第9話 ゲーム婚
「……ミツル、奥さんがいたの?」
ロニが、目を丸くした。
だろうな。こんな見るからに非モテなヤロウに、嫁がいるなんて。
オレだって驚くさ。というか、本人が一番驚いている。
「いやいや、ゲームの中でだからな!」
「ゲームの?」
そうか。ゲームのような世界の住人であるロニには、ちょっと難解だったかもな。
「マリエは、オレのスポンサーみたいなもんだ!」
オレとマリエ、毬江・ヴィッカーズは、【フュージョン・ワールド】内で結婚をした仲だ。
知り合ったのは、FIREコミュニティである。
周囲と浮いていた者同士、すぐに意気投合した。
【フュージョン・ワールド】をやっていて、しかもパーティの一人だったと気づく。
そのまま、ゲーム内で結婚までしたのである。
オレが主にダンジョンを攻略して、コイツは経営・建築などのサブクエストをこなしまくっていた。
実際、在宅ビジネスで儲けているし。
美人さんだったので、カレシ持ちだと思っていたし、実際に。
「コイツには、ちゃんとカレシがいるから!」
オレは確かに、マリエが他の男とつるんでいる現場を目撃した。
「いないって! 妹のダンナだっての!」
マリエが、オレにスマホを見せてくる。
ウェディングドレスを着たマリエの妹と、オレが目撃した男が写っている。
「ホントだ! 妹の夫じゃねえか! そんな男といっしょにいたとは!」
「だから! 妹の誕生日プレゼントを選んでたの! あんたの誕生日プレゼントを選んでもらう条件で!」
マジかよ。
「なにももらってないぞ?」
「今、渡すわよ」
マリエから渡されたのは、婚姻届だった。
「プレゼントは、あたしが一番いいんじゃね? って。だよねーって、あたしも即答しちゃった」
おおう……。
「いやあ、お前とはブロマンス、いやロマンシスっていうのか? 男女を超えた友情を育みたかったんだが」
「男女間の友情なんて、成立しないわよ」
「本音は?」
「好き! 女の口から言わせんな」
ガチかよ。アラサーだから、身を固めたいとばかり思っていたが。
ギルドのソファの上で三角座りをしながら、ロニが手を叩く。
「で、ミツル。この子が?」
「ロニだ。異世界から来た女の子だ。オレとコンパニオン契約を結びたいって」
オレに紹介され、ロニが「よろしく」と小さくあいさつをした。
「こちらこそ、よろしく。毬江・ヴィッカースよ。ミツルと同じ冒険者で、ヒール担当」
といっても、マリエはソロでガンガン進むのが好きな「殴りヒーラー」だ。
「なにか言いたそうね?」
「なにも。それより……」
オレが言いたいことを察したのか、マリエもうなずく。
「なあマリエ、話すにしても、場所を変えないか? ここだと人目につく」
実際、小さい少女がずっとダンジョン受付のフロントでちょこんと座っているため、好奇の目で見られていた。
「ロニ、門限とかはあるか?」
「もう夜だし。明日の夕方に、帰ろうかなって」
余計に帰さないといけない時間だ。
しかし、夜では異世界側も危ない。モンスターも強くなるし、盗賊も現れる時間だろう。
地球に連れて帰ったほうが、よさそうだ。
「すいません。この子はウチのパーティにいる女性の冒険者が、責任を持って預かります。ギルドから、保護していると言っておいていただけますか?」
「はい。妖精を保護したことは内密にして、プチ家出程度の処置でよろしいですね?」
「助かります」
話のわかる受付さんで、よかった。
「結局、連れて帰るのね?」
「夜のほうが、ダンジョンは危ない。緊急の処置だよ」
受付のお姉さんには、刺激しないでほしいと伝えてある。
お姉さんも、うまくやってくれるだろう。
「あたしの家で、いいわよね? 地球産の女モノが、ほしいんだったら」
「助かる。頼む」
ムサいおっさんの家に、JKにも満たない女の子を上げるわけにはいかない。
オレは、ロニをマリエの車に乗せる。
ロニは車の乗り方はわかるようで、すんなりと乗り込んだ。
「たしかに変よね。『ロニ』なんてキャラクター、知らないわ」
運転しながら、後部座席のオレに話しかけてくる。
「ああ。たしかにな」
「ゲームとは、違った世界観みたい」
「そうなんだよ」
その実態を探るためにも、ロニは必要だ。
「今後もロニとは、コンタクトを取ったほうがいいと思ってな。お前の意見を聞きたかったんだ」
「ええ。同性同士なら、話しづらいことも聞き出せるだろうし。なにより、地球に住みたいなら、勝手を知ってる人物がいたほうがいいでしょうね」
オレたちの会話を聞いて、ロニは変装を解く。
「自分が男性として見られていないと、ようやくわかったようだな」
「違う。お世話になるんだから、身分は明かしておかないと」
律儀だな。
「私の本当の名前は、ヴェロニカ・ステンホルム」
「ステンホルム! ああ。思い出した」
オレが助けた、商家の娘じゃないか。
「知ってるわ。あなたたしか、誘拐された女の子を連れ戻してほしいって、商会から依頼されたのよね?」
「そうだよ。もう一〇年近く前の話だ」
あの仕事は、超儲かった。
依頼料だけではなく、盗賊団からの戦利品も根こそぎもらっていったから。
「え、ちょっとまって。まさかヒガンって」
「オレのことだ」
「えええええ!?」
◆ 閑話 ロニ ◆
私のあこがれの人、ヒガンは、風のような人だった。
六歳の頃、私は誘拐されたことがある。
盗賊たちは、縛られた私を観察していた。
「間違いない。ヴェロニカ。ステンホルム商会のご令嬢様だ」
グヘヘといやらしい笑い声で、私を品定めしていた。
「身代金、どれだけふんだくれるかな?」
「バカ言え。コイツはヘンタイに売るんだよ」
私をどう始末しようか、盗賊たちが話し合っている。
「売っぱらっちまう前に、俺たちで楽しむのもいいよな?」
「相手はガキだぜ?」
「でも、ガキだとは思えないくらいの美人さんだぜ? 手を出すなってほうが、ムリがあるってもんよ」
盗賊の手が、私に伸びてきたときだった。
風が吹く。
同時に、盗賊たちがバタバタと倒れていった。
一人の冒険者が、あっという間に盗賊共を気絶させたのである。
その冒険者は、盗品をかっぱらうことにしか興味がなかった。
だが、私にはわかる。
彼は幼い私が怖がらないように、あえて手加減をして相手をぶちのめしたのだと。
その卓越した魔法と格闘技術に、私はすぐ魅了された。
成長してすぐ、私は魔法科学校の門を叩く。
商家といえど平民の娘なので、学内の風当たりも強かった。
けど、実力で黙らせていく。
首席と言っても、せいぜい実戦のみ。
知識や技量に関しては、他の生徒のほうが上だ。
それでも、母親を説得するには、十分ではない。
もっと強くならないと、自由は手に入らないだろう。
今の私は、助けてくれた冒険者の足元にも及ばない 。
いつか私は、あの人と肩を並べる。
しかし、どこを探しても、あの人の情報はない。
ステンホルムの情報網を持ってしても、そんな人物の痕跡は見当たらなかった。
私だけが、覚えている。
ヒガン……私のあこがれの人が、眼の前に!?
(第一章 完)




