小説家になろうのアクセス数が減り続けています ~復活の為に必要な事は?
小説家になろうのアクセス数が減り続けています。
随分前からなろうの小説作品はあまり売れなくなっていて、それでもしばらくはアクセス数に大きな影響はありませんでした(途中まではむしろ増加していました)が、これはコミカライズのお陰ではないかと思われます(一応強調しておくと仮説に過ぎませんが)。
ですが、最近になって、小説家になろうのアクセス数は目に見えて減少してしまいました。
一部、「ランキング上位から、男性向け作品が減ってしまったからではないか?」という声がありますが、もし本当にそうなら男性向け作品が強い他の小説投稿サイトの人気が上がっていなくてはおかしいので、恐らくは違うでしょう。アクセス数が減っている主な原因は、なろう人気を支えていたなろうコミカライズ作品が飽きられ始めているからではないかと僕は予想しています。
なろうコミカライズ作品の売上げがどうなっているのかは分からないのですが、なろうコミカライズ作品のレビュー動画は少なくなって来ているようなのです。いえ、これもそこまで正確なデータではないのでそこは確りと踏まえておいて欲しいのですが、僕はなろうコミカライズ作品のレビュー動画をラジオ感覚でよく聞いています。動画サイトのトップの“お薦め”に表示されるレビュー動画を見つけては溜めておき、作業がある時に流しているのですが、以前は動画数が多過ぎて見切れない程だったのに、最近はあまり溜まらず、自分から探す事すらもあります。
(因みになろう作品のレビュー動画を聞き始めた頃は、なろう小説のレビュー動画もそれなりにあったのですが、今では見つけるのも難しくなっています)
――そして、もし仮に、なろうコミカライズ作品が飽きられ始めているという仮説が正しいのだとすれば、その主な原因は、“オリジナリティのなさ”である可能性が最も高いのではないかと考えられます。要するに、小説家になろうが衰退し続けているのは、“オリジナリティがない作品が多過ぎる”からだと思うのです。
僕はこういったエッセイを書く為の参考情報として、なろうアニメ作品を以前は見るようにしていたのですが、ある時からあまりに似たような作品が多過ぎるので視聴するのに耐え切れず、観なくなってしまいました(以降は代わりにレビュー動画を参考するようにしています)。また、なろう系にとても好意的なアニメのレビュアーさんがいるのですが、その方ですら“テンプレが過ぎる”(つまり、オリジナリティがない)と、視聴を断念していました。
もちろん、なろう作品と言ってもテンプレ作品ばかりではありません。が、そういった作品でもオリジナリティが高いのかと言われれば正直“並”ではないかと思われます。あるレビュー動画で褒めていた作品がアニメ化されたので試しに視聴してみたのですが、それほどオリジナリティはありませんでした。確かになろう系のテンプレではありませんでしたが。
これでは敢えてなろう作品を選ぶ理由はないように思えます。
恐らくは小説家になろう運営もこういった問題点には気が付いているのでしょう。だからこそ対策をして来たのです。
では、それをざっと述べていきます。
まず一番目、2024年初め頃に、ランキングシステムの改革を行い、“注目度ランキング”という単純なポイントとは別のランキングを創設しました。これによりなろうではマイナージャンルの作品にも光が当たり易くしました。
二番目にユーザー画面の大幅なバージョンアップを行いました。当初はバグ(?)やユーザーの戸惑いもあったようですが、確かに使い勝手は良くなっているように思えます。
三番目に、ミステリー映画である『あの人が消えた』と協賛を行いました。劇中に“小説家になろう”が登場しているそうです。もちろん、これには視聴者をなろうに呼び込む効果が期待できます。
予想になりますが、恐らくなろう運営はこれら試みで、このような流れを実現したかったのではないでしょうか?
まず、“注目度ランキング”で、一般向け作品が目立つようにし、一般層のユーザーを増やします。次にユーザー画面の使い勝手を上げる事で、一般向け作品のクリエイターをより多く集めます。なろうではマイナージャンルですが、一般的な小説で最も人気のあるジャンルはミステリですから、これがもし成功していたなら、なろうにミステリ作品が増えていた事でしょう。最後にミステリー映画『あの人が消えた』の効果によってミステリファンを呼び込み、なろう内でミステリジャンルを確立する……
もう一度断っておきますが、これは飽くまで予想に過ぎません。しかし、この予想通りの計画だったとするのなら、なろう運営は失敗をしてしまっています。ミステリジャンルの作品が大幅に増えるような事は起こっていませんからね。
原因については色々と指摘できます。
どれくらいの予算をかけたのかは分からないので費用対効果が十分に出ているのか判別は付きませんが、映画『あの人が消えた』の上映期間中、確かになろうのアクセス数は増加していました。が、そのユーザーを掴んで固定客にする努力をなろう運営は行っていません。例えば、上映に合わせてミステリ小説コンテストを開いて(“小説家になろうが出て来る”という縛りにした方が面白いかも?)、ポイントは無視して本気でクオリティの高い作品を選べば、きっと固定客になってくれるユーザーはもっといたと思うのです。
また、“ユーザー画面のバージョンアップ”ですが、これはあまり意味がなかったと思われます。読者が集まって来さえすればクリエイターは自然と集まって来ます。重要なのは“一般向け作品が真っ当に評価される土壌”を作る事であって、どれだけ使い勝手の良い画面を作ってもクリエイターにとってそれほど魅力にはなりません。
恐らく、ですが、小説家になろう運営はかつてこのような方法でクリエイターを集めて成長した成功体験があるので、それを忘れられなかったのではないでしょうか?
