『婚約者の女友達に「こいつのことよろしくね?」をされましたがそんな男いりません。』の続きはこちらから。
婚約者の女友達に「こいつのことよろしくね?」をされましたがそんな男いりません。
「で、一応誘いに来たって訳なんだけど、エヴァーツ伯爵令嬢は来る?」
気軽に問いかけられて、ヘルガは笑顔が引きつらないようにするのが大変だった。
目の前にいる女性は、ヘルガの婚約者であるオスヴィンの肩に気軽に触れたり、顔に触れたり、我が物顔で隣に並んでいる。
彼女はレディング伯爵家の令嬢でカリーナと言うらしい。
オスヴィンからは、こうして顔を合わせる前から彼女のことをしょっちゅう聞いており、いわゆる彼の女友達であり親友と言うやつらしいのだ。
「おいおい、ヘルガに向かって来る? とかさすがに無礼だろ~! こいつは箱入りで冗談の通じないやつなんだから、騎士団の気軽なノリは通じないって」
「あははっ、そうだった、ごめんね? エヴァーツ伯爵令嬢様? あたしったらこういうところあるってよく言われて、あ、オスヴィンから聞いてる?」
「……いいえ」
「そうなんだ、あんま深い話? とかしない感じなんだね、あたしらと違って」
カリーナはオスヴィンの肩に手を置いて体重をかけるように寄りかかり、気さくそうに笑う。
たしかに、あまり深い交流を持っているわけでもないし、オスヴィンとは婚約者になって日も浅い。
今まで別々に生きてきたのだ、ヘルガよりも仲の良い友人などごまんといるだろう。
加えて騎士団というコミュニティに身を置いていれば、貴族という枠を超えて気さくに接する相手がいるのだって当然のことだ。
(ええ、当然です。当然のことです……それは理解していますが……)
カリーナの行動や言葉はあまりに攻撃性が高く、少なくともその所作でそれはもう深くつながりがあることは察せられる。
「そりゃそうさ、なんせ兄弟もいない跡取り令嬢なんだから、俺らと違って自由も少ない、その分お堅くてプライドも高い。そう簡単に打ち解けられないのさ。きっと気の知れた友人なんて……どうなんだよ? いるのか?」
そしてその攻撃性をわかっていながらも、オスヴィンはヘルガを立てることはない。
まるで他人のようにどうなんだと問いかけて、カリーナはその様子に「ちょっとぉ!」と大きな声を上げた。
「婚約者なのにかわいそう! もっと優しくしてあげないとモテないって」
「別にモテたいとか思ってないんだよな。俺はただ、気の知れた良い奴らと仕事して一緒に遊んでそういう人生が一番、充実してるって思うしな」
「ソレね! やっぱり婚約者より友達だなって、アハハ」
笑いながら、カリーナはオスヴィンの腿をパチンとたたいて笑う。
それにヘルガはいよいよ表情が引きつって「ははは」と乾いた笑いを返した。
「で? それで、遊猟会に来るのか? まぁ、周りは婚約者同伴はあんまいないと思うけど」
「まぁ、仕方ないよね。あたしたち、普通の貴族と違ってさ、遊びってよりも、本気のガチじゃん。そこに交じれるのなんて、あたしたちの先輩かよっぽど図太い人ぐらいじゃん?」
「だよな、で、どうする?」
聞かれてヘルガは『ええもちろん参加しましょう』と言って、当日も彼らの雰囲気をぶち壊すためにど真ん中にいてやろうかと思った。
それほど内心腹を立てていたし、ぐつぐつ煮立っていた。
しかし、理性が必死になって仕事をし、しばらくの沈黙の後「……遠慮しておきます」とやっとの思いで返した。
「そか、そおだよね。あたしたちとかもう粗野っていうかなんて言うか、さ」
カリーナはそれでもまだまだ言葉を紡ぐ。
オスヴィンはうんうんと彼女の言葉を聞いて笑みを浮かべている。とても満足そうだ。
「ごめんね? エヴァーツ伯爵令嬢様。ほんとはさ、こうやって一緒に誘いに来たのってあんたを見極めようかなって気もあったんだ」
「おいおい、素直かって」
「いや、だってあたし、空気読むとか無理だから、男より男してるから」
「たしかに」
「オスヴィンはさ、割となんて言うかがさつじゃん? そういうところあるし、適当なとこも多いけど、でもさ、内心繊細で、優しいとこもあるし、わかる?」
カリーナはヘルガがどんな顔をしていてもまったく黙る様子はない。
