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第37話 天の川に流されて②

祭りの喧騒が耳に戻り、スレヴァーは現実へと引き戻された。タイガの語りが終わると同時に、遠くから屋台の呼び声が入り込んでくる。

 タイムマシンの時計を確認すると、経過時間はわずか数分。だが、まるで数時間ぶっ通しで話を聞いていたような、そんな気がしていた。

 

 スレヴァーは深く息を吐き、ミラー越しにタイガへ声をかける。


「話したいこといくらでもあるけど、ひとまず動いたほうがよさそうじゃないか?」

「オレ様もそう思うぜ。ジュンコの動向を間近で見てるのは七夕祭までなんだからな」

「ここで見つけられなきゃ結局助けられないかも」


 3人の言葉にタイガは頷く。

 スレヴァーは車を降り、トランクを開ける。中には黒いバイクが鎮座していた。視線を感じて顔を上げると、タイガが怪訝そうにこちらを見ている。

 スレヴァーは微笑み、バイクを地面に降ろしてセッティングを始めた。そして、軽く車体を叩く。

 

「こいつは念の為の準備だ。気にしなくていい」


 タイガはまだ腑に落ちない表情をしていたが、何も言わなかった。


 

 一行は祭り会場へと向かう。

 数十分前、スレヴァーたちが他愛もない話をしていた頃に比べれば、人はだいぶ減っている。花火大会の開始が近い。つまり、タイムリミットも迫っていた。


「私が姉さんに会ったのは提灯が光る直前だった。それまでにはまだ時間がある」


 人の荒波を越えていくタイガの後ろをスレヴァーは必死についていく。左手にはリード、右手にはトリィネの手を掴みながら、はぐれないよう必死に。

 人にぶつかるたび小さく謝罪を述べる。他人の心配などしている余裕は、タイガにはなさそうだった。

 

「タイガさん!ジュンコさんと最後に会った場所は覚えてんの?」


 スレヴァーは声を荒げる。タイガは振り返ることなく淡々と告げた。


「覚えてる。神社のすぐ目の前だった」

「そこまでどれくらい?」


 スレヴァーが質問するのと同時にタイガは立ち止まる。うまく止まれず一行は彼の背中にぶつかった。


「着いたよ」


 その瞬間、提灯の火が一斉に灯った。

 まるで、祭りそのものが彼らの到着を待っていたかのように。

 スレヴァーはタイガの視線を追う。人の波を挟んだ向こう側には、三人の男の子と4人の浴衣に身を包んだ女性。楽しそうな彼女たちの対極に、スレヴァーたちはいた。



 

 スレヴァーたちはジュンコの後を追う。祭りの匂いを身に纏い、まるで風の一部になるように人の流れへ紛れ込む。提灯の灯りが背中を押し、遠くで太鼓の音が鳴っていた。

 

「ジュンコさん……どこ行くつもりだ?」


 スレヴァーが呟くと、タイガは人混みの先を見据えたまま答えた。

 

「このあと駅の方に向かうはずだ。花火大会まで電車で2駅はある。歩くには遠いからね」

「電車……か」

 

 クレータが小さく鼻を鳴らす。


「なあ、スレヴァー」

「人混みとは言えあんまり喋んなよ」

「その……オレ様って電車乗れんのか?」

「……あ」


 いつもはアンドロイド犬だなんだとうるさいクレータも今回は静かだ。自分の立場をよく理解しているらしい。

 

「喋る犬なんてとんでもないよ!」

「そもそも電車に犬が乗ることは許可されていない。間違いなく注目の的だよ」


 解決策も見つからぬまま移動し続ける。さっきまで遅く感じた列の進み具合も、心配事があると早く感じた。

 スレヴァーは鎖を弄りながら必死に考える。


「2人とももう少し前に出よう見失いそうだ」

 

 思考を巡らすうちに本来の目的が疎かになっていたようだ。2人は慌ててスピードを上げる。

 そのままいい提案が出ることはなくあっという間に駅が見えてきた。


「どうすんの?」

「どうすんだ!?」


 改札の手前、スレヴァーはリードを握る手を緩め、引きつった顔でクレータの目を見る。


「クレータ……お前走れ」

「……は?」


 クレータは瞬きを繰り返す。一目で困惑していると分かる動きをするそのプログラムにスレヴァーは感心していた。

 

「大丈夫だ。線路に沿えば見失うことはない」

「そういう話じゃねえだろ。っておい、マジで言ってる?これマジのやつ?」


 スレヴァーはカードをかざし、改札をくぐる。

 向こう側に立ったままのクレータが、半ば呆然とこちらを見ていた。


「ちょうど電車も来た。二駅先で会おう!」


「いやいや、マジで置いてくなって!おいスレヴァー!!」

「走れクレータ。お前の四足、飾りじゃないだろ?」


 そう言い残し、スレヴァーは改札を抜けちょうどやって来た電車に乗り込む。

 ガラス越しにクレータの吠える声が小さくなる。次の瞬間、彼は地を蹴った。


 駅の外。線路沿いを黒い影が走る。街灯の明かりを連続して受けながら、まるで流星のように。


 スレヴァーはそれを見て、声を押し殺していたが──

 

「……ぷっ」

「お兄ちゃん、電車の中だよ」

「ギャハハハ!あいつ、マジで走ってる!っていうか速」


 結局、爆笑するスレヴァーは注目の的となり、犬を連れてるのと結末は何ら変わらなかった。

 それをトリィネは呆れ顔で眺めていた。スレヴァーは咳払いをして誤魔化す。

 クレータはスレヴァーの言う通り線路に沿って駆ける。それが道でなくとも、走れる場所はすべて使って。



 

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