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第11話 恋慕舞い踊ることを望む①

過去に到着したスレヴァーは、有料パーキングに車を停めると写真片手に街を彷徨っていた。

 写真にはレンとマイの立ち姿。2人の間に豊影高校卒業の立て看板が写っている。唯一の手がかりである豊影高校を目指して2人は歩いていたのだ。

 トリィネは手で顔を仰ぎながら気怠げに愚痴を漏らす。


「それにしてもあっついね〜」


 2人が飛んだ先は7月の中旬。夏真っ只中といったところだろう。セミの大合唱は留まることを知らず、2人に雑多な音色を聴かせてくれていた。

 日差しから逃げるように影の上を渡り歩く2人。その姿はまるで吸血鬼のようだった。


「あ、そうだ」


 トリィネは思い出したように鞄に手を突っ込むと、中から何かを引っ張り出した。取り出したそれをスレヴァーは恨めしそうに眺める。


「トリィネ、お前持ってきてたのか……」

「言ったでしょ。私は年頃のレディなの。日傘くらい持ってきていて当然でしょ」


 トリィネの足元に影ができる。その瞬間、彼女の表情が一気に和らいだ。


「涼しい……。最初に日傘をさした人は感動しただろうね。こんなにも違うだなんて」


 スレヴァーには傘の下がさながらオアシスのように見えていた。水を求める動物のように、無意識のうちにトリィネの傍へ近づく。


「ちょっと、寄るんじゃない!シッシッ」

「別に貸してくれなんて言ってないだろ。頼むから中に入れてくれ」

「ちょっと、くっつかないでよ!只でさえ暑いのに余計暑いじゃん!」


 どうにか影を分けてもらおうとしたスレヴァーだったが、ついに入れてもらうことはできず、日の下に晒されながら学校まで歩く。

 やっと着いた頃には2人とも汗だくになっていた。喉を鳴らしながら水を飲むスレヴァーにトリィネは純粋な疑問をぶつける。

 

「それでこっからどうするの?」

「どう……しような」


 写真を再度見てみるが、特に手がかりになりそうなものは写っていない。とりあえず高校に来てはみたものの、レンとマイを探す手段は現状の2人にはなかった。必死に着いた豊影高校は、単なるスタート地点にすぎないのである。

 なんとか頭を回転させるが、スレヴァーが辿り着いた答えは───


「とりあえず人が出てくるのを待ってみよう」

「マジすか」


 トリィネはガクっと頭を下げる。特に反論をしてこないあたり、彼女にもこれと言った策がないとスレヴァーにも察せられた。

 校門の影に身を隠しながら、ただひたすら人が出てくるのを待ち続ける。トリィネとスレヴァーは、その間、くだらない雑談を始めていた。


「お兄ちゃんは普通に学生してたらさ、夏にどんなことしてたと思う?」


 ふいにトリィネが問いかける。暑さのせいかやや気怠げな声だった。


「……うーん。クーラーの効いた部屋でだらけっかな〜」

「うーわ、夢なさすぎ〜」


 トリィネは肩をすくめてあきれたように笑う。


「叶えようがない夢を語っても寂しいだけだろ」

「夢語るときくらい楽しげでいてよね。ほら、なんか捻り出して!夏の思い出作る努力して!」


 スレヴァーはこめかみに指を当てて唸る。力の入りすぎで彼の顔はしわくちゃになっていた。


「う――ん、アイスを食べる」

「よっわぁー、ぜんっぜんダメ。思い出って言ってるじゃん。そんなの思い出になるはずないよね。例えば、夏祭りに行くとか、海に行くとか!」

「一人で行ったらそれは思い出じゃない。ただの記憶だろ」

「なにその名言風なセリフ。意味わかんない。……っていうか、勝手に一人で行く妄想してるだけじゃん」

「そういうトリィネはどうなんだよ。どんな一夏の思い出を作るんだ?」

「トリィは彼氏と──」

「待て待て。なんで彼氏がいる前提なんだよ」


 スレヴァーが苦笑いを浮かべると、トリィネは得意げに鼻を鳴らす。


「私ほどの美人なら彼氏がいて当然でしょ」

「よくもまあそんなことを堂々と言えるな」

「これくらいのこと堂々と言ってみせないとモテないよ?男なら尚更ね」

「いわゆる男らしさってやつか?」

「そうそう。ちなみに私の彼氏は超男らしいから」

「へえ、具体的にどう男らしいんだよ」

「手紙を書くときに漢字しか使わない」

「平安貴族か!?」


 スレヴァーは思わず吹き出した。


「ちなみに私にはカタカナを強制してくるよ」

「そこまできたらもはや女々しいよ。そんなの彼氏にしたらさすがの俺も止めるからな」

「それでも彼は私の心を射止めるわ」

「いや、止めるのは俺の役目なんだが!?」


 2人は顔を見合わせて笑った。日陰は狭くてもそこに流れる空気はどこか心地がいい。

 セミの鳴き声は容赦なく耳に届き、汗が首筋を伝って落ちていく。


雑な談義はとどまるところを知らず2人は話し続ける。段々とその姿勢は崩れていき、いつの間にか寝転がっていた。日は完全に校舎の後ろに隠れて影は広がるばかり。


 涼しい風と暖かい地面。スレヴァーは瞬きを繰り返し、なんとか意識を保つ。油断すると今にも寝てしまいそうだった。

 意識が途切れないように、2人は必死に会話を続ける。


「それにしても誰一人としてでてこないね」


 トリィネはうちわ代わりに手をパタパタと振りながら呟いた。

 

「そうだな。で、結局なにするんだよ?」

「なにが?」

「話の途中だっただろ。彼氏と夏の思い出」


 スレヴァーの問いかけに、トリィネは一瞬ぽかんとした顔をしたあと、ニヤリと口角を上げた。


「あ――てか、そんなに気になる?」

「気になるな。お前が彼氏とどんな夏を過ごすのか。実に気になる」

「もうトリィじゃなくて、存在しない彼氏のほうに興味湧いてるでしょ……。そうだな〜例えば──」

「私は、夏は好きな人と室内で過ごしたいかな」

 

 耳元で女性の囁く声が聞こえスレヴァーの意識は覚醒する。眠気は一瞬で吹き飛び、はっきりとした視界には自分を覗き込む女性の姿が写っていた。

ちょっと区切りおかしいかもです。ごめんなさい。

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