むしろ楽しげに続ける。
「そういうやつがさ、変な婚約者に良いようにされないか心配で、友達、ってか、親友として?」
「……」
「でもよかった、良い子みたいで、ね、コイツのことさ、こんなだけど」
言いながら、カリーナはオスヴィンに少し身を寄せて寄り添う。
「よろしくね? あたし、これでも友達思いなんだ」
「うわ、こわ~。お前が心配とか柄じゃなさ過ぎ」
「なんだとこのっ」
そう言って二人はじゃれついている。ヘルガは猛烈な疎外感とそして彼らのたちの悪さに、奥歯をかみしめて、決意を固めたのだった。
貴族社会というものは割と狭い。
それこそ同世代で家格が近い貴族同士で婚約者を探すと、婚約者の友人の婚約者が知り合いなんてことはざらというかしょっちゅうだ。
ただ、今回のヘルガはその普通の範疇よりも若干幸運だった。
幸運というか不幸とも言うべきか、カリーナが婚約しているラドフォード侯爵家の跡取り息子オリヴァーとは領地が隣ということもあって幼なじみである。
もしかすると、カリーナとオスヴィンが望んで隣り合った領地の跡取りにアプローチを掛けたと言う可能性もありそうではあるが何にせよカリーナの婚約者とヘルガはただならぬ仲だ。
そこで、一つ、策を打ち出すことにした。
間抜けな策だが、ああして実際に二人と出会ってみてヘルガはカリーナの持つ気持ちを確信していた。
だからこそ効くだろうとオリヴァーに話を持ちかけた。
久しぶりに訪れたラドフォード侯爵家のマナーハウスはなんだか懐かしく感じて、応接室の窓からは昔彼と走り回って遊んだ庭園が見えた。
「で、俺と君が? 本当にやるのか? たしかに俺の方にもオスヴィンとかいうカリーナの友人がやってきてカリーナとの仲を散々アピールしてたが……」
「それならばなおのこと、効果は見込めるでしょう。あなたが嫌ならば無理にとは言いません、しかしちょうど巡り合わせとでも言うように私たちは割と仲がよかった」
「……それはそうだが……」
ヘルガの言葉はきっぱりとしているが、オリヴァーはどこか煮え切らない態度だった。
二人きりで会わないようになってからもう随分とたつ。
ヘルガはとても良い案だと思ったが、オリヴァーからするとヘルガはそんなことをするほどの相手とはもう思っていないのかもしれない。
そう思うと、オスヴィンたちの行動に頭にきて、少しから回ってしまっただろうかと少し不安になった。
「いや……絶対笑うだろ。君が」
「……笑いませんけど」
「いや、笑う。俺も笑うと思う」
「え、笑わないでください。台無しですよ」
「え、だって、あれだろあれをやれって言うんだろ、あのいかにもなのを」
「ええ、そうですよ。いかにもを通り過ぎましょう。もっとです」
言いながらオリヴァーはすでに困ったように笑っていて、小さく肩を揺らすと彼の後ろに結ってある金髪が小さく揺れた。
「真面目だな、相変わらず。でもあれを通り越すってよっぽどだぞ、俺、あのオスヴィンとかいう男に『俺らは魂でつながってるっていうか?』って言われたんだぞ」
「っ、す、すごい」
「すごいって、さすがに見習うな。君がそんなことを言ったら、俺も調子を合わせないといけないだろ。じゃあ、なにか? 前世は恋人だったと思うとでも言うか?」
「良いですね」
「やめてくれ。ま、いいわかった。君は真剣だな、いつも」
話し出せば、オリヴァーは以前から知っている彼で、会わない期間があっても過ごした時間は変わらないのだと思う。
しかしそういう気の合う大切な相手がいたとしても、自分の状況に合った人と婚約して結婚する。
それは、自分も納得しての選択のはずだ。
少なくとも、ヘルガに異論はないし、大切な人がいたとしても異性であったら、結婚する相手よりも優先してはいけない。
結婚というのはお互いにたった一人としかできないことをすることだ。その相手に自分よりも大切な異性がいれば誰だって不快になる。
だからこそヘルガはオリヴァーとは会わないことを約束していた。
しかしオスヴィンとカリーナはそういう誠実さを欠いて自分たちだけ気持ちいい世界に浸ってあれもこれも手に入れようとしている。
それは、看過できることなんかではない。
だから動くべきだ。
