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第7話 恋慕舞うことを知らず①

ちょっと長いけど面白いので読んでください。

依頼人の待つ場所は個性が出る。前回の依頼人はカフェだったが、人によっては居酒屋やカラオケなど本当に様々である。依頼をこなしてきたスレヴァーだったが、今日のはこれまでにないパターンだった。

 その意外な場所に驚いたのか、トリィネは依頼内容を見て目を見開く。


「なーんか集合場所が依頼タイトルからは考えられないような場所なんだが、もしかしてやばい人?」

「まだわかんないよ。高級レストランだからいい人とも限らないのは、お兄ちゃんも知ってるでしょ?」


 スレヴァーは上を向き、何かを思い出すような動作をすると、半笑いで答える。


「あ――そうだな」


 スレヴァーは車を路駐させると、すぐさまエンジンを切る。住宅街のど真ん中、マフラー音から通報などされてはたまったものではないと思ったからだ。

 トリィネは車から降りると、スレヴァーを頭のテッペンから足元まで、舐めるように見る。


「……なんだよ」

「なんか、雰囲気変わった?きっちりして見えるというか……」


 スレヴァーの口角が一気に上がる。喋り始めると想像よりも大きい自分の声に少し驚いた。


「わかるか!?実はタイガさんの依頼の時、一式新しい仕事着を買ったんだ。かっこいいだろ」

「かっこいいだろって……カッターシャツなんてどれも同じじゃん。そ、れ、に!どうせすぐしわくちゃにするよ」

「そんなのわかんないだろ」

「わかるよ。お兄ちゃんアイロンしたことないじゃん」


 スレヴァーは拳を握りしめ、口を開くが、言葉が出てこず黙りこくった。ぐうの音も出ないスレヴァーへトリィネは追い打ちをかける。


「あと、スーツ新品にしたくらいじゃお兄ちゃんのだらしなさは隠しきれないよ。その汚れた靴!暑さに耐えかねて捲った袖!空いた第一ボタン!極めつけは……だらしないその髪!」


 トリィネは一箇所一箇所丁寧に指を差しながら声を張り上げる。彼女の畳み掛けに耐えきれず、スレヴァーは足元が崩れるような感覚に陥るが、新品のスーツを汚すわけにもいかずなんとか堪える。


「はしゃぐのはいいけど、維持する努力をしてよね」

「……へえい」


 スレヴァーは口を尖らせながら返事をする。2人の様子は端から見ると、とても兄と妹の会話には見えない。しっかり者の妹に感謝と謝罪の念を抱きながら、スレヴァーはトボトボと歩き始めた。

 一方、トリィネは方向転換をするとスキップ混じりで歩き出す。そのスピード感は、私に着いてこいと言わんばかりであった。


「それにしても、お墓ってこんな住宅地にあるんだね」

「そうだな」


 依頼人の指示した場所は町中にある小さな墓地だった。どのような意図があるかは分からないが、スレヴァーには不気味に感じられた。夏の日差しの影響か、相当暑いというのに鳥肌が立つ。自分の身体のチグハグさが、スレヴァーは気持ち悪かった。

 一方トリィネは余裕綽々といった具合で、墓地に向かって歩みを進めていた。

 

「トリィ、墓地なんて初めて来るよ」

「……そんなことないぞ」


 スレヴァーの言葉で先導していたトリィネが振り返る。


「え?墓参りなんてしたことあったっけ」

「こんなに小さい頃だったから覚えてないんだろ」


 スレヴァーは腰を曲げ手で高さを示す。トリィネはしゃがむと、手の位置に頭を合わせて笑みを浮かべた。


「こんなに小さいなら納得だ」


 トリィネは跳ねるように立ち上がると、再びスレヴァーの前を歩く。


「でもお墓参りするような親族いたっけ?」

「……まあ、そのへんはまた今度話すよ」

「え――なんで?今話してよ」


 スレヴァーは立ち止まる彼女を追い越して、墓地に足を踏み入れた。


「依頼人が待ってるんだ。しょうがないだろ?」


 トリィネは頬をぷくっと膨らませる。数秒そうしたあと、すぐに笑顔を取り戻した。


「わかったよ。その代わり次聞いたときには答えてもらうからね」

「お前が覚えてるといいな〜」

「も――バカにして〜!」

 


