第15話 崩し
「五つ以上というか、六つ以上あるケースは考えたくないな。四連勝したところで凰沢の所持ウィズダム数を超えられなくなる、敗北が確定するから。
しかし一〇〇〇円札はともかく、他は五〇円玉と一〇円玉……。はっきり言ってこの手持ちで三勝するのは厳しいな。もっと言うと、もし凰沢が五〇〇〇円札か一〇〇〇〇円札を一枚でも持っていたら、もう逆転は不可能だ。いったいどうすれば……」
束仁は考えを巡らせ始めた。白テーブルに載せているショルダーバッグを視界に捉える。
(そうだ、ラウンド8の時のように持ち物をすべて出して眺めてみよう。何かアイデアが浮かぶかもしれない)
さっそく鞄のファスナーを開き、内部から物を取り出しては白テーブルに置いていった。モバイルバッテリーやポケットティッシュ、クリアフォルダなどだ。
(……ん?)
束仁は箱を取り出した。野球ボール大の立方体で、正面の一部が透明になっている。中にはエウレカ! ユニオン3に登場するライオンのキャラクターのぬいぐるみが収められていた。
それを見て閃いたことがあり、まぶたを引き上げた。「その手があったか!」
若葉が驚いて尋ねてきた。「どうしたの?」
「素晴らしい作戦を思いついたんだ」箱を白テーブルに載せた。「こうしちゃいられない、急いで動かないと」
その後、二人は急いで用事に取りかかり、なんとかシンキングタイムの残り時間が尽きる寸前になって王冠の部屋に入ることができた。雉子はすでに茶テーブルの向こうにいた。
「それでは、キャッシュを提示してください」
束仁は右手を開いた。一〇〇円玉が白鳥の器に落ちた。
雉子も右手を開いた。小さく折り畳まれた紙幣が狗鷲の器に落ちた。
(凰沢は明らかに訝しんでいるな。そりゃそうか、おれの財布を覗いた凰沢にしてみれば、おれはもう一〇〇円玉を持っていないはずなんだから)
束仁は狗鷲の器に視線を遣った。一〇〇〇〇円札だった。
「矗野真田さまのキャッシュは一〇〇円玉、凰沢さまのキャッシュは一〇〇〇〇円札。よって凰沢さまの勝利です」
灰テーブルのモニターの表示内容が更新され、「矗野真田束仁:4WD」「凰沢雉子:7WD」となった。桐竹が言う。「お知らせします、凰沢さまのキャッシュが尽きました。よって矗野真田さまは残りのキャッシュの数だけウィズダムを獲得されます」
(やった、覚悟していたより早かったぞ……!)会心の笑みを浮かべた。
「それでは矗野真田さま、残りのキャッシュを提示してください」
束仁は「わかった」と返事をして財布を取り出した。小銭入れ部分の蓋を開け、茶テーブル上でひっくり返す。
中から貨幣が落ちてきて、辺りに散らばった。一〇円玉、五〇円玉、五〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉、一〇〇円玉だ。
雉子は目を見開き、口を半開きにした。
呆気に取られているらしく桐竹が何も喋らないので、代わりに束仁が言ってやった。「残りのキャッシュは十二個だ。これで十二勝、最終的な所持ウィズダム数は16WD」にやりと笑ってみせた。「逆転勝利だな」
雉子が「ちょ……ちょっと待って」と言い、右手を小さく挙げた。
「どうした?」
雉子は視線をさまよわせた。「えっと……」付き合いが長いわけではないが、珍しい表情だ。
(凰沢にしてみれば、おれの財布を覗いたことはまだばれていないんだから、言い出しかねているんだろうな)黙っていてもよかったが、助け舟を出してやることにした。「一〇〇〇円札が消えて大量の一〇〇円玉が現れた件か?」
雉子は再び口をぽかんと開けた。
束仁は会心の笑みを浮かべてみせた。「とっくにわかっていたよ、あんたがおれの財布を覗いたことは。まあどうせ桐竹には説明する必要があるし、せっかくだからついでに教えてやる。といっても、もう勘づいているんじゃないのか? おれは一〇〇〇円札を一〇〇円玉十枚に両替したんだ」
雉子は大きな溜め息をついた。「両替なんてどうやってしたのよ? 今時、どこのお店も受け付けていないでしょう。呂金さんにしてもらったとか? いや、そもそも『自分以外の人間とのキャッシュの受け渡し』で反則になっちゃうわね」
「そうだ、人間が相手だと反則になる」頷いた。「両替機だよ。このビルにあるゲームセンターの両替機。さっきのシンキングタイム中に行って利用したんだ。スタッフにはお手洗いだと言ってな」
「なるほど」雉子は苦い物でも口にしたような表情になった。「『所持金額を不当に増減させること』は禁止だけれど、一〇〇〇円札を一〇〇円玉十枚に両替した場合は『所持金額』は変わらないものね」
「そういうことだ」
桐竹が言う。「最終的な所持ウィズダム数は矗野真田さまが16WD、凰沢さまが7WDとなりました。よってキャッシュデュエルは矗野真田さまの勝利です」
「よっしゃっ……!」両手でガッツポーズをした。
「では景品をお持ちします。しばらくお待ちください」
桐竹は王冠の部屋を後にした。束仁は雉子の様子を窺った。当然と言えば当然だが、がっくりと肩を落としてしょげ、床に目を向けていた。
少し前に思いつき、頭の片隅で考えていたことがあった。掌の汗をスラックスの布地で拭うと、意を決して「なあ、凰沢」と話しかけた。「キャッシュデュエル、楽しかったよ。あんたがなんとしてでも勝とうとしているのが伝わってきた。ステラフェスに参加している時点でそうなんだが、あんたもエウレカ! コミューンシリーズがめちゃくちゃ好きなんだな」
雉子は顔を上げ、視線を向けてきた。怪訝そうで、話の意図を測りかねている表情だった。
「そこで、提案したいことがあるんだが」




