れてくれたチーク材を俺の土魔法で作った防水、耐熱、耐衝撃の床面に貼り付ける。

 タイルを貼るみたいな要領で、接着剤を使ってフローリングを並べていく。


「馬鹿野郎! 床面に直接貼り付けたら、温度が変化した時に割れちまうだろうが!」


 怒鳴りながら、ゴンザレスが俺に詰め寄ってきた。

 職人の顔だ。完全にスイッチが入っている。


「俺の壁は温度変化ないだろ」


「お前の壁はな! 空気だ! 内側の空気の温度が木を膨張させるだろ。お前の壁は変わらない。だから、割れることになる。リビングに貼り付けた2万ゼニー分のチークが台無しだ!」


 そうだ、現代でもフローリングを直張りするならカルプクッション材という、床のクッション材を貼り付けていた。


「おいジジイ、俺の接着剤は特殊なやつで、接着剤で木が張り付いて取れなくなっても、ガチガチに固くならないで柔らかいままだ。だから、若干の伸縮なら大丈夫だし、この上を歩いても足腰のクソ弱い貴族様が疲れない仕様だ。そもそもチークは乾いていればほぼ伸縮しない」


 土魔法で接着剤となる低水分な粘土を作り出し、カルプクッションの代わりとなるようにしている。だから、フローリングの直張りは大丈夫なのだ。


 ゴンザレスはハッとして、頭を掻いて、


「……お、おう。すまん。別の現場に入った若い奴がやらかしていたばっかりで……って俺はジジイじゃねえ! まだおじ様と呼ばれる歳だ!」


「そうだな、謝れるうちはジジイじゃない」


「うるさい! 俺はまだぴちぴちの80歳だ!」


 人間換算で30から40歳くらいだったかな?

 ドワーフは人間の寿命の2倍くらいだったから。


「はいはい、わかったよ」


 そう言いながら廊下やリビングに板材を貼り付けていき、玄関まで来ると、ふと思いつく。


「玄関のところだけタイルにしてやろう」


 作る前に二人に相談したら許可は降りないだろう。

 だから、俺は勝手に作業を開始した。


ーーー


 一週間が経過した。

 ニーナが近くの森の中に放置された点在する腐った死体を焼却処分をして戻ってきた。


「はあ!? 何この玄関……なんでタイル……これ……魔法陣」


 驚いたニーナの顔を見て俺は満足感がいっぱいになる。


「そうだ。タイルを加工して作った。回復の魔法陣。命からがら逃げてきて、ここに足を踏み入れたら自動起動。ここまできたら死にはしない。命を狙われやすい貴族様には泣いて喜ぶはずだ。やんちゃな子供の擦り傷だって、泣き叫んで帰って来てもここで痛みがなくなるし回復魔法の発動のエフェクトできゃっきゃ喜ぶ」


