表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/47

第42話 天の川の川底へ②

 銃声と共に男たちの悲鳴が上がる。

 スレヴァーとクレータは直ぐ様ライトを消し飛び退いた。木の後ろに隠れ音の方をのぞき込む。


「隊長……そいつ撃っちゃダメな方です!」

「あ、間違えちまった……」


 低く唸るようなその声には聞き覚えがあった。

 タイキの依頼遂行中、フードコートで襲ってきた時衛隊の2人。鎌瀬と犬上だ。

 視線の先には足を押さえて呻く逃げた男。その周りを囲むようにスーツの集団が立っていた。

 ジッポーの音が鳴る。群れの中にはタバコの火がぼんやりと見えた。


「タバコやめてください」

「別にいいだろ。どうせ銃声でバレてる」


 鎌瀬は男たちが気絶してるのを見てため息をつく。

 

「まったく。5人がかりでこれか?」


 男たちはどちらも呼吸を乱していた。片方は足から血を流し、もう片方は足を震わせ立っているのもやっとに見える。


「おい、クズども痛いのはわかる。けどな、やることはやってもらわなきゃ困るぞ」


──やること?


「なんでそんなこと俺らがしなきゃいけねえんだよ」

「そんなこと……?お前らがもともとしようとしていたことだろ?」


 鎌瀬はしゃがみ込みじっくりと目を見る。その圧に負けて男は目をそらした。

 

「で、あいつらはどこ行った?」

「し、知らない。けど、近くにいるはずだ」


 鎌瀬はわざとらしく足音を立てる。その圧が離れたところにいるスレヴァーたちにも伝わっていた。

 鎌瀬は気絶した男たちで椅子を作りどっかりと座り込む。煙を吹くと部下を手招きした。

 寄ってきた犬上は口元に手を添えると喉を鳴らす。

 

「時空犯罪者に告ぐ!貴様らの行為は国際法に違反する行為である!度重なる時空移動及び過去変更はこちらも把握済みであり、我々に従い罰を受ける義務がある!分かったら投降して出てこい!」


 その声量は木々が揺れそうなほど大きかった。セミが音を上げ飛び立つ。

 

「喜べ、初の時空犯罪による指名手配犯だ。と言っても、お前みたいなやつ表沙汰にはできない。うちのメンツが立たないからな……」

 

 スレヴァーは息を呑む。飲み込んだ空気には緊張、恐怖、喜び、好奇心、様々なものが混じっていた。


「もしかして……隠れてやり過ごそうとしてるのか。言っとくがそれは無理だぞ。だって──とっくに囲まれてるんだからな」


 スレヴァーの後ろ、置いてきたトリィネたちの方から銃声が1回聞こえてくる。瞬間、スレヴァーの頭は真っ白になった。


「別働隊が向こうから来てる。早く出てきたほうがいいんじゃないか?」


 そう告げられた後2度目の銃声が聞こえてくる。思わず手が震える。

 クレータは静かなそれでいて優しい声でスレヴァーに語りかける。


「スレヴァー……大丈夫か?」


 スレヴァーは返事をすることなく唾を飲む。膝に抱えたクレータを抱く力が思わず強くなる。


「今通信が入ったが、お前の仲間は殺しちまったらしい。少女は応戦、男の方はみっともねえことにバイクで逃げようとしたようだが……」


 スレヴァーとクレータは目を見合わせる。タイガがここにきて逃げようとしたのか。失望と絶望が混ざったような黒い感情に染まった。


「んでもって、タイガとその姉も捕獲した。つまり残るはオマエらだけってことだ。別働隊も直に来る。分かったら大人しく降参しろ」

 

 スレヴァーは何度も人数を数える。トリィネ、タイガ、ジュンコ。どう考えても1人多い。


──バイクに乗った男を……殺した?


 スレヴァーの中で何かパズルがぴったり重なったような感覚に落ちる。


「クレータ、お前が今腹に溜めてるもん全部出せ」


 クレータは返事をすることなく直ぐ様吐き出す。スタンガン、カメラ、ハンドガン、封筒。

 スレヴァーはスタンガンとカメラを手に取ると、封筒とハンドガンを口に押し戻した。


「なんで銃を使わねえんだよ」

「……使わないんじゃない。使えないんだ」


 何か言いたげなクレータを無視して、スレヴァーは彼の耳元に口を当てると作戦を伝えた。


「無茶苦茶だな」

「そうか?いけるだろ」


 スレヴァーはクレータに聞こえるか聞こえないかギリギリの声で呟く。


「3…2…1…GO」


 瞬間、スレヴァーはカメラのシャッターを押す。真っ暗な山に小さな朝が生まれた。

 時衛隊は皆、咄嗟に目を塞ぐ。その間にクレータは通りを挟んで反対側の草むらに移った。


「なんの真似だ?」  


 クレータは堂々と叫ぶ。

 

「オマエは勘違いしてるな」

「勘違い……?」

「囲まれているのは」


「オマエらも同じだぜ」


 さっきとは別の位置から、別の声が聞こえる。クレータの変声機能が早速役に立った。子どもあやすだけと言ったのはあとで謝っておこう。

 時衛隊は慌てて銃を構えた。

 スレヴァーは恐怖を煽るように笑い声を上げる。


 

「オマエらなんて一瞬なんだよ」


 今度は少年の声。

 