「真剣というか、当たり前のことです。私たちは対等な人間なんですから、人にしたことは自分にも返ってくるのですよ。だから誠実に生きるのではないですか」
「うん。真面目だな」
「……うざったいですか?」
「別に、俺は嫌いじゃない」
「ふふっ、よかったです。では、共同戦線は成立ということでよろしいですね」
「おう」
そうしてオリヴァーとヘルガは堅く握手を交わして、たちの悪い二人を迎え撃つことにしたのだった。
ヘルガは遊猟会の話を聞きたいとオスヴィンを呼び出した。当然のようにカリーナも一緒にと言われたので、了承の手紙を返して、二人を迎え入れた。
すでにお茶会の用意をしたガゼボには何食わぬ顔で鎮座しているオリヴァーの姿がある。
オリヴァーはひらりと手を上げて「やぁ」と笑った。
その時点で、ヘルガは、ぐっと笑いを堪えた。
笑ってはいけないと思うとどうしても面白いのはなぜだろうか。
「え、オリヴァー様? 何でこんなところに?」
「たしかカリーナの婚約者だったよな?」
カリーナとオスヴィンは立ち止まって首をかしげるが、ヘルガは予定通りにオリヴァーの元へと向かって言って「紹介しますね」とわざと言った。
「こちら、私の幼なじみで親同士も公認の兄弟みたいに育ったラドフォード侯爵家跡取りのオリヴァーです。先日、二人の仲を見て私も二人に紹介をしたいなと思いまして」
「紹介しなくてもそこのカリーナは俺の婚約者だって。まったくヘルガは昔っからこうで、少し抜けているところがあるんだ、悪いな俺の、幼なじみが」
オリヴァーはすらすらと考え抜いた文言を口にして素晴らしい練度だ。
これなら、あの二人にも見劣りしないレベルだろう。
お互いにひっそりと練習をしただけある。
「まぁまぁ、座ってくれ。今日は二人の話を聞きに来たんだ」
「そうですよ。どうぞおかけください」
まず先に、オリヴァーが彼らに対して掛けてと言う、これもまたそれらしさを追求した故の結果だ。
ヘルガとオリヴァーは出会い頭から、隙がないほど本気だった。
「……」
「あ、ああ」
その様子にカリーナは黙って、オスヴィンは気まずそうにオリヴァーを見ながらもガゼボのテーブルセットに腰掛ける。
ヘルガとオリヴァー、オスヴィンとカリーナがそれぞれ並んで向き合うような形だった。
「……それにしても、驚いた。まさかカリーナの婚約者がいるとは……な?」
「ま、まぁ、たしかに。それにオリヴァー様も言ってくれればよかったのに」
「そうでしょうか? オリヴァーもまだ婚約者となって日が浅いあなたに言うよりも私から紹介を受けたかったのだと思いますよ。なんせ、私たちの付き合いは生まれたときからと言っても過言ではありません」
「生まれた時からと言えば、俺たちは誕生日も近いんだよな。誕生日プレゼントの交換なんかしてみたりしてたな。懐かしいな? ヘルガ」
「もう、そんな昔の話、恥ずかしいですよ。ふふっ、何年続いたんですっけ?」
「十年?」
「もっとでは?」
「そうだったかも」
オリヴァーとヘルガはニコニコ笑って、隙を見せずに話の流れなど無視して二人のエピソードをドカドカと投入していく。
それにオスヴィンはぎこちなく笑って、乾いた笑みを浮かべる。
その笑みは軽蔑に近しいものだったので、もしかすると自分のことを棚上げしているのかもしれないし、はたまた自分たちの痛々しさに気がついたのかもしれない。
しかしカリーナは違う。
彼女は、真顔になってしばらくヘルガのことを見つめた。
それからオリヴァーの方へと目線をやるが、彼はヘルガのことを見つめているだけで目もあわない。
その様子に目くじらを立てて、あからさまにオスヴィンに寄り添って、甘えるような声を出した。
「でも幼なじみって、結局、一緒にいる期間が長いってだけで、気持ちの面では全然お互い理解できてなかったりするし、あたしたちなんて遊猟会で二人で協力して、さ?」
そうしてカリーナはオスヴィンにアイコンタクトを送るが、彼の反応がワンテンポ遅れたことによって、ヘルガがすかさず言葉を挟む。
「協力してと言えば、私たち、王宮事務官の試験には一緒に挑んだんですよね」
「あのときは大変だったな。でも、君の苦手な部分は俺が、俺の苦手な部分は君が教えて、そうやってお互いに勉強を教え合ったりして」
