第13話 妖精の指輪
「とはいえ、ミツル。違法ダンジョン取締なんて、お役所の仕事よ。あたしたちには関係ないわ」
そうだな。警察に任せるべきだ。
最悪、オレより強い冒険者がやってくれるだろう。
「変な気は起こさないことね」
「冗談じゃねえよ」
自分からヤブをつつくマネなんて、しない。
「こんなときに、ヒガンがいたら」
「だから言っただろ、ロニ。ヒガンはもういない」
「わかってるけど……」
まだロニは、納得していない様子である。
「ところでロニ、妖精からなんかもらったよな?」
ギルドに妖精を預けた際、ロニは妖精からシードらしき宝石をもらっていた。肌色の宝石である。
「このシード、【魔力自動回復】効果がある」
「いいわね、それ!」
米粒ほどの小ささなのに、そんなどえらい効果があるのかよ。うらやましい。
「もらっていいのかな?」
「もちろん。間違いなく、それはお前さんのものだ」
ロニは、シードを握りしめた。
マリエに車で送ってもらい、ギルドへ向かう。
ロニの母親に会いに行くためには、昨日のダンジョンを抜けなければならない。
「ミツルさん、ロニさん。マリエさんも。こんにちは」
受付のお姉さんが、うれしそうに声を掛けてきた。
「ロニさん、コンパニオンの登録でしたね。どうぞ、お手をこちらへ」
「お願いします」
恐る恐る、ロニが手の甲を差し出す。
「大きい声では言えませんが、偽名でも登録は可能です」
ホントに小さい声で、受付のお姉さんは教えてくれる。ロニの事情を、察しているのだろう。
「大丈夫?」
「そんなコンパニオンは多いです。お忍びのお姫様など」
さらに声を小さくして、受付さんが教えてくれた。
なるほどね。こっちにだって、お忍びの社長とかがダンジョン探索をしてるんだ。向こうの世界で、そんなことが起きてもおかしくはない。
「我々は、異世界の事情に口出しはできません。あちらのVIPをダンジョンに出入りさせてはいけないという法律も、こちらには整備されておりませんので。今のところは、ですが」
お姉さんの言葉に、ロニはコクコクとうなずく。
「……ロニで」
これは、「自分が偽名を使っている」と認めた証拠だ。
だが、お姉さんは受け入れてくれる。
「いいんだな?」
えらいアバウトな、登録方法だと思うが。
「コードを追跡したら、すぐに当人が何者かわかりますからね」
なるほど。「ギルドだって、クリーンではないんだぜ」、ってわけですかい。
「あの妖精は、元気にやっていますか?」
ロニが、さっそく妖精の状態を聞き出す。
「おかげさまで。なんのトラブルも起きていません。あと、関係ないと思いますが」
違法ダンジョンが建てられているらしき場所を、お姉さんが教えてくれる。
「一応、討伐依頼は出しています。ですが、率先して調査しようという冒険者は集まっていません」
だろうな。
富裕層はダンジョン攻略エンジョイ勢だし、積極的に関わるのを避ける。
低所得者連中は、トラブルがあったほうがうれしい。違法ダンジョンがあるなら、むしろ大歓迎だろう。
うわー。イヤな予感がするなあ。
「マリエさんではなく、ドロイドを同行させるのですね?」
「そうよ。この子の登録をお願い」
マリエは車の中で、キナ子の遠隔操作するという。
『キナ子です。今日は、よろしくおねがいします』
ロニに続いて、キナ子も冒険者の登録を行う。受付の前面パネルに表示されたQRコードを、目の位置にあるカメラで読み取った。
マリエのデータと、照合しているようだ。
「ギルドと、承諾が取れました。キナ子さん。これであなたも、あちらで魔法やスキルが使えますよ」
『ありがとうございます。では、まいりましょう』
はやる気持ちを抑えて、ドワーフの鍛冶屋へ。
「こんにちはー」
鍛冶屋にいる冒険者に、声を掛けられた。
「こ、こんにちは」
気後れして、ロニがあいさつをする。
「コンパニオンを、連れていらっしゃるんですか? 現地人のガイドさんなんて、うらやましいですね」
「ええ。おかげさまで」
頭を掻きながら、オレは会釈した。
装備から見ても、わかる。彼らは富裕層だ。
「まるでグランピングにでも出かけるような、軽装だね」
小声で、ロニがオレに語りかけてきた。
「とはいえ、ロニ。彼らは決して、ダンジョンをナメているわけではない」
ドワーフから、装備品の注意点をしっかりと聞いている。どこまで理解しているかは、わからないけど。
「待たせたね」
富裕層の客が帰っていき、鍛冶屋がオレの方を向いた。
「指輪を、見繕って」
ロニが、鍛冶屋に指を見せる。
「おう。待っててね」
銀細工の載ったトレイを、鍛冶屋は持ってきてくれた。
「そのシードは【レベル:二五】、レア等級じゃないか。こんな低レベルダンジョンで、お目にかかれるアイテムじゃないよ」
「じゃあ、こういう指輪がいいんじゃないかな?」
オレは、チョイスしてみる。
「ダメ。シードとケンカする」
だが、ロニは首を振った。
「レア等級以上は、装備に【相性】があるんだよ。高い等級同士を掛け合わせても、決していい装備になるとは限らない。変な組み合わせにすると、ケンカをしてしまうんだよ」
「そういうもんなんだな」
ゲームをプレイしていた当時は、わからなかったが。
『ヒガン』は、装備に依存しない貧乏装備・スキル重視のビルドである。
基本拾ったアイテムは全部売り飛ばす前提で、組んだビルドだったからだ。
「これがいいかな」
一番シンプルな指輪を、ロニはチョイスする。
レアでもない、安い指輪でいいのか?
「これが一番、しっくり来ると思う」
「お目が高いね。お嬢ちゃん」
鍛冶屋も、納得している。
ロニは指輪に、妖精からもらったシードをはめ込んだ。
シードは、ロニの指輪にピッタリ収まる。
「【妖精の指輪】ってアイテムに、変わったな?」
「ただの指輪でも、工夫次第でマジックアイテムになるんだ。位の高いアイテムなら、なおさらね」
オレの【ファイアソード】のようなものか。
それにしても、アイテムに相性があるとは。
これがわかっただけでも、勉強になったよ。