「わ、分かったら銃を置いてください」


 次は弱々しく少女の声で。至るところから聞こえる様々なボイスに時衛隊は慌てふためく。その様子がおかしかったようで、クレータは素の声で笑っていた。

 それすらも彼らにとっては恐怖の材料でしかない。

 なんの脈絡もなく鎌瀬は手を叩く。凄まじい破裂音のあと静寂が訪れた。


「オマエら俺を馬鹿だと思ってんのか?聞いたことある声が、そこから聞こえてきた」


 その指は真っ直ぐを指す。スレヴァーの心臓が跳ね上がった。


「他はフェイクだろ?そんな芸当ができるなら自分の声は出すんじゃなかったな」 


 足音が2つにじり寄る音が聞こえてくる。ゆっくり、確実に近づいてきていた。


「全く面倒なことしてくれた。花火はとっくに終わってるってのに、オマエらのせいでこんな時間まで残業だ」


 彼のもとに近づく時衛隊3人の姿がスレヴァーにも見えていた。残りは鎌瀬と隊員を合わせて4人。彼らは倒れたヤンキーの周りに鎮座していた。スレヴァーからはそれがよく見える。

 鎌瀬の合図で隊員は木に回り込む。挟み込むように銃を構えた。

 

「隊長!いません」


 油断しきった隊員の頭上に衝撃が走る。綺麗な踵落としが決まった。

 

「上だよバーカ!」


 隊員は木の上から舞い降りたスレヴァーに、咄嗟に照準を合わせる。しかし、カメラのフラッシュが再び彼らの目を襲った。

 混乱の中、引き金が引かれた。その直前スレヴァーは腕を蹴る。


──パン

 

「ングっ」


 軌道が反れ運悪く味方の足に当たる。

 瞬間、スレヴァーは弾の主の首元に電撃を浴びせた。じっくりと念入りに。これで2人目。


「グアアア」


 足を撃たれた隊員が呻き出す。ジタバタとする彼の足には、クレータが噛み付いていた。隊員の手から銃が落ちる。手に持った銃を握る気力が、彼にはもうなかった。

 三人はあっという間に戦闘不能となり、鎌瀬はため息をつく。


「はあ……無駄に時間かけさせやがって」

「それはこっちのセリフだ。時衛隊の皆様が出張ってこなきゃ、そこのクズどもボコしてとっくに帰ってたんですけどね」


 犬上が声を荒げる。木々が震えるほど声量がでかい。

 

「ふざけるな!貴様ら人助けのつもりかもしれないが、女一人助けるだけでどれだけ未来に影響が出ると思っている!それを止めようという我々の正義がわかるか?」

「……さぁね。でもさ、あんたらそのためにわざわざそのクズども引き戻して、ジュンコさんを犯させようっていうんでしょ?それを正義と言えるのかな」


 再び犬上が喋ろうとする。しかし、鎌瀬が手を挙げると予備動作にとどまった。


「何を言おうとオマエが犯罪者であることに変わりはない。正義の形は色々あれどオマエらにそれはないってことだ。まあ、オレにしてみれば心底どうでもいい話だがな。今はただ帰りたい」

「……あんたとは気が合いそうだ」

「オマエは帰れないぞ。そろそろ向こうの部隊もこっちに来るころだ」


 クレータの耳がピンと跳ねた。頷く犬を見て、スレヴァーは固唾を飲む。

 

「そうだな。……そろそろだ」


 通信機が点滅する。時衛隊は皆、聞き入るようにインカムを押し込んだ。

 隊長は真顔で淡々と告げた。


「B犯、連中は木の裏に隠れている。まあ、オマエらからは丸見えだがな」


 ジーというノイズ音が鳴る。


──バーカ!テメエらのお仲間は全員ねんね中だよ!そっちも待っとけ!


 時衛隊が同時に耳を押さえる。スレヴァーにまで聞こえるほどの大声。聞き馴染みのある妹の声だった。

 直後、バイクのマフラー音が反響してくる。今日はこいつに助けられてばかりだ。スレヴァーはほっと息を漏らした。

 暗闇の中、ライトもなしにバイクが向かってくる。その重低音がスレヴァーには応援歌、時衛隊には楚歌に聞こえた。


「な、なにが……」

「援軍が到着したみたいだ。最もオレ様たちの援軍だけどな」

「お前らが声に翻弄されている間に呼んでおいた。挟み撃ちってやつだな」

「き、貴様ら……」

 

 バイクが到着し、マフラー音が地面を揺らす。そのリズムは聞いていて心地が良い。


「お前らライダーを撃て」


 声は鎌瀬の声だが、彼の口は動いていない。クレータがいやらしくウィンクをする。

 それを合図に銃声がいくつも鳴る。しかし弾はバイクをかすめるばかりだった。

 弾が当たった瞬間、人影がゆらゆらと揺れた。まるで映像ノイズのように。


「ホログラム……」

 

 バイクのライトがまばゆく光る。

 ライトが彼らの視界を奪う。直後、全員が目を閉じた。しかし、ライトが原因ではない。

 局所的な痛み。その後その場に倒れ込んだ。1人を除いて。


「隊長さんの匂いが遠ざかってく」

「まさか、ジュンコさんたちの方に!」

「いや、そっちの方じゃないな」

英雄(ヒーロー)は遅れてくるものでしょ?」

 

 全てを眠らせ終えたトリィネが近づいてくる。その顔はこれまでにないほど自信ありげだ。バイクのライトが巨大な影を作り、彼女の逞しさをより強調していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