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世界にダンジョンができたせいでセミリタイアに失敗した男、冒険者になって無双  作者: 椎名 富比路
第二章 FIRE失敗民、異世界地元民の少女を母親と和解させる

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第10話 歓迎会

「どうぞ、ミツル。ロニちゃんも」


 マリエの家に到着した。こじんまりとしているが、二階建ての一軒家である。


 妹夫婦は出ていったので、二世帯住宅ではない。


 そもそも、両親も家を出て度に出ちまったらしいが。

 

「すごい。マリエって、どんな仕事をしているの?」


 ロニも、さすがに商家の娘だ。冒険者だけの稼ぎでココまで大きな家を維持できないってわかっている。


「家に上がったら、わかるわよ。ロニちゃん」


「じゃあ、お邪魔します」


 おそるおそる、ロニが家の前にあいさつをした。


『おかえりなさいませ、マリエ様』


 下半身がストレッチャーになったロボットが、出迎える。

 形状はネコミミメイドの姿で、服装はステンドグラス型のランプを思わせた。


「ゴーレム!」


 未知の物体に、思わずロニが身構える。

 

『これはこれは、リトルレディ。ごきげんよう。ワタシの名前は、キナ子です。マリエお嬢様の手で作られた、ドロイドです』


 ラテン語で「機械」を意味する言葉「マキナ」をもじって、つけられた名前である。


「こっちでは、はじめましてだな。ミツルだ。よろしくな」


『ミツル様。いつぞやは、戦闘サポートをありがとうございました』


【フュージョン・ワールド】を遊んでいたとき、コイツはオレと、ダンジョンでパーティを何度か組んでいた。

 もっぱら、戦闘データ取りの手伝いばかりだが。

 

『リトルレディ、こちらでは、お履物を脱いでくださいませんか?』


 キナ子が、ツインテ型のアンテナをピョコピョコと動かす。


「……あっと。そうでした。ごめんなさい」

 

 ロニがスマホを確認して、日本のマナーを読み漁った。理解したのか、玄関で靴を脱いだ。


 オレも初めて入ったが、デカい家である。

 

 家電の大半は、AIで制御されていた。マリエがいちいち指示をしなくても、勝手に電気がついて風呂が沸く。掃除も、事前に済ませてあった。

 マリエはこの手の天才肌によくある「ゴミ屋敷干物女」とは、無縁なのである。干物なのは、同じだが。

 

「見ての通り、あたしの仕事はダンジョン用ドロイドの開発なの。AIを搭載した人型ドローンにダンジョンを探索させて、探検記をネットにまとめているの」


 初心者向けのダンジョンを主に拠点としていて、動画配信なども撮影しているのだ。


 ほぼ在宅でできるため、家からはあまり出ない。


「元はバリバリの学者だったんだけど、膨大な研究費用が必要になってきてね。昼はOLやって、投資の種銭を稼いでいたのよ」


「投資の知識は?」


「ウチは父が外国人だから、投資のノウハウはあらかじめ聞いていたの。ティーンの前から投資はしていたわ」


 三千万止まりであるアッパーマスのオレと違って、コイツはゴリッゴリ富裕層、一億円ホルダーである。である。五千万までは、自力で資産を増やした。もう半分は、親からの小遣いをせっせと投資信託で増やした。


『マリエお嬢様は、超富裕層まで、あと一歩ってところです』


「だろうよ」


 でなければ、こんな高性能ドロイドは作れない。


「稼げる仕事をやめて、冒険者になったんだ。しかも自分ではなく、ドロイドを開発して」


「だって、つまんないわよ。仕事ばっかりの人生なんて」


 マリエもオレと同じで、自由時間を仕事に取られたくないタイプなのだ。


 時間があったら、遊んでいたい。


 金と休みのどちらかなら、休みを選ぶ。


「どうしてドロイドに、冒険をやらせているの?」


「あたしが死んだら、代わりはいないもの」


 アニメのパロディセリフを、マリエがのたまう。


「三〇年以上昔のネタじゃん。どこで覚えた?」


「んなもん、必須科目よ。知ってて当然。今はなんでもサブスクで見られる時代よ。世代なんて軽く飛び越えるんだから」

 

