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第22話 凸凹フレンズ②

「それはそうと、この犬、実はすごい特徴があるんだぞ」

「義足の犬って時点である種の特徴なんだが、まだ何かあんの?」

「おう!なんとこいつアンドロイド犬なんだ。その義足も、見た目こそ悪いが性能的にはきちんと互換性のある……って聞いてんのか?」


 腕を組み首を傾げるトリィネに、岩見は勢いよく指を向ける。

 

「うーんっと、そもそもアンドロイド犬……ってなに?お兄ちゃん知ってる?」

「知らん!」


 岩見は呆れたようにため息をつく。


「お前らは、若者のくせしてホントに流行りを知らないな。金持ちの間で人気なんだぞ。世話しなくてもいいから楽だって」


 岩見の説明にトリィネは肩を落とす。

 

「うげぇ〜何その最悪な流行り方」


「忙しない現代人にはちょうどいい嗜好品ってわけだ」

 

 3人は一斉に固まる。聞いたことのない声が、聞こえるはずのない場所からしたためである。

 スレヴァーは、何か恐ろしいものを見るような視線を犬へ向けた。犬はその目に律されることなく、理に反して言葉を並べる。


「おいおい、それが犬に向ける目か?」

「しゃ、喋ったぞこの犬」

「なんで飼い主のあんたが驚いてんだよ」


 3人と一匹はほんの一瞬だけ硬直した。

 スレヴァーの冷静なツッコミに、岩見は震えた声で返事をした。

 

「喋ってるところなんて初めて見た。っていうかアンドロイド犬って喋るのか」

「オレ様レベルになると喋るんだぜ」


 ペラペラと喋る犬を見て、トリィネは失笑する。

 

「オレ様って……なんか、喋ると全然可愛くないね」

「気持ち悪い」

「全く面倒なのを拾っちまった」


 当然のように結論を下す三人を犬は悲しそうな目で見る。


「オマエらひどすぎない?」


 犬は軽快に高台に移動すると、小さい体で3人を見下ろした。


「おい!コロスケ危ないから降りろ!」


 スレヴァーは思わず吹き出す。その横でトリィネは体を震わせていた。

 

「おっさん、コロスケって……もしかして、あいつの名前か?」

「ああ、いい名前だろ?」

「やめろ!変な名前をつけるな!」


 コロスケというのは、犬相手なら普通の名前のように感じられる。しかし、目の前にいるやつに似合っているかと言うと、スレヴァーにはそう思えなかった。その佇まいも含めるとどこかおかしく見える。


「オレ様にはクレータっていう立派な名前があるんだ」

「クレータ……なんかしっくりくるな」


 頷くスレヴァーに、トリィネは軽蔑の目を向ける。


「えーなんか犬っぽくない」

「実際犬じゃないんだろ?アンドロイド犬って、どちらかと言うとモノだろ」

「ひっどい!」


──パンッ


 突然、ガレージ内に手を叩く音が響き渡る。それと同時に、スレヴァーの体が勢いよく跳ねた。

 響き渡る破裂音を、岩見の声がかき消す。


「はい、はい。休憩は終わり、作業が進まねえや」

「たしかに。邪魔しちゃ悪いな。ちなみに修理はいつ頃終わりそうだ?」

「あ?まあ、明日までには頑張ってみるよ」


 適当に返事をすると、岩見はすぐバイクにはりつく。

 2人が別れを告げる頃には、既に岩見は作業に戻っていた。一言声はかけたが、再び流れる作業音で自分たちの声が届いてるかは怪しかった。岩見が手を振ったのを見て、2人は外へ出ることにした。



「おじさん、元気そうだったね」

「だから言ったろ?バイク治ったら運動に誘ってやるか」


 伸びをするスレヴァーに、トリィネは苦笑いをしながら「お兄ちゃんも懲りないねぇ〜」と呟いた。


 2人は目的もなく歩き出す。何か指し示したわけではないが、無意識のうちに中心部へと向かっていた。


「っていうかさ、犬よくない?」

「は?」

「いやね。レンさんたちの犬の時も思ってたんだけど、癒やしって大事だと思うんだよね〜」

「お前クレータを見たあとも同じことが言えるのか?」

「見た目はちゃんと犬してたよ。中身は……あれだったけど」


 スレヴァーは頬をポリポリと掻き、トリィネを諭すように話し始める。


「そもそも、俺たちは生き物を飼えない。俺たちの仕事は及ぼす影響が大きい。レンさんのことで分かっただろ?記憶を持つものと過ごすのは危険すぎる」


 トリィネは下唇を噛み、何か言いたげな様子である。そんな彼女の肩に、スレヴァーは優しく手を置く。

 

