第25話 DOGファイト!②
「次は……中古ショップ?こんなところで何を買うんだ?」
「ここでは買わねえ。売るぞ!」
スレヴァーは商品には目もくれず、トリィネに漫画を預けてカウンターに向かう。もう片方の旅行鞄を開けて、中から幾つか物品を取り出した。ゲーム、カード、ビデオを取り出した。
スレヴァーは缶コーヒー片手に、外のベンチでどっかり座り込んでいた。査定待ちの時間、店のものに特に興味がないスレヴァーは、ひたすら待つしかすることがない。
空でも見ようかと上を見上げるが、視界を覆い尽くすのは、ガラス張りのビルばかりだった。それに反射して見える空も綺麗ではあるが、風情はない。
「スレヴァー、こんなことして大丈夫なのか?」
スレヴァーは視線だけをクレータに向ける。大人しくお座りしていた。
スレヴァーは伸び切った首から無理やり声を出す。
「なにがだ?」
「あれ全部過去の物だろ?そりゃあ、今売れば結構な額にはなるだろうけどよ……」
「あー持ち込み禁止の話か」
スレヴァーは姿勢を正して、クレータの目をじっと見つめる。
「未来に行ってもできることは観るだけのはずだろ。下手したら未来が変わるんだ。こんなに持ってきてるなんて知られたら、オマエらただじゃ済まないだろ」
「こんなのどーってことないくらい面白いことを俺らはしてるぜ。もしかして、怖気づいちまったか?」
クレータはスレヴァーから目線を外すことなく、ニヤリと笑う。
「冗談言うな。脅しのネタがまた1つ増えてうれしいくらいだぜ」
思っても見なかった返事に、トリィネは唖然とする。一方、スレヴァーも驚いてはいたが、面白さが勝ち、無意識に口角が上がっていた。
「番号札52番のお客様。査定が終わりましたので、3番カウンターにお越しください」
スレヴァーは一気にコーヒーを飲み干すと、ゴミ箱に向けて缶を投げる。そのまま立ち上がり、カウンターへ向かった。
スレヴァーは札束をちらつかせながら、トリィネのもとへ向かう。それを見て、トリィネも笑顔を見せていた。
「結構手に入ったぜ」
「ホントだ。予想より多いかも」
金を旅行鞄にしまい、3人は街を歩き出す。
外は相変わらず暑いが、ビルの隙間を吹き抜ける風は、わずかに汗ばんだ身体を冷ましてくれた。
「にしてもよ、わざわざこんなことしなくても、金なんざどうにでもできるんじゃねえのか?」
クレータが歩調を合わせながら問いかける。
「どうにでもはできねえよ。金ってのは今この時代のもんが必要なんだ。過去の札束なんか出したら、一発で怪しまれるだろ」
「へえ……やっぱり面倒くせえんだな、タイムトラベルってやつは」
「面倒だけど、楽しいよ」
トリィネはご機嫌に笑いながら、買った漫画の入った鞄を大事そうに抱えていた。
「そうか、だから趣味なのか」
そんな軽口を叩くクレータの耳が突然ピンと立つ。立ち止まるクレータの顔をスレヴァーは覗き込んだ。
「どうした?」
「……いや、何でもない。早く行こうぜ」
先導するクレータは行きとは違う道を進み出す。
「おい、何でそっち行くんだよ」
「こっちのほうが近道なんだよ。着いてこい」
言われるがまま大通りを外れて細道へ入ったときだった。
「なあ、兄ちゃんたち」
不意に背後から声が飛ぶ。振り返ると、数人の男たちが道を塞ぐように立っていた。
破れたズボンにタンクトップ。露出した二の腕には、カラフルな画が彫り込まれていた。
絵に描いたようなチンピラに、クレータは尻尾を振る。
「なんだ?俺にようか?」
スレヴァーは片眉を上げて軽口を叩く。だが男たちは返事もせず、代わりに彼らの旅行鞄へと視線を向けた。
「……重そうだな。持ってやろうか?もちろん駄賃は貰うがな」
「あーそういうの要らないんで」
スレヴァーが即答すると、男の一人がニヤリと笑った。
「いいや、必要になるぜ。今からテメエらは怪我をするんだからな」
路地の出口からも人がゾロゾロ入ってくる。どいつもこいつも似たような見た目をしている。集まってしまえば、個性も意味をなさなくなるものだ。
「今なら運ぶだけにしといてやる。抵抗するなら痛い目を見てもらい、その中の金は全部いただく」
トリィネは舌打ちし、クレータは尻尾をピンと立てる。
「おじさん達もしかして、ずっとつけてたの?」
「嬢ちゃん言いがかりはよくないな〜」
「お金のことを知ってるなんて絶対そうでしょ」
トリィネ達の言い合いを横目に、スレヴァーはしゃがみ込む。クレータの頭を撫でながら低い声で呟いた。
「お前気づいてただろ」
クレータは無言のまま、わざとらしく首を傾げる。
スレヴァーのこめかみがピクリと動く。イライラに身を任せて、クレータを出口を塞ぐチンピラの方へぶん投げた。
クレータは中を舞い、さすがの運動神経で上手に着地する。チンピラの注目は一点に集中した。
「お兄さんたち!そいつアンドロイド犬なんだけど、なんと喋るんだ!結構高く売れると思うんだけど、捕まえたらあんたらの好きにしていいよ」
チンピラは一斉にクレータに掴みかかる。それを必死に避けながら、何か必死に叫んでいた。
スレヴァーはその声を無視して、入り口を防ぐチンピラを睨む。
「その目は交渉決裂ってことでいいか?」
「こう言う場所は好きだ。街の裏側は監視の目が薄い」
「反抗するってんならマケてはやれんな」
「それはこっちのセリフ」
スレヴァーは鞄を持ったまま走り出す。小さな車輪がゴロゴロと音を立てていた。
それに臆することなく向かってきたのは3人。スレヴァーはそれらの顔面に容赦なく鞄を叩きつけた。
3人は声を出すことなく倒れ込んだ。