「二人とも同期で合格できて、本当に大変だったけれど充実した日々だったのよね」
「また受けたくなるぐらい?」
「もうごめんよ」
うふふ、アハハ、そうして話をかっさらって隙と言えない隙にもアピールをねじ込む。
「で、でも、どうせ跡取り同士の関係なんて、所詮は別々の場所で自分の領地のことばっかりになっちゃうでしょ」
「ああ、あなたはオリヴァーとは関係が浅いですもんね。知らないようですが、私たちは領地同士でも共同事業が盛んでして、お互いにむしろ共同経営に近いレベルで協力しているんです」
「それにお互いなにを考えているかきちんとわかっていないと対応できないような緊急事態もある。そういうときのために日々交流を深めることになってるんだよな」
「これからも一生ずっと、領地に縛られるのですからお互いに絶対に離れられない関係と言っても過言ではない」
「やめてしまえば関係なくなる職場の関係とは違うよな、俺ら」
カリーナはヘルガとオリヴァーの返答に、ぐっと拳を握って、さらに思考を巡らせて言葉を続ける。
「でも、あたしたちはお互い替えが利かないと思うぐらい特別なの、そういう気持ちっていうか、絆が――」
「絆と言えば、あのときの約束覚えてるか? ヘルガ」
「当然です。兄弟のいない私にとってオリヴァーは兄のような存在、ずっとこうして今まで通り守ってくれると約束してくれたことがありましたよね」
「幼い頃過ぎて覚えてないと思ってた。恥ずかしいな」
「いえいえ、私にとっても嬉しくて『特別な絆』を感じた出来事でした。私にとってあなたは特別」
「でもっ」
「俺にとっても君は唯一、心の底からたった一人だけ想う家族以上の存在だ」
「ちょっとっ!」
「家族以上、いいえもっと、私の魂の求めるピースの一部、元々きっと一つの存在だったのかも」
ヘルガはさらにあらん限りの語彙をもってして、カリーナのことなど無視して二人の世界を構築する。
オリヴァーが吹き出さないかだけが心配だったが彼は、照れてるんだかなんだかわからない顔で笑って、深く頷いた。
「君以外は俺もでくの坊に見える。君以外の人間なんて、誰だってどんな立場だってその他大勢の一部でしかないな」
「ええ、あなたの存在以上に勝るものなど、私にとってこの世のどこにもありません!」
「……ありがとう」
「いいえ、どういたしまして、こちらこそありがとう」
普通にこんなことなど言えないが、作戦と思えばすらすらと言葉が出てくる。
それはすがすがしくもあり、それからしばらくオリヴァーと見つめ合ってからカリーナに目線を戻した。
そうして、ふっと微笑み、謝罪した。
「ああ、ごめんなさい。婚約者の方がいるのにこんなこと。でも決して横取りするつもりなんてありませんよ。オリヴァーはあなたをその他大勢同然にしか見ることができなくてもきちんと愛する誠実な人ですから、邪魔立てなどしません」
「…………」
カリーナは青筋を立てて怒りをあらわにしているがさらに言葉を紡ぐ。
「それにあなたもいるではないですか、職場つながりの一緒にいて楽しい程度の友人が、お互い様、ですね?」
「っは?」
「お互い様、ですよ」
「っ、っ~……あんたたちより、あた、あたしたちの方が、っ……あんたなんかより……」
「え?」
カリーナが必死になって紡ぎ出す言葉に聞き返し、ヘルガは余裕の笑みを崩さなかった。
どんなことでも言って見るといい、すべてシミュレーションして対策済だ。
上回る素晴らしい絆をごらんに入れようではないか。
「っも、もういい!! もういい!」
「カ、カリーナ」
「帰る!!」
「ちょっと待て、おい!」
そうしてカリーナは椅子を蹴飛ばすように立ち上がって、一人で庭園を後にする。
気まずいようにオスヴィンはこちらを見たけれど、「行ってあげてください」とヘルガは優しく言って彼も去って行った。
その後すぐのことである、彼らは乱れた関係性になった。
むしろそれを他人に見せつけるようになり、証拠を用意するのなど簡単で、婚約破棄は慰謝料をもらってすることができた。
職場内での不貞行為として彼らは解雇されたらしい。
跡取りではない汚点のついた二人が、職も失い一緒になれる未来などあるだろうか。
