1章 1話 勇者がぶっ壊した湖畔の魔族幹部の屋敷のリフォーム
こちらの話は3月始めころに書いた短編を連載版として書き直したものです。
ストーリーの大筋は変わっていません。
ストーリーを読み直すのは面倒という方は1章の9話から読んでください。
「勇者がぶっ壊した、魔族幹部の屋敷よ」
……その言い方、絶対ロクでもない物件だろ。
『ニーナ』の転移魔法で湖畔に降り立った瞬間、視界が開ける。
水面が光を弾いて、やけに綺麗だった。
……だからこそ、それは余計に目立っていた。
真っ赤なチャイナ服のスリットをひらりと揺らしながら、ニーナが指差す。
その動きに、無駄に目がいく自分に軽く舌打ちしつつ、無理やり視線を引き剥がして、視線をその先に向ける
やっぱり、と俺は思わず飲んでいたパック牛乳を盛大に吹き出しそうになった。
そこにあったのは、瓦礫と言った方が適切な廃屋だった。
勇者『エンデルク』の野郎、やりやがったな。
外壁には聖光魔法による高熱の溶解跡。これで狙撃して殺そうとしたんだろう。
屋根は俺の後任の風魔法使いがブッ飛ばしたのか、半分以上が消失している。庭園は見る影もなく、魔物の腐った死骸だらけ。おまけに樹齢200年は超える巨木が日当たりを最高に悪くしている。
「勇者達の果敢なる戦いの結果ね。それでね……」
皮肉にしか聞こえないニーナの声で、あのクソ勇者の顔が、焼き付いたみたいに浮かぶ。
すると、説明するニーナの声はどんどん遠くなり、頭の中が、追放されたあの日のことで一杯になっていく。
ーーー
時々夢に見るほど苛立つ。
勇者パーティから追い出されたあの日だ。
転生してエルフになった俺には、土魔法の才能があった。
もう一度の人生というチャンスを目の前にした俺は、前世の現代で沢山の後悔を思い出し、死ぬ気で努力した。
その結果、エルフでもトップクラスの土魔法使いになった。
ドラゴンブレスを防ぐ防壁も、ミスリルゴーレムを貫く土槍も作れる。旅の夜も即席の土壁コテージを作って快適な夜を過ごせる。
俺は打倒魔王の意思を掲げた勇者パーティのメンバーとして活動しているだけの実力があると思っていた。
「おい、『リファ』……お前、使えねえよ」
リファ、それが俺の名前だ。
俺は、しばらく前から勇者から何かと詰められていた。
最近の空飛ぶ魔物に対する迎撃手段は俺になく、回復魔法の要、聖女『サン』の横で、彼女を守る防壁を建てるだけだった。正直、似たような役目は他の誰でもできた。
「でも、他の面で役に立っているだろ!」
「そもそも、お前さ、ケチすぎて息が詰まるんだよ」
そう、俺はケチだ。
前世が安月給だったせいで、金の管理にはうるさい。
無駄を削って、貯める。それが染み付いている。
そして、財布の紐が厳しかったからパーティの資金の管理も任されていた。
「いや、でも、金は大切に使わないと……」
「たまにはホテルで泊まらせてくれ。街についても、お前の作る土魔法のコテージで貧乏くさく寝泊まりするの嫌なんだよ。そのせいでみんな自炊上手くなったんだぞ」
「いいことじゃないか」
「違う、たまにはゆっくり休みたいんだ! 野営は疲れるんだよ!」
周囲の目を見る。
出ていけ、とは口には言わないけれど、目にはそう書いてある。
聖女サンの方を見ると困ったような顔をして
「私は嫌いじゃないんだけどなぁ……リファのコテージにみんなで作るご飯。……じゃあ、たまに宿に泊まりましょう?」
と小さく笑って、少しだけ肩をすくめて止めに入る。
でも、サン以外は俺を必要としていない感じなのは明らかで、俺は居づらくなった。そこにさらにエンデルクがたたみかける。
「だいたい、お前の言葉遣いが気に食わねえんだよ。女のくせに、俺とか言って気持ち悪いんだよ」
俺だって好きでこの身体になったわけじゃない。
気がつけば女エルフの赤ちゃんになって育てられていたんだ。
それなのに、それを理由に俺を否定されるのはどうしても許せなかった。
俺はカッとなって勇者エンデルクの左頬にグーパンチをお見舞いした。
少しふらついた勇者は俺の左頬に同様に右拳をお見舞いしやがった。まさに男女平等パンチだ。
小柄な俺はそのまま数メートル地面に転がり意識が飛んだ。
ーーー
「ねえ、リファ? ちゃんと話を聞いているの?」
目の前にはニーナ。
長身で、角の生えたドラゴン族。整った顔立ちに、妖艶なスタイルにあの格好。
今日は黒い長い髪を両サイドでお団子を作ったヘアスタイル。
……改めて見ると、目のやり場に困る。
見るなと言われてはいないけれど、無理だろこれは。
「すまない、ちょっと、ぼーっとしていた。もう一度話してくれ」
「大事な話なんだからしっかり聞いてよ。ゴンザレスもアルコールが入っていると思うけど大丈夫?」
『ゴンザレス』は髭モジャのドワーフ族の男だ。身長は140センチメートルくらいで絵に描いたようなガチムチ体型。力仕事も得意だけど、一番得意なのは木の加工や細工だ。
「エールなんて水と同じだ」
ゴンザレスは親指を立てた。
「そんなことを言って、誰かさんみたいに素っ裸にならなければいいけど。
じゃあ、話をもう一度するわね。数ヶ月前に勇者パーティによって魔族の幹部が討伐された」
俺はなんでもない風を装って、パック牛乳を飲みきる。この牛乳、美味いから飲み切らないで捨てるのもったいない。
「その舞台が幹部の屋敷の中。その屋敷が戦闘によってボロ屋になっていて景観が悪いから王国から解体依頼が出ているの。そして、同時に王国で同土地の販売が行われているの。貴族向けで」
ニーナは俺たちの前に解体依頼斡旋のチラシを広げ、さらに土地の販売チラシを広げた。
解体依頼書の金額は5万ゼニー。日本円にすると概ね500万円。
土地代は20万ゼニー。2000万円くらいだ。
「王国からは遠いけれど、近くには湖があるし、景観は最高だわ。流石、魔族幹部が住むくらいだし」
ニーナが持ってきた話、それは仕事……つまり……。
「リフォームして転売しましょう。これはすごい利益が出るわ」
そう、リフォームして転売する。
これが俺たちパーティの仕事だ。
読んでいただきありがとうございます。
本日は後二話分更新します。




