第41話 天の川の川底へ①
車のエンジン音が止み中から人が降りてくる。全部で5人。顔でも隠して出てくると予想していたスレヴァーだったが、その予想に反して素顔のままだった。
スレヴァーはヘルメットを外す。排気ガスと木々の匂いが混ざってどこか気持ちが悪かった。
頭を振り、伸びた髪をかき上げながら、後ろのタイガをチラ見した。
「タイガさん。あんたが当時見た男はあの中にいるか?」
タイガは暗闇の中必死に目を凝らす。髪形、服装、アクセサリーどれもヤンチャのテンプレ。個性のつもりで、その概念に縛られた無個性だ。
彼らを順に見て小さく首を傾げた。
「……顔までは覚えてない。でも、あんなに若くはなかったと思う」
睨み合いの末、男たちは山の方へ逃げ出した。後を追おうとするスレヴァーをタイガが追い抜く。山に入ることなく車に駆け寄った。
ヘルメットを無理やり外し、自分がタイガであると主張するように。
扉を勢いよく開ける。その瞬間、悲鳴が聞こえてきた。心配そうな表情でトリィネは駆け寄る。その後ろからスレヴァーは車内をのぞき込んだ。
そこには浴衣のはだけたジュンコの姿があった。手を縛られ身動きは取れそうもない。目隠しをされその意思は見えないが、表情から恐怖心が伝わってきた。
タイガは慌てて目隠しを外す。自分をのぞき込む3人を見て、ジュンコは再び叫び声を上げた。
「イヤ!お願いします。許してください」
懇願するジュンコの姿にタイガの顔が歪む。 タイガがタイガであると認識されていない。当然のことを彼は受け入れられていなかった。
拳を握りしめジュンコから離れる。
スレヴァーは彼女とタイガの間にトリィネを押し込んだ。
「ちょっと、なにすんの?」
「女のほうが安心できるだろ。子供なら尚更な」
彼女たちを尻目にスレヴァーはリードを握りしめる。
「もしかして山に行くのかい?」
タイガは強張った表情でスレヴァーに詰め寄る。
「そうだけど……まさか付いてくとか言わねえだろうな」
「言うさ。姉さんをこんな目に合わせて許せるはずがない」
スレヴァーはトリィネとジュンコをチラ見する。会話の中でジュンコの呼吸が段々と落ち着いているのを感じた。
「嫌だね。あんたみたいな足手まといいるだけ迷惑だ」
「そ、そんな─」
「だから、ここにいろよ。自分のことだ、なんとなく予想はついてんだろ」
タイガの表情筋が緩む。眼球が揺れる。
深く息を吸いこみ小さく微笑みと、「ありがとう」とだけ呟いた。
タイガは何かを悟ったような顔をしたが、スレヴァーはあえて視線を返さなかった。
スレヴァーとクレータの足跡が山に強く残る。この先にはもう一方の出口がある。タイガはそう言っていた。急がなければ本当に逃げられてしまう。スレヴァーはさらにスピードを上げた。
中腹に到達しライトの先、分かれ道が見えたところで、手元の鎖が音を立てる。何か引っかかるような感覚。後ろを向くとクレータが足を止めていた。
「何してんだ早く行くぞ」
「匂うんだ」
「何が?」
「嫌な奴らの匂いだ。この先からプンプンしやがる」
直後、奥から息を荒げながら逃げた男たちがやってくる。
スレヴァーたちを見てギョッとする。
「なんだよ。なんでこんな……クソッ」
「見ろよ。あっちは不気味な犬を連れているが1人だぜ」
「確かにあっちのほうがあいつらより──」
男たちは何やら相談事をしているようで、スレヴァーたちを無視してコソコソ話し始める。
その無防備な様相にスレヴァーは呆れていた。
「おい、スレヴァー。油断すんな」
「あん?」
「オレ様が言ってる嫌な匂いっつうのはアイツらじゃ─」
隙をついたつもりか、男たちは一斉にスレヴァーとクレータに襲いかかる。
スレヴァーに飛びかかったのは3人。三方向からの攻撃にスレヴァーは構えを取り守勢を見せる。それを隙と見たのか男たちはさらに距離を詰めた。
瞬間、スレヴァーは男たちに突撃。真ん中の男のみぞおちに右肘を入れる。倒れ込む男を右の男に投げ飛ばす。男同士の衝突。衝撃が腕を伝わってきた。
最後の一人が襲いかかってくる。スレヴァーは体を起こし、足を振り上げて顎を蹴飛ばす。ガツン、と衝撃音が響き男は吹き飛んだ。
クレータと戯れていた2人は伸びた3人を見て後退りをする。クレータが低く唸り吠えるといよいよ逃げ出した。
後を追おうと土を蹴るとクレータが足に噛み付く。
「なんだよ」
「ちょっと待て。さっきも言ったが嫌な匂いが─」
──パンッ