 ロニが仲間に加わったので、歓迎会をする流れになった。


『マリエお嬢様、お食事のご用意は無用とのことでしたが?』


「ええ。デリを頼んだから」


『デリバリーで頼めるものでしたら、ある程度は作りますのに』


「来客ですからね。それっぽいおもてなしをしたかったのよ。あなたに頼んだら、腕によりをかけすぎて、時間がかかっちゃうでしょ?」


『そうに違いありません。マリエお嬢様に久々のお客様とあっては』


 こういった会話を聞いていると、「ああ、マリエが作ったドロイドだわー」と思えてくる。 


 出前が来た。


 キナ子のようなドロイドたち次々と受け取って、キッチンへ運ぶ。


「みんな食べたいものが、見事にバラバラね」


 ラインナップを見て、マリエがテーブルに料理を並べていく。


 マリエは、寿司とピザ。オレたちがなにを好きかわからないため、好きそうなものを人数分頼んだらしい。ピザのトッピングも、適当だ。

 

 ロニは、ハンバーガーのセット。大量買いがセール中になっている、ナゲット付きだ。


 オレは、ラーメンとチャーハンのセットである。ギョーザは、人数分頼んだ。


「チョイスはバラバラなのに、ちゃんと周りがつまめるものを頼んであるのね」


「だが、やっちまった。明日人に会うってのに、ギョーザ頼んじまった」


「臭い消しのサプリがあるから、分けてあげるわ。いただきましょう」


 マリエが、オレたちを食卓へ誘う。


 マリエが冷蔵庫から、大きなぶどうジュースの便を取り出す。


 グラスにぶどうジュースを注ぎ、乾杯した。

 オレもマリエも、酒はやらない。


「では、ロニちゃんとの出会いを祝して、乾杯しましょ」


「いただきます」と、ロニが、ハンバーガーをかじる。


「おいしい!」


 遠慮がちだったロニの表情が、一気に緩んだ。

 

 別に特別なキャンペーン商品でもない、シンプルなハンバーガーである。


 なのにロニは、感動していた。


「ミツル。立て替えるから、後で請求してね」


「いや。いいよ」


「次に出してほしいときは、こちらから言うわ。今日は、遠慮しないの。色々と入り用でしょ?」


 こういうのは男が出すとか割り勘とか、マリエは一切気にしない。


「悪い」


「だからいいのよ。アンタもよ。ロニちゃん」


 オレ同様、ロニも財布を出そうしていたとは。


「それにしても、デカい家だな」


 いつもダンジョンの前でしか会わないから、こんな暮らしをしていたとは知らなかった。


 キッチンも広く、清潔だ。しかし、広すぎる。一人で過ごすには、あまりにも淋しい。


 ゴミ箱には、デリやケータリングの空き箱ばかり。


 冷蔵庫やパントリーに食材はあるので、「作らない」、「作れない」のではない。「自分でキッチンを使っていない」印象を受けた。


「自分では作らないんだな?」


「ん? ああ。どうしてキッチンを使っていないのか、って言いたいのね?」


 オレが聞きたいことを、マリエが察する。


「作れるわよ。人のためになら、作るけどね」


 なるほど。食べる相手がいないから、まったく使っていないわけか。


「食材もあるけど、夜も遅いから作ってる時間はないわ。食材も、一人分しかないし」


「たしかにな」


「とはいえ、家族が増えるんだから、今後は料理をする機会は増えるかもね」


 マリエは、ギョーザを口いっぱい頬張る。


 料理はずっと、キナ子の仕事になりそうだな。

 

「一人暮らしなのに、こんな大きな家に住んでるの?」


 ロニからの質問に、マリエは「そうなのよぉ」とため息をつく。

 ここは、両親から譲ってもらった家だという。

 

「いらないって、言ったのよ。『あたしはノマドになるから』って。でも、両親のほうが先にノマドになっちゃってさ」


 ヴィッカースという姓でもわかるとおり、マリエの父親はイギリス人だ。


 ロニを見てもまったく抵抗しないのも、そういう背景があるのかも。


「妹夫婦も、旦那が自分で家を建てたいんだって」


 マリエからすると、処分したいらしい。

 大きな家だと、修繕費や管理費などで、大変なのだとか。


「だから、人に売る予定だったのよ」


「思い切ったな」


「いらないわよ。こんな家。絶対、持て余すわ。いくらドロイドといっしょって言っても」


 もっとこの家を大事にしてくれる人に住んでもらいたいと、マリエは語った。


「ついでに貸した相手から家賃をもらって、自分はホテルを転々としたいわ」


「リアル冒険者みたいなことを、言うんだな」


「あたしは身も心も冒険者よん」


 ロニが「そうだ」と立ち上がった。


「大事なことを、聞き忘れるところだった。ねえミツル、ヒガンってどうなったの?」


 うおお。このままスルーしてくれたらよかったものを……。


「簡潔に言う。ヒガンは、死んだ」

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