第45話 天の川のその先へ①
――「というわけで、最後バイク動かさなくても私自分で挟み撃ちしてたから」
戦闘を終えて下山した二人は、車でヤンキーと隊員を運んでいた。その道中、トリィネから何があったのか一通り聞き終えると、スレヴァーは唸る。
「お前すごくね?」
「エッヘン!もっと褒めてくれていいよ」
トリィネは得意げに胸を張る。実際、彼女の思考力と洞察力には目を見張るものがあったが、まさかここまでとはスレヴァーも思っていなかった。ところどころ偶然とはいえ、上手くかみ合ったのは彼女の力が大きい。
「ちなみに、隊員が反抗したらホントに撃つつもりだったのか」
「うーん。殺すつもりはなかったと思う」
「そこは確信を持ってくれよ」
「だって、通信機で本当のこといわれたとしても私が無事なのは伝わるし、そしたら挟み撃ちは諦めて真正面から助ければいいだけだしね。けど……」
「けど?」
「もしそのせいで誰か死んだら、殺すと思う」
「……冗談でもそんなこと言うな」
1人俯く彼をよそ眼にトリィネは後ろを指さす。
「それでこいつらどうする?」
車内は人と機材で窮屈だった。時衛隊と誘拐犯合わせて11名。その人数の多さから、運び出すのも面倒なほどだった。現在三往復目。やっと全員を運び出すことができた。
「クズどもは警察にでも引き渡すとして……こいつらどうすっかなー」
「放置するわけにもいかなくない?」
「なーんか面倒くさくなってきたな」
スレヴァーは遠くを見据えるように目を細めた。突然スレヴァーの目が大きく開く。それを見たトリィネは彼の目線に目を向けた。
「タイガさん……なにして」
目線の先には拉致犯に銃を突きつけるタイガの姿。スレヴァーは車を止め、勢いのままタイガに飛び掛かる。その手から銃を叩き落とすと、地面に押し付けた。
「あんた今何しようとしてた」
「た、助かった。ありがとう」
震えた声で金髪の男は感謝を告げる。貼り付けられたような礼儀がなんだかむかついた。スレヴァーはタイガに覆いかぶさったまま、金髪の男を睨みつける。
「次しゃべったら俺がお前を殺す」
「スレヴァーくんどいてくれ」
タイガの爪がスレヴァーの腕に突き刺さる。彼の痛みが伝わってくるようだった。
トリィネは銃を拾い上げ悲しそうに彼を見つめた。
「タイガさん、せっかくお姉さんを助けられたのに、そんなことしちゃダメだよ」
タイガの視線が一層鋭くなる。
「そんなこと?姉さんの仇をとる絶好のチャンスなんだぞ。俺がどんな思いで─」
「あんたの思いはもう成就しただろ?」
「……まだだ。まだ……まだ俺は姉さんの仇をとってない」
「仇なんてどこにいんだよ」
タイガは上体を必死に起こしてスレヴァーを睨みつける。
「どこってそいつらだ。そいつらが姉さんを」
拉致犯たちを指さす。スレヴァーはそれを見ることなく淡々と、彼の目を見ながら告げた。
「今ここにジュンコさんを襲い殺した人は存在しない」
タイガの瞳が揺れる。彼の力が少し抜けるのを感じる。
スレヴァーは言葉を投げかけるのを止めない。
「タイガさんあんたのそれ、もう過去ですらないんだ」
「じゃあ俺の気持ちは、後悔や恨みは、俺自身はどうなる!?」
「これからジュンコさんとタイガくんは普通に暮らしていく。なかったはずの今を取り戻して。その代償には軽いくらいじゃないのか?」
スレヴァーは優しく微笑む。タイガは何か言おうとしたが、つっかえたまま言葉にはしない。口元を震わせながら静かに倒れこんだ。
彼の目に水が溜まる。小さな水たまりに反射する天の川はひどくきれいだった。
「あほくさ。犯罪者がいっちょ前に何言ってんだか」
声の主は時衛隊だった。それも一番うるさそうなやつ。犬上だ。山でスレヴァーに突っかかったが、まだ足りないようだ。手錠でつながれ身動きが取れない彼らの必死の抵抗。しかし、無視できるほど安い売り文句ではなかった。
スレヴァーは少し笑って、低く言い返した。
「時衛隊は時間を守るために、今回ジュンコさんをこのクズどもに渡す気でいたろ?」
「そうだ。正規のルートを歩ませる必要があったからな」
「ずいぶんと偉そうなんだな。女性一人と周りの人生が無茶苦茶だってのに」
「未来を好き勝手変えて、奪ってばかりの貴様らが何を言う!正しい時間を保つためには仕方のない犠牲だ」
「じゃあ今回はジュンコさんのために時間が犠牲になっただけだ」
男は前のめりになる。引っ張られるほかの隊員はどうも迷惑そうだった。
「ふざけるな!過去改変がどれだけの影響を与えると思っているんだ。人一人と時間が対等なわけないだろ。それも知らずに貴様らは─」
「知ってるよ。お前らよりかよっぽど。それでいてどーでもいいと思ってる」
「知っている奴のセリフとは思えんな」
「知りすぎてるから見ないふりしてんだろうが」
口論も程々に外野からのストップが入る。スレヴァーの袖をトリィネが引く。やけに力む彼女にスレヴァーは首をかしげる。
「そんなに焦ってどうしたんだ」
「タイガさんが!」
――ああそうか。こうなるのか。
タイガの色味が薄くなっていく。体の向こう側がうっすらと見えた。
「体が……透けてる」
その場にいる全員、時衛隊と拉致犯を含めた全員がその超常現象に見入っていた。
彼の存在が危ぶまれるのは明らかだった。トリィネが心配そうに駆け寄る。優しく手を取った。触ることはできるらしい。
遠くで座るジュンコのもとへ手を引いた。見張りをクレータに任せると、スレヴァーも後を追う。
「タイガさん、あんたは─」
「大丈夫だ。分かってる。自分のことだからね」
タイガは二人に笑顔を向ける。額ににじむ汗。荒い呼吸。強がりなのは誰が見ても明らかだった。それを誰も指摘はしない。野暮だと思ったから。
「ジュンコさん」
「なに?今ちょうど連絡終えて…っておじさん大丈夫?超顔色悪いよ」




