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第13話 恋慕舞い降りることを誓う①

誰もいない道の先、暖かい光を放つ夕日をスレヴァーは眺めていた。思考が停止した彼をトリィネは必死に呼ぶ。


「お兄ちゃん、早く!」


 1人で立ち尽くすスレヴァーを、トリィネは不思議そうに見ている。トリィネの手招きに、スレヴァーは大人しく従った。


「あれ、エアルスさんどこに行ったの?」


 トリィネの言葉でスレヴァーの心は少し楽になる。もしかしたら、エアルスは自分が見た幻覚だったのではないか。そう思っていたからだ。

 それと同時に、不安と疑問を抱えたままになることが確定する。


「俺が気づいたときには、もういなかった」

「あ、そうなんだ。それより早く、ね!」


 あまりにもあっさりとした態度に、スレヴァーは少し当惑する。

 彼女の勢いに押され、彼の中のスイッチも切り替わる。目の前の女生徒に意識を集中させる。チラつくエアルスの影を無視しながら。


「これが私の兄、スレヴァーです」

「は、はあ」

「こんにちは。スレヴァーです」


 挨拶も手短にスレヴァーは目の前の女生徒と写真の中の女性を見比べる。


「墓下マイさんで間違いないね?」

「そうですけど、なんで名前知ってるんですか……」


 墓下マイ。写真と変わらぬ素朴な見た目。違う点を挙げるなら、髪形だろう。写真では下ろしている髪が、今はピンクのゴムで1つにまとめられている。

 スレヴァーは少し申し訳ない気持ちになる。出会った直後のエアルスと比べずにいられない。こんな最低なことがあるだろうか。


 スレヴァーは稚拙な考えを振り払うように、頭を横に振る。

 

 その様子からか、マイはスレヴァーたちに怪訝な目を向けた。スレヴァーはその目を大人しく受け入れ説明に入るのだった。


「僕らはあなたに……正確にはあなたのご友人にもですが、ある物を渡すよう頼まれまして」

「ある物……誰からですか?」


 スレヴァーは開いた口をすぐに閉じる。未来のことを言っていいものだろうか。あくまでもレンは過去に託したのだ。にも関わらず、ここで簡単に未来のことを口にするのは、その思いを邪険にするようなものではないか。

 少しの沈黙の後、スレヴァーは空を仰ぐ。


「誰かは……諸事情から言えない。ただ、1つ言えるのは、君たちの事をとても大切に想っている人からだ」

「私のことを?」


 何か考えるように、マイの視線が右上にうつる。


「おーい、マイ〜」


 マイはスレヴァーたちを背に校門の方を見る。校門から校舎までは坂になっており、一人の男子生徒がそこを駆け下りてきた。

 勢い任せで下ってきた男子は、上手にブレーキをかけて3人の前で止まる。


「マイ、準備はできたか?」


 マイは手を合わせ、頭を下げる。

 

「ごめん!話をしてたから出来てなくて」

「話って……この人たちと?」


 男子生徒は訝しげな目をスレヴァーたちに向ける。数時間前に話していた人と同じ人物。しかし成長により多少の変化をしていたようだ。変わらない声とその顔から間違いはなさそうだが、スレヴァーは念の為写真と見比べる。


「君は……相生レンで間違いないな」


 レンの目が一層鋭くなる。高まる疑念をひしひしと感じながら、スレヴァーは引くことなく話を続けた。


「誰ですか?あんた」

「さっきマイさんには話したんだが、今回あるものを2人に渡すため来た」

「渡したい……もの?」

 

 レンはマイと顔を見合わせる。


「知らない人から受け取るものなどありません」


 レンが半歩前に出て、マイを庇うように腕を広げる。

 

「そう言われても、特にレンくんには受け取ってほしいのだけれど」

「俺?何を渡すっていうんです?」

「手紙だよ。君あてのね」


 スレヴァーはポケットをポンと叩き、手紙がそこにあるのを暗に示す。

 そんなスレヴァーの一挙手一投足を見逃すまいとレンは彼を凝視する。

 

「手紙を渡すにしてもこんな渡し方おかしいでしょう。何のためにポストがあるんです?」

「それはいろいろ事情があって……」


 レンは深いため息をつく。ため息とともに漏れるイラ立ちをスレヴァーは敏感に感じとっていた。

 

「さっきから濁してばかりじゃないですか。そんな人からの物を受け取れるはずありません」

「私も怖いな」


 マイは不安そうに呟き、スカートの裾を握りしめる。

 その小さな声をレンは聞き逃さずチラッと後ろを見る。より一層目つきは鋭くなった。

 

「やっぱり受け取れません。というか大人呼びますよ」


 レンが振り返り校舎の方へ声を張り上げかける。慌てたトリィネが、両手をぶんぶん振り回した。

 

「そんなの困るよ!受け取ってくれないとレンさんがかわいそう」

「……なんで俺が可哀想なんだよ」


 レンの反応はごく自然である。ボロを出したトリィネの頭をスレヴァーはコツンと小突く。

 

「トリィネ、余計なことを言うな」

「……ごめん。でも、レンさんの性格的に簡単に受け取ってくれないよ」

 

 レンとマイの態度に変化はない。それは目つきと言動から明らかであった。どうしたものかと悩んでいると、スレヴァーの耳に怒鳴り声が飛んでくる。

 

「おい!お前ら何サボってるんだ!部活は始まってるんだぞ」

「あ、先生」


 彼らの視線の先には、ジャージ姿の男の姿があった。彼らが呼ぶまでもなく大人が現れたのだ。状況に変化は欲しかったが、それが外的要因、尚且つ彼らの味方であるなら話は別である。スレヴァーはトリィネの手を引き走り出す。

 

「作戦の立て直しだ。いったん引くぞ」

 

 振り返ると今にも追いかけてきそうなレンをマイが抑え込んでいた。


 学校の敷地は正方形に近く、当然、周りを囲む道路も直線ばかり。スレヴァーたちは彼らの視界から消えるべくなんとか路地に入りこんだ。

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