「タイムマシンの副作用だと思って諦めてくれ。過去に行くっていうのは、それだけ重大なことなんだ」


 沈黙の中、微妙な空気が二人の間を満たした頃、後ろから偉そうな声が聞こえる。


「それなら、オレ様はどうだ?」


 スレヴァーとトリィネは咄嗟に後ろを向く。彼らは声の主を探して視線を下ろす。

 そこにはしたり顔をするクレータがいた。


「ク、クレータ!?いつから……」

「最初からだ。それよりもスレヴァー、オレ様を連れてけよ。いい癒し枠になると思うぞ」

「最初からってことは、テメェずっと話聞いてたのか?」

「ああ、運動に誘うってとこから、タイムマシンがどうたらってとこまで、バッチリ聞いてたぜ」

 

 目をキラキラさせながら言い放つクレータに、スレヴァーは頭を抱える。


「なあ、お嬢さん……えっと、名前は……」

「私はトリィネ」

「よし、トリィネ。犬を飼いたいんだろ!オレ様が飼われてやる」

「いや、君は……」


 トリィネは顔を引きつらせてクレータを見つめる。

 一方、スレヴァーはクレータに鋭い視線を向けた。

 

「お前ホンキでついてくるつもりか?」

「当たり前だろ!タイムマシンとか面白そうだしな」

「はっきり言うけどな。迷惑だ」

「へぇ……じゃあ仕方ねえな。俺を連れて行かないと……タイムマシンのこと、バラしちゃうかもな」

 

 スレヴァーは一瞬だけ表情を硬くしたが、すぐに鼻で笑った。

 

「犬がな~に一丁前に人のこと脅してんだよ」

「なんだと!ホントに言っちまうぞ、いいのか!?」

「おうおう言ってみろ。犬の言うことなんか、だーれも信じないだろうけどな」

 

 クレータは歯を剥き出して悔しそうに吠える。だが、すぐにまた強気な目でスレヴァーを見据えた。

 

「……じゃあ、別の理由で納得させてやる。まず第一に、トリィネは犬を飼いたがってただろ!」

「えっ」

 

 不意に名を出され、トリィネは肩を跳ねさせる。

 

「ほら、図星だ。オレ様ならピッタリじゃねえか?」

「いや、私が飼いたいのはかわいい犬であって、喋って生意気言う犬じゃ──」

「見た目は合格だろ!」

「中身も不合格だよ!」

 

 2人の掛け合いを眺めて、スレヴァーは深いため息をついた。

 

「それで第ニの根拠は?」

「戦力になる。義足の見た目でナメられるかもだが、中身はオオカミ級だぜ。誰より速く走れるし、鼻と耳は人間よりずっと利く。オレ様がいれば役に立つことも多いと思うぜ!」

 

 クレータの目が一瞬だけ真剣な色を帯びた。軽口ばかり叩く単なるアンドロイドの目ではない。

 その迫力に、スレヴァーは口をつぐむ。

 犬の体だからできることもあるかもしれない。

 

「……なるほどな。ほんとなら役には立つか」

「だろ?だからオレ様を連れてけ。つーか、もう勝手に着いてくけどな!」

「はあ!?何がお前をそこまで突き動かすんだよ」

「決まってんだろ!ワクワクするんだよ!誰が好き好んで退屈なガレージに残るかってんだ!」


 スレヴァーは頭をポリポリと指でかく。

 

「..... はぁ。脅しってのは気に食わねえが、そこまで言うならチャンスくらいはやるよ。だから俺を納得させてみせろ」

「へっ、言ったな!絶対に後悔させねえぞ!」

「いいのお兄ちゃん?」


 嬉しそうに飛び跳ねるクレータを横目に、トリィネの耳元で囁く。

 

「とりあえずは黙らせないとな。それに本当について行ったところで、こいつが未来の変化を覚えていなければ意味はないんだ。記憶をなくしたその時置いていけばいい」

「……お兄ちゃんも中々悪いね」


 スレヴァーは真顔でトリィネにピースをする。トリィネも同じようにピースを返す。

 それを見て、クレータは首をかしげながら、「なんの儀式だ?」と小声でつぶやいた。

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