「自動発動? 魔力切れにならない?」


「魔力切れリミッターは刻んでる」


「魔力が足りない瀕死の人が乗ったら?」


「発動しないけれど、別の魔力に余りのあるやつが乗れば瀕死者に流れるようにパスを刻んでる」


「魔法陣の大きさも、刻まれた術式も、魔力が著しく高くない人族にも向いている、少ない魔力でそこそこの回復が期待できる省エネ型か。それでいくらかかったの?」


「ゼロゼニー。俺が刻んだから。間違いがないように本を見ながら、何度もテストして……」


 そう説明すると、にこりと笑顔をつくるニーナ。でも、目が笑ってない。


「へぇー、凄いじゃない。超大作ね。どのくらい時間かかったの?」


「……一週間」


「リファ! 納期のこと考えて仕事しなさい!」


「で、でも、付加価値は上がっただろ」


「納期に間に合わなかったら損するでしょ! あんたが素早く別の作業していると思って貴族向けの見学会の日程の段取りしているのよ!」


 ニーナの怒声で俺はシュンと縮こまるけれど、やってやったぜ、イェイ、という気持ちは消えなかった。

 他の仕事急いで頑張るか。


ーーー


 ゴンザレスがゴミ溜めで、勇者が破壊した外壁のかけらを拾って何か考えに耽っていた。これらは俺の魔法のリビルドの範囲外にあった地面に転がった破片だった。


 そのかけらをじっと見ていた。


「ゴンザレス、何してんだ」


「これ、何かに使えるんじゃないか?」


 俺にそうやって勇者の聖光魔法で『魔力焼け』した石材のかけらを見せた。踏む程度では割れないが、固いものをぶつければ簡単に欠けた。


「……これ、後で庭作る時に細かく砕いて庭に撒こう」


「ここの庭、水捌けが少し悪そうだからちょうどいいな」


「それもあるけれど、これ神聖属性が強く宿った石に変質してる。魔物やアンデット避けになる」


 ゴンザレスは虫眼鏡のような鑑定効果のある魔道具を取り出して、その瓦礫を見つめた。


「本当に強力な神聖属性が宿っていやがる。クソ勇者だと思っていたけど、いい置き土産もするんだな、ガハハハ」


 そういうわけで、この勇者の作った瓦礫は庭づくりの際に砕いて再利用することに決まった。

 恒久的な魔物避けがゼロゼニーなんてなかなかの節約だ。


ーーー


 バスルームの内装のタイルを土魔法で浮かび上がらせ終わると、ニーナが俺を呼んだ。


「ゴンザレスが、この書斎のこの部屋変だっていうんだけど」


「なあ、リファ、この部屋のここ、他より壁が厚くねぇか?」


 俺は土魔法で壁の内部を探る。罠のサーチと違って、詳細に調べていく。


 すると。


「……空洞? 地下に行く階段がある」


 はめ込み型の本棚の奥に、妙な凹みがある。


 そこを押すとかちりとはまる音が聞こえた。


 ゴゴゴゴ……と音を立てて隣の本棚が横にスライドした。


 暗闇の階段。


 登ってくるのは血臭。


「うっわー……」


 ニーナの心底嫌そうな顔が横に見えた。


「これは……」


「……地下室だな」


「違うわ……」


 ニーナは鼻をつまんだ。


「きっと、拷問部屋よ」


 俺はその拷問部屋の扉を開ける。

 すると即座に迫ってくる魔物がいた。いや、魔物になった人族のなれ果てのレイス。俺は急いで土魔法を唱える。床面から魔力を乗せたアースランスが音を超える速さで突き上げて出現してレイスを串刺しにして駆除した。

 アースランスは実体自体はないレイスを貫き、さらに天井を貫通し、上のフロアで破裂音が響いた。アースランスの材質は俺が作る土壁と同じ材質である。きっと、上の階の一室は壊滅的な破壊が起きたに違いない。

 想像して、めまいがした。目の前の幽霊よりもずっと怖い現実が待っている。

 案の定、レイスの断末魔とニーナ、ゴンザレスの断末魔が重なる。


「ああああ! リファ! なんてことを!」


 ニーナが俺の肩を掴んで揺さぶる。


「この上の部屋は!?」


 嫌な汗が出る。


「リビング! 床はチークのフローリング板張りの!」


 なんてこった……。

 頭でチャリーンと出費額が計算されていく。

 頭の中の数字を信じたくない。


「2500ゼニー分くらい?」


 恐る恐る俺はゴンザレスの方に視線を向けると、ゴンザレスの顔は引きつっていた。


「そんなわけないだろ!

 リビングには2万ゼニー分くらい使う予定だったはずだ!

 見てみないとわからんが、後で様子を見に……行きたくない……最悪だ……」


 最後の方は、ほとんどうめき声だった。


「……まあ、仕方ない。急に魔物が襲って来たんだからな……命があってなんぼだから……な」


 ゴンザレスの自分自身を落ち着かせるような悲しい声が、ひしひしと俺の胸を貫いた。

 部屋の中を確認すると、黒くなった血染みや傷、古今東西の拷問器具が転がっていた。

 壁には、爪で削ったような無数の傷跡が走っていた。その中に、何か文字が混じっていることに気づく。


   オネガイ コロシテ


 慌てて俺は目を逸らした。


 床には、血で描いた魔法陣があり、時間が経っているはずなのに、まだ黒く変色していない。


「悪魔降臨の儀式でもしていたのか?」


「犠牲者が多そうね。周りに浮遊霊を感じる。次にまたレイスが発生するかも」


 舌打ちが出そうになる。


「聖属性の石で埋め立てるか」


 ニーナは慌てて首を振る。


「ダメ! こういうのは別の部屋に住みつくだけ」


「つまり……」


 嫌な予感が、確信に変わる。


「不動産業の最悪の価値低下……心理的瑕疵物件……事故物件よ!」

 読んでいただきありがとうございました。

 明日も可能であれば3話更新します。

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