二人の絆が本物ならば、それもありえるだろうが、オスヴィンからは復縁の要請と謝罪そして、カリーナを罵る手紙が未だに届き続けているので、あり得ないことだろうと結論づけたヘルガだった。
「笑ってくれ」
オリヴァーはそう言って、彼自身も適当に笑った。
その笑顔はなんだか痛ましいと言うか、無理矢理笑っているような様子で、ヘルガはとてもそんな気持ちにはなれない。
「笑ったりなんか……しません」
「でもお笑い草だろこんなの、あくまでただの協力関係、お互いに気持ちよく結婚生活送るための策だったのに」
「……」
「笑ってくれよ。弟には大分グチグチ言われたんだ。父親はあきれてたな」
その言葉に、その程度で済んでよかったとヘルガは思った。
それは突然のことだった。
ああして婚約破棄できて、これからもまた今までと同じように、きちんと距離を保ってお互いになんとなく幸せになってほしいと願いながら自分の人生を生きる。
その予定だったが、オリヴァーは跡取りを降りようと思っているとヘルガに伝えて、そして本当にその通りにした。
幸い彼には年の近い弟がおり、無理をすればそのようなこともできなくはない。
しかしヘルガたちは責任のある貴族だ。当然多くの人が混乱するし、気持ちの変化だけでそういったことをするのはとても珍しいことだ。
そこまでしてオリヴァーがなにをしたかったのかと言うと……。
「それでも、君と一緒になりたかった。お互い婚約者を見つけようってなった数年前は、まぁ、誰でも長く一緒にいればヘルガといる時みたいに当たり前に通じ合ってるって思えるのかもって考えてたんだ」
「……」
「でも、まぁ、どうやら人間はそんな簡単じゃないらしいし、俺は君がいい。離れてから思い知って、めちゃくちゃに気持ち以上の言葉を言ってみて自分の言ってる言葉があながち嘘じゃないって気がついた」
「……」
「むしろ、大体本音だ。で、それでも自分の立場をそのままに君を想うようなことがあったら、それこそオスヴィンとカリーナとなにもかわらない。だから俺なりのけじめだ」
オリヴァーはあれ以来、言葉が酷くストレートだ。
昔はこんなことめったに口にしたことがなかったのに、彼のタガをヘルガの作戦が外してしまったらしい。
そしてあのときの言葉は、完璧な演技と完璧なシミュレーションの元に成り立っていたものだから当たり前のこととして受け入れていたが、本音だと言われるとそうもいかない。
「自分は跡取りだっていうアイデンティティーは確かに俺の一部だったけど、それ以前に君と過ごす人生の方が俺にとって魅力的だった。たしかに無理はした、でも別に拒否権もある。滑稽なことしてるだろ、だから笑って振ってもいい」
「っ、わ、笑えるわけがありません」
「……」
(跡取りの地位より、魅力的なんて……あなたがそんなことを本音で言うなんて……)
彼がそのためにどんな努力をしていたか、ヘルガは一緒に頑張ったから知っている。
その上で、それらを活かせる道よりもヘルガを選ぶ彼の言葉は酷く重たくて、そして甘い甘い愛の言葉だった。
「笑えるわけ…………嬉しくないわけないじゃないですか」
そんな甘い言葉を人に言われたのは初めてだった。
それもオリヴァーからなんて嬉しくないはずがない。
まだまだ未熟で短い人生だが、その中でも一番大切な人からの言葉だ。
そんな彼の言葉を笑うわけもない。
「あなたの気持ちが嬉しくないわけないでしょう。私、っ、もっ好きですよ。あなたが、でも私はここを動けない。言えるはずもありません」
「だろうな」
「あなたに負担をかけたくもなかった。私は動けないのに、あなたに代償を支払ってほしくなかった」
「……」
「……でも、あなたは覚悟して私の元へと来てくれました。私を思う気持ちを一番優先してくれました。私がやるべきことは、なにがなんでもあなたを幸せにすることです。笑うことではなく」
「っふ、はは。重く捉えすぎだ」
「いいえ、一生かけて大事にします。幸福にしたいんです」
「あー……うん。ありがとう」
ヘルガが決意の決まった表情でぐっと彼を睨みつけるように言うと、オリヴァーはやっぱり笑って、照れたように頬を染めて返したのだった。
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