第11話 あこがれの人はどこへ?
オレが言うと、ロニは絶望感を表に出す。
「ウソ」
「正確には、ヒガンの力を失った」
「ゲームのアカウントがなくなったため、データが消失した」なんて言っても、ロニには意味がわからないだろう。
なので、「ヒガンとしての能力をロストした」ということにした。
オレも名残惜しいが、運営の都合なら仕方がない。
「でもヒガンって、ミツルなんでしょ?」
「ああ。だが、今のオレはヒガンじゃない」
オレは、ロニからナゲットをもらう。
「戦い方は、ヒガンに近かったよ。必要最低限の力で、最大限の成果を出す感じは」
それは、うれしいな。そう言ってもらえるのは。
「とはいえ、オレはもうヒガンほどは強くない。一から鍛え直しになる」
だから、魔法のレクチャーの提案も、すぐに賛成した。
「運営の方にも、ヒガンの強さを取り戻せないかって、掛け合ってみるわ。アンタには、ゲームの頃から世話になったものね」
「ありがたい。頼むよ、マリエ」
【フュージョン・ワールド】は、現実ともシンクロしている可能性が高い。
ならば、ヒガンのデータだってきっと取り戻せるはず。
望みは薄い。しかし、やってみる価値はあるだろう。
「ヒガンより強くなるには、魔法の習得は必要だな。だから、ロニをコンパニオンにはしたいと思っている」
「私でよかったら、力になるよ」
「助かる」
オレとしては冒険の同行より、指導員として採用したいのだが。
ロニ自身は、冒険に出たがるだろうな。
ムダに高い正義感や、どこから湧き上がるのか不明な責任感が、彼女を掻き立てている。
「ホントに、ここに住んでいいの?」
「交渉次第よ。ロニちゃんがお母さんを説得できなかったら、この話は流れるわね」
マリエが、ギョーザをつまむ。
ロニも、マネをする。うまかったのか、目を見開いてイスから飛び上がりそうになっていた。
「あたしも、ロニちゃんがよければ、ここを提供してもいいわ。話し相手も欲しかったし」
「そうか。ありがとうな」
オレは、ラーメンをすする。
「何を言ってんのよ。アンタも、うちに来るのよ?」
ラーメンをすする手を、オレは止めた。
「オレが? どうして?」
「結婚するじゃん」
「え」
あの話、マジだったのか。
冗談だと、思っていたんだけどな。
「ロニちゃんの件が片付いたら、次はアンタだから。役所についてきてよ」
おおう。どうやら、本当のようだ。
「一度だけ聞くわ。嫌だったら言ってちょうだい。あきらめるから」
オレは、マリエに腰を折る。
「よろしくお願いします」
「それは、好きと捉えても?」
「マリエとオレでは、絶対釣り合わないって思っていたから、オレのほうが萎縮してた」
こんなに思ってくれている人を、ほうってはおけない。
実際、ロニが冒険者になるなら、住む場所も必要である。
図々しい言い方になってしまうけど、ここならと思ってしまった。
「私、ここにいたい! 地球に住みたい!」
まるで都会に出たいという田舎少女みたいなことを、ロニは言う。
「それは、ギョーザがうまかったからか?」
「それもある。でも、ここで暮らしたい」
「親と離れ離れになるぞ」
「いいよ。お母さんはずっと仕事で忙しいし。ネグレクトとかはないよ。こっちが、負担になりたくないんだ」
母は仕事人間らしく、妊娠中も業務を続行していた。
そのせいで、家庭にいてほしかった夫と衝突が絶えなかったらしい。
結局、まだ物心ついていないロニを置いて、出ていってしまったという。
「お母さんを安心させたいのね。だったら、なおさらまともに説得する必要があるわよ。すれ違ったままでは、ダメね」
「わかってる。でも、私が誘拐された過去があるから、どうしても過保護気味になっちゃってさ」
どうも母親は、ロニの誘拐は自分の落ち度だと、責任を感じているようなのだ。
「じゃあ、自立することは賛成されても、冒険者になることを反対されそうなんだな?」
「かもしれない」
弱ったな。
モソモソと、テーブルに咀嚼音だけが響く。
「マリエ。オレもピザ、もらっていいか?」
「どうぞ」
マルゲリータに手をつけ、かじった。まだ温かいため、チーズがにょーんと伸びる。
「それ面白い。私の世界でも地球に似せた料理を作っているけど、そこまで再現度は高くない。びろーんって伸びるチーズなんて、向こうでは珍しいよ」
「そうか? 日本が特殊すぎるだけだ」
日本の食文化自体が、世界でも珍しい。本場イタリアのピザ屋にはカトラリーがあり、手づかみでは食わないらしい。チーズも、そこまで伸びないって聞く。
「そのうち、お前さんの世界にも電話が普及して、デリが流行るようになるさ」
オレがロニに、語りかけていたときだ。
「……それよ!」
「あああああ!」と言いながら、マリエが頭を抱える。
「あたしの、おバカ! すん、っげえ簡単だったわ。なにが最強の在宅ワーカーよ? アホすぎるわね。単純なことを思いつかないなんて」
「どうしたんだよ、マリエ。いきなり?」
「ロニちゃんが、こっちにいられる超絶簡単な方法を、思いついたのよ」
「どうやって?」
「地球で仕事を見つけたことにすればいいのよ」




