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第5話 額面比べ

 束仁はスタッフに案内され、若葉を連れて部屋に入った時、思わず憂鬱な表情を浮かべた。桐竹が眉間に皺を寄せていたからだ。もし問題が解決しているのであれば、もっとましな顔をしているだろう。雉子はすでに室内にいて、不満げな心情を隠そうともしていなかった。

 桐竹が重苦しいトーンの声で「矗野真田さま、凰沢さま」と話し始めた。「単刀直入に申し上げます、あのボールに描かれている星座がふね座とみなみのふね座のどちらなのかわかりませんでした。本当なら区別するための目印が付いているはずなのですが……手違いがあったようです」

 束仁たちがいるのはホール内に設けられた、衝立で四角く仕切られた部屋だった。イベント中はスタッフの詰め所として利用されていたようで、台本らしき冊子や小道具などがあちこちに置かれていた。

 今度は束仁が眉間に皺を寄せる番だった。「じゃあどっちを当選者にするんです? 景品は一つしかないんですよね」桐竹とはもちろん今日出会ったばかりとはいえ、消極的なコミュニケーションをしている場合ではない。「言っておきますが、おれは降りませんよ。さすがにこればかりは譲れません、エウレカ! コミューン3のプラチナエディションを無償で手に入れる唯一の機会なんですから」

 雉子は胸を反らした。「もちろんわたしも引き下がらないわよ。誰が遠慮するものですか」腕を組んだ。「仕方ないわね、じゃんけんでもする?」

「じゃ、じゃんけん?」上ずった声になった。「いや、じゃんけんはちょっと。他の勝負にしようじゃないか。……そうだ、せっかくのステラフェスなんだし、エウレカ! ユニオンに収録されているミニゲームをもじった勝負なんてどうだ?」

「ふうん……それは名案ね」雉子は不敵に笑い、頷いた。「エウレカ! コミューン3のプラチナエディションの獲得者を決めるのに打ってつけだわ。かまわないわよ。わたしこそが相応しいと証明してあげる。

 でも、いったい何をするのよ? 場所はここを借りるとしても、道具が要るんじゃないの? すぐに調達できるのかしら」

「そうだよなあ、あまり準備が面倒なのは……」束仁は考え込もうとして腕を組んだ。

 桐竹が口を開いた。「矗野真田さま、凰沢さま。ご提案があります。お二人の対決、わたしたちに取り仕切らせていただけないでしょうか?」

 束仁は桐竹を見た。「取り仕切る……ですか?」

「はい。ぴったりのゲームをご用意できます。さきほど矗野真田さまが仰ったように、エウレカ! ユニオンに収録されているミニゲームをもじったものです。もともとステラフェスの午前の部に行われるゲームの候補だったのですが、都合により不採用となっていました。

 お二人さえよろしければ、このような事態を招いてしまったお詫びも兼ねまして、勝負を取り仕切らせていただきますが……いかがでしょうか?」

 束仁は「面白そうですね」と言い、腕を解いた。「おれはかまいません」

 雉子も楽な姿勢をとった。「わたしもいいですよ」

「ありがとうございます。それではさっそく、ゲームの説明をします。名称は『キャッシュデュエル』。エウレカ! ユニオン2に収録されているミニゲーム『キャッシュをくらべろ!』をもじったものです。

 ルールはいたってシンプル。両プレイヤーには手持ちのキャッシュの中から一つを選んでいただき、同じタイミングで出していただきます。その出されたキャッシュの種類によって勝敗が決まります。

 本来ならば専用の小道具を用意するべきなのですが、この場にはありませんから、お持ちの財布の現金を使いましょう。つまり、一円玉とか五〇〇円玉とか一〇〇〇〇円札とかです。その中から一つを選んで同じタイミングで出していただき、額の多いほうの勝ちです。勝者は白星を──エウレカ! コミューンに倣って『ウィズダム』と呼称しましょうか──ウィズダムを1WD獲得します」

 束仁は頷いた。「例えば、おれが出したのが一〇〇〇〇円札で凰沢が出したのが五〇円玉なら、おれが1WDを得られるってわけですね」

「はい。なお、ゲームは両プレイヤーのキャッシュが尽きるまで行います。先に尽きたほうのプレイヤーは、その後は相手プレイヤーのキャッシュが尽きるまで、自動的に負けるものとして扱われます」

 雉子は顎をさすった。「例えば、矗野真田くんのキャッシュが尽きた時点でわたしが一円玉を五枚持っていれば、わたしが5WDを入手できる。そういうことですね」

「はい。それで、ゲームが終了した時点、すなわち両プレイヤーのキャッシュが尽きた時点で所持ウィズダム数が多いほうの勝利です。なお、同数の場合はキャッシュデュエル開始時点で所持していたキャッシュの合計額が多いほうの勝ちとします」

 束仁は腰に手を当てた。「要するに引き分けになった場合、例えばおれのもともとの所持金額が二〇〇〇〇円、凰沢のもともとの所持金額が一〇〇〇〇円なら、おれの勝ちになるわけですね」

「はい。なお、キャッシュは現在も使われている日本円に限定します。つまり、一円玉、五円玉、一〇円玉、五〇円玉、一〇〇円玉、五〇〇円玉、一〇〇〇円札、二〇〇〇円札、五〇〇〇円札、一〇〇〇〇円札の十種です。

 また、キャッシュデュエルには禁止行為が三つ定められています。一つ目、キャッシュが残っているにもかかわらず出さないことで不戦敗しようとすること。プレイヤーには、キャッシュが残っている限り必ずそのうちの一つを出していただきます」

 若葉は首筋を撫でた。「例えば、高額のキャッシュがあるけど温存したいから出さずにわざと負ける、という戦術は無理なわけですね」

「二つ目、ゲーム中に所持金額を不当に増減させること。後で現時点におけるお二人の所持金額を記録させていただきます」

 雉子は首を縦に振った。「まあ、そうしないと、勝負の最中にATMに行ってお金を下ろす、という戦術が可能になって収拾がつかなくなってしまいますからね」

「三つ目、自分以外の人間とキャッシュの受け渡しを行うこと。この行為はいっさいの例外なく禁止します。たとえ数秒間だけのことであったとしても反則とみなします。

 ルールは以上です。次にゲームの流れを説明します」

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