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第24話 DOGファイト!①

スレヴァーとトリィネは久しぶりの未来に、懐かしさを覚えながら街の中心部を闊歩する。いつもと違うのは、一匹の犬が後ろを着いてきている点だ。


「この時代はほんっとに暑いね」


 トリィネは額の汗をハンカチで上品に拭き取る。

 2038年の真昼の暑さは、過去に慣れている2人には確かに辛いものであった。その暑さのせいか、夜に比べて街に活気が感じられない。実際、ハンカチでは足りないほどの汗が、2人から流れ出ていた。

 熱気を逃がそうとスレヴァーはシャツの首元をパタパタさせる。

 

「なあ、スレヴァー」

「なんだよ?」

「オマエらは今どこに向かってるんだ?」

「私達はね。今、本屋に向かってるの」

「こんなに汗だくになりながら、バカでけえ旅行鞄を持って向かう先が本屋?そんなことより、オレ様の実力を早く見せてえよ。その辺のチンピラとっ捕まえてボコってやろうか?」


 犬が言っていいとは思えぬほど野蛮なセリフにトリィネは顔を引き攣らせる。スレヴァーは赤信号の前でしゃがみ込むと、クレータに視線を合わせた。

 

「あのなあ、勘違いすんなよ。お前はあくまで俺たちに着いてくるだけなんだ。行き先を決める権利はお前にはないんだから、文句を言うんじゃねえ」


 クレータは視線をそらすと、悲しそうに下を向く。

 信号は青に変わり、音が合図する。スレヴァーはゆっくり膝を伸ばすと、ボソッと呟いた。


「大体、脅しには乗ってやるって言ってんだ。実力なんて実戦の中で見せてみろ」


 スレヴァーはクレータの表情も見ることなく歩き出す。トリィネは駆け足で彼に近づくと、優しい声で囁いた。


「結構優しいね。もしかして、情が移っちゃった?」

「……そうなのか?」


 スレヴァーの問にトリィネは目を細める。

 

「なんで疑問形?他人の感情なんて私に分かるわけないじゃん」

「そうだよな〜」


 鬱陶しい存在であるクレータに、わざわざフォローの言葉を投げた自分に、スレヴァーは困惑していた。トリィネがいうように、この短時間で何か感情面に変化があったのだろうか。

 それとも、あの悲しそうな表情だろうか。誰にも聞こえないような声で、スレヴァーは無意識に言葉を零す。


「あんな表情してても、犬じゃなくてロボットなんだよな」


 言葉にした瞬間、胸の奥で引っかかる感覚があった。

 犬の形をしたロボット……そういう話を、どこかで聞いた気がする。ずっと昔に、誰かが。

 けれど思い出そうとした途端、頭の奥がざらついて、無意識にそれ以上考えるのをやめていた。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「へぇ?なにが?」

「何がじゃないよ。道の真ん中でぼーっとしちゃって」

「大丈夫かスレヴァー」


 スレヴァーは頭を掻きながら、作り笑いを浮かべる。


「あ?おう、俺は元気だぜ。暑さでちょっと疲れちゃっただけ」

「もう、すぐそこなんだから頼むよ」

「へいへい」


 過去を振り返ると嫌なことも思い出さなければいけない。だから、このことはとりあえず考えないことにして、目先の楽しみに目を向ける。嫌なことには必要な時にだけ目を向ければいい。

 スレヴァーは先を行くトリィネの跡を追い、二人並んで本屋に入るのであった。

 

 店内に入ると、2人は上品な音楽と冷たい空気に包まれる。外への嫌悪感は一気に吹き飛び、店への感謝で心は満たされていた。

 各々が買い物カゴを手に取り、スキップ交じりで店内を進む。


「これと、これと、あとこれもか」


 スレヴァーはメモを片手に、次々と本をカゴに入れる。その量は、カゴから溢れんばかりであった。


「そんなに買うのか?案外リッチなんだな」


 スレヴァーは足を止めて、声の方へ目を向ける。視線は下へと向かい、地面スレスレでその主を見つけた。 


「ちょっとー店員さん、普通に犬が店に入ってきちゃってますけどー」

「スレヴァー、本屋では静かにするもんだぜ」

「……お前なんで普通に入ってきてんだよ」


 スレヴァーが眉をひそめると、クレータは鼻を鳴らした。

 

「そりゃあアンドロイドだからに決まってんだろ田舎者」

「なーんか都合のいい時だけアンドロイド主張してくんのな」

「私の前では犬でいてよ」


 スレヴァーの体が跳ねる。後ろを見ると、気配を消したトリィネが、両手でカゴを持ちながら立っていた。


「私が飼いたいのは犬なんだからね」

「そうだぜクレータ。お前は俺にアンドロイドとしての価値を見せて、トリィネには犬としての価値証明をしなきゃだからな」


 クレータはトリィネの顔を覗き込むと、わざとらしく「ワン」と吠えた。

 満足気に頷くトリィネのかごを見ると、すべて埋まるほど大量の漫画が入れられていた。


「それにしても、えらい量の漫画を買うんだな」

「今回は結構多いよ。お兄ちゃんにも貸してあげる」

「オマエらなんでわざわざこの時代で漫画なんて買ってんだ?しかも、こんなに大量に」


 スレヴァーは着いてこいというように、クレータに目配せをする。彼の向かう先には漫画雑誌のコーナーがあった。一冊の雑誌を手に取り、犬にも見える位置までしゃがむ。


「クレータ、この漫画どう思うよ?」


 スレヴァーが指差すのは新連載の漫画。ペラペラと捲られるページを、3人はじっと眺める。最終ページまで捲り終えたところで、クレータは感想を話し始めた。


「まあ、面白いんじゃねえか?オレ様は続きを読みたいと思ったぜ」

 

スレヴァーはにやりと笑う。

 

「そうか、気になるか。読むためには1週間待つ必要があるな」

「当たり前だろ」

「だがな、俺達は違う」

 

 スレヴァーは雑誌を持ち上げ、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「過去でちょっと読んだ漫画も、この時代まで来ればだいたい完結してる。つまり、一気に最終巻まで楽しめるんだよ」

 

 クレータの目が見開かれる。

 

「な、なんだよそれ……ズルすぎるだろ!」

「フッ、それがタイムトラベラーの漫画ライフってやつだ」

「ちなみに賭けもしてるよ」

「どういうことだ?」

「漫画って打ち切りがあるでしょ?自分たちが面白いと思った漫画をメモしておいて、ちゃんと完結までやってるか、その数で勝負してるの。負けたほうが全奢り」


 クレータは電撃でも走ったかのように体を震わす。


「言っとくが、俺たちの遊びはこんなもんじゃ終わらねえぞ」

「ま、まだあんのか」


 スレヴァーたちは無言のまま会計を終えると、旅行鞄に漫画を入れる。ゴロゴロと車輪の音を響かせながら、次の場所へ向かった。

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