 墓地に入り、スレヴァーは空気感の変化を肌で感じる。

 住宅街とは言え、車の通りは少なくない。だというのに、車など通っていない。そう感じさせるほど、墓地内は静かだった。自分の足音すらも煩く感じながら、スレヴァーは墓地を進む。

 墓地には男が一人、墓石の前で手を合わせていた。何人も人がいたらどうしようかと思っていたが、どうやら杞憂に終わったようだ。スレヴァーは確信を持って男に向かう。


「こんにちは」


 墓の前で手を合わせていた男はゆっくりと目を開く。横目でスレヴァーを見ると、再び目を閉じた。

 

「あの……聞こえてます?」


 男は舌打ちをしてスレヴァーたちを睨みつける。眉間にシワを寄せながら彼らに詰め寄った。


「なんだよ。人が供養してる最中に……」

「えっと……依頼者の方ですよね?」


 男の目がさらに鋭くなる。嫌悪感むき出しの表情にスレヴァーは焦りを覚える。


「依頼?何の話だよ?」

「……タイムマシンの」

「タイムマシン?」

「タイムマシンによるモノの運搬です」

「ハァ、お前ら人をおちょくって楽しいか?場所と行動を見れば、俺が今どういう状況か分かるよな!人亡くしてる奴相手に最低だぞ」


 スレヴァーたちは掲示板に貼られた依頼内容とその相談場所をもとに動いている。つまり彼らは呼ばれたから来ただけなのである。にも関わらずこの扱いを受けては、スレヴァーも黙っていられなかった。


「おちょくってないですよ……。そもそも呼んだのはあなたの方ですよね」

「は?呼んでねえよ」

「掲示板に依頼したでしょ。それを見てこっちは動いてるんだ」

「はあ?そんなことした覚えねえよ」


 スレヴァーはトリィネが持つ鞄からタブレットを取り出し、画面を開いてみせる。


「これを見てください!過去に行き好きな人への想いを伝えたい。集合場所はこの墓地、時間は午後1時──つまり今だ!」


 男はタブレットの画面を凝視する。目の動きから必死に文を追っているのがうかがえた。男は文を読み終えたあと、煽るように鼻で笑ってみせる。


「ガキ、詐欺をするにはちょっと設定が甘かったな」


 言葉の意味がわからずスレヴァーの頭にハテナが浮かぶ。


「……何を言ってるんです?」

「しらばっくれやがって。投稿日がおかしいだろうが」


 スレヴァーは画面を拡大させ日付を凝視する。彼の横からトリィネが顔を覗かせた。彼女にも見えるように、スレヴァーは少ししゃがむ。


「あ――――!」


 スレヴァーは思わず耳を塞ぐ。耳元で叫んだトリィネを彼は睨みつけた。

 トリィネは片目を閉じながら手を合わせる。


「ごめん、ごめん。ってそれより、今日は何年の何月何日か覚えてる?」

「えっと、2012年7月6日」

「依頼日は?」

「依頼日は……7月3日」


 トリィネは芸人のように、わざとらしくズッコケる。


「じゃなくて!何年かって聞いてんの!」

「あーそっちか、依頼年は、2019……2019!?」


 スレヴァーは目を見開く。これまでにないイレギュラーは集合場所だけではなかった。集合時刻を依頼日より前に設定されるなど、前代未聞である。

 男は自分の存在をアピールするように、喉を鳴らす。


「コントは終わりか?茶化しにきてるなら早く帰ってくれ。イライラする」


 男にとってスレヴァーは、弱みにつけ込み詐欺を働こうとする悪人なのだ。怒っても不思議はない。しかし、スレヴァーもイタズラを受けている。

 ぶつけようのない怒りを抱きながら、スレヴァーは出口に足を向ける。足早に向かうスレヴァーをトリィネは小走りで追いかけた。

 

「こんなの初めてじゃない?」

「ああ」

「なんで日付を過去にしたりしたんだろ?」

「ただのイタズラだろ。あの人も巻き込まれただけかもしれない」


 サイトに投稿された依頼。それの示す集合場所と時間で初めて彼らは依頼主と出会う。

 画面の奥にいる依頼人が誰なのか、どういった理由で日付を過去に設定したのか……。単なるイタズラなのか、それともなにか意図があってやったのか。それは、この投稿をした本人にしか分からないことだ。

 スレヴァーは言葉にできないモヤモヤを抱えていた。


「ちょっと待ってくれ」


 スレヴァーは足を止めて振り返った。


読んでいただきありがとうございます。

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