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第33話 天の川に身を任せ①

 スレヴァーたちと男のあいだを、夏に不釣り合いな冷たい風が抜けた。

 時衛隊からの逃走中、いつの間にか後ろをついてきていた男。その手首には、まだ手錠がぶら下がっている。


「す、すまない。自分でもどうしていいかわからなくて。時衛隊と対立していた君たちに、咄嗟についてきてしまった」

 

 何も言わず固まるスレヴァーたちを男は気まずそうに見つめる。


「えっと……おじさんはいつからいたの?」

「路地でぶつかった時から」


 スレヴァーは手を叩く。その脳内では路地での出来事が再生されていた。


「あ~あんた時衛隊に追われてた人か。どうりで手錠なんかつけてるわけだ」

「あ~そういうこと。そういう趣味の人かと思ったよ」

「いやいやまさか~」


 小さな笑いがこぼれる。緊張がほぐれ、場の空気が一瞬やわらいだ。 

 一行は「じゃあ」とだけ言い、男に背を向ける。

 しばらく進んだところでやかましい足音が鳴り始める。振り返ると必死に追ってくる中年男性の姿がそこにはあった。


「お願いだ!待ってくれー!」


 男はスレヴァーの胸にぶつかりそのまま倒れ込んだ。見覚えのある光景に苦笑をこぼす。


「大丈夫か?」

「あ、ああ。大丈夫だ」


 腰に手を固定された男はどこかたちあがりづらそうだった。

 スレヴァーは知らん顔を決め込み、トリィネがかわりに手助けをする。


「わ、悪いね」

「いえいえ。それで、おじさんはそんなに必死になって何をしてるんです」


 スレヴァーの眉が吊り上がる。


「おい、お前なに言ってんだ」

「なにって……話を聞こうと思って」

「お前なあ。このおっさんの格好見てみろよ」


 男の格好をトリィネはジロジロと見る。

 ポケットのない青色のズボンに無地の白いTシャツ。胸には砂時計のマークが描かれていた。

 男は居心地悪そうに黒髪をかき上げ、手錠の鎖を鳴らす。


「普通の格好じゃん。なんかおかしい所ある?」

「はぁー。この砂時計マークは時間観光会社のマーク。そんでもってこの服装。どう見ても時間旅行客だ」

「それのなにがいけないの?」


 スレヴァーは盛大にため息をつく。


「時衛隊に追われる時間旅行者。間違いなく面倒事になるぞ」

「でも困ってるのに見捨てられないよ」


 あっけらかんと答えるトリィネに、呆気にとられる。そこへクレータが金属の足を鳴らした。


「オレ様達は今依頼中だろ?それなのに別の案件に手を出していいのか?」


 スレヴァーが賛同しようとしたところで男が横から口を挟んだ。


「私のは今日中に終わるので大丈夫です。ですから助けてください!」


 自分の意見ばかりを言う男に、スレヴァーは詰め寄る。男を見下ろしながら指で胸を叩いた。

 

「おっさん。お願いばっかじゃ人は動かねえぞ。何をくれんだ?」

「何もあげることはできない。私はすべてを捨てて来たんだ」

「なら失せろ。情に流されるほど暇じゃない。オレたちは英雄でも救世主でもないんだ」

 

 スレヴァーは吐き捨てるとその場を立ち去ろうとする。しかし、男はそれを許さなかった。スレヴァーの前に立ち塞がる。


「君たちが英雄ではないのは重々承知だ。私は姉を救うためにきた。今の私に取って正義は敵でもいい。それでもいいから戦いたいんだ」


 男の言葉にスレヴァーの眉がピクッと動く。

 

「……語るねぇ。で、それがオレたちを頼る理由か?」


 スレヴァーは背を向けようとする。足音が砂利をかすった。

 

「時衛隊に刃を向けた君たちしか頼れないんだ」

「そうかよ。オレたちはオレたちの仕事で忙しいんだよ。あんたの手伝いなんて無意味なことしてられるか」

 

 背を向けようとしたその時、トリィネが小さく呟く。

 

「お兄ちゃん言ったよ。意味はあとから付いてくるって」

 

 男に向けていた冷たい目をそのままトリィネに向ける。熱いものが宿った彼女の目に、スレヴァーの眉が小さく動いた。

 

「私は自分が運び屋をやる意味を探してる。この人を手伝えばその答えが出る気がするの。やってみないと答えは出ない。だからこれは私のお願い。この人を手伝わせて」


 動くだけで騒がしいクレータも今は何も言わない。スレヴァーはトリィネの力強い目をじっと見つめた。

 トリィネの変化が嬉しくあるが、危うさが残り見ていて不安になる。


───安全な挫折をさせるのも家族の役目か。


「わかった」


 トリィネと男は目を見合わせ、「やったー」と言いながら嬉しそうに飛び上がる。

 スレヴァーの口元が自然と緩んだ。視界の端ではクレータがニヤリと笑う。スレヴァーは表情を戻してクレータを睨みつけた。


「なんだよ」


 クレータは相変わらずのニヤけた面ではぐらかした。クレータとじゃれていると、男がスレヴァーに向けてお辞儀をする。


「忙しい中、本当にありがとう」

「あんたのためじゃない。他でもない妹の為だ。だから、感謝するならこいつにしろよ」


 スレヴァーは親指でトリィネを指差す。男は彼女に向けてもう一度お辞儀をした。


「君も本当にありがとう」

「ぜんぜんいいよ。それに私達はいくらでも時間があるから」

「あんたの格好は色々目立つ。すぐそこに停めてあるんだ。車の中で話そう」


 スレヴァーは車のキーを見せつけながらついてくるよう合図をする。

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