実は「過去の成功体験が忘れられずにそれに固執し、環境の変化に適応できずに衰退していく」というのは企業の典型的な衰退パターンでもあるのです。
最後が最も重要ですが、“注目度ランキング”は運営が期待したようには機能していません。現在のなろうのポイントシステムには根本的な問題点がある為、“売れる作品”を抽出する機能を持ち得ないのです。
漫画雑誌の編集者を考えてください。彼らは当然ながら「いかに漫画雑誌の人気を出すか」を基準に漫画を選びます。各社ともネット普及の影響で売上げが下がって来ているとはいえ、それでもヒット作が出る事が多いのはだからこそでしょう。しかし、小説家になろうユーザーの場合は、「いかに小説家になろうの人気を出すか」を考えてポイントを入れたりはしていません。酷い場合には「なろうの宣伝力を利用してやろう」という事しか考えていない人もいるでしょう。
もし仮に、小説家になろうのトップ画面で自分の作品を宣伝してもらおうと思ったのなら、月に数百万円、下手すればもう1千万円以上の費用がかかります。ところが、ランキングトップに入れば0円でその宣伝を受けられるのです。それを狙っている人達がいても不思議ではないでしょう。
実際、注目度ランキングが始まった当初は他ジャンルの作品も上位の方に入っていたのですが、直ぐに消えていってしまいました。つまり、“作品の宣伝を行う”目的でポイントを入れている人達がいるのです。
もちろん、そういったユーザーは全体から観ればそれほど多くはないかもしれませんが、“ランキングシステム”はそのわずかな差を増幅させてしまいます。当たり前ですが、ランキング上位に入れば入るほど、宣伝効果は高くなります。すると、宣伝効果が高くなった事で更にポイントが入り易くなり、更にランキング上位に入り易くなるという繰り返しが起こるのです。このような現象を“正のフィードバック”と呼びますが、この現象の所為でわずかな組織票が大きな影響力を持ってしまうのです。そして、“売れるはずがない”と当たり前に判断できるような作品までもが上位に入ってしまうのです。
もしも、ランキングシステムに“売れる作品”を抽出する機能を持たせたいと思ったのなら、ですから、“作品の宣伝目的”でポイントを入れているユーザーを排除しなくてはなりません。そして、その為の有効かつシンプルな方法は、“売れた作品に高評価を付けたユーザー”のランキングを作成する事です(もちろん、“売れた”のは、コミカライズではなく、原作に限ります)。
つまり、“売れる作品を見抜く目を持った”ユーザーのみのランキングを作るのですね。
ただし、現在はこのようなランキングを作ったとしても、少なくとも直ぐには効果が得られないかもしれません。
何故なら、現在の小説家になろうは一般的な作品を好むユーザーがかなり減ってしまっていると予想できるからです。つまり、このようなランキングを作る前に、まずはもっとユーザーを集めなくてはなりません。
先ほど、「なろう運営はなろうの衰退を防ぐ為の対策に失敗をした」と述べました。それは新規ユーザー層を獲得するのに失敗したという事でもあるのですが、その後、なろう運営は新規ユーザーではなく、今までと同タイプのユーザー層に対してのアプローチに戦略を変更したように思えます。
アニメ化作品の情報をブログで掲載したり(何故、今までこの宣伝をやって来なかったのか不思議ですが)、登録済みのユーザー限定のリアクション機能を充実させたり、公式企画“春のチャレンジ”のジャンルは前年までは“推理”でしたが、2025年はジャンルフリーになり、テーマに“学校”を選んだりしています。これは小説家になろうユーザーはミステリ(推理)作品をあまり好まず(書くハードルも高い)、かつ学生が多いからでしょう。
それが功を奏したのかどうかは分かりませんが、確かになろうのアクセス数は2025年4月の段階では下げは止まっています。が、もし仮に僕の予想通りに、なろうの人気を支えているのがコミカライズ作品なのだとすれば、まだこれで終わりではないはずです。
コミカライズ作品の息は長いです。一昔前にコミカライズが始まった作品がまだ続いています。その中には根強い人気のある作品も多いので、現在もなろう人気を支えている可能性は高いでしょう。ですから、それらコミカライズ作品が終わってしばらく経てば、また一段となろうのアクセス数が下がる可能性が高いのです。
そして、アクセス数が下がればコミカライズ作品の数も減り、更にアクセス数が減っていくという“負のスパイラル”が発生する事になります。
これら要因に加えて、最近ではプロの漫画家がなろう系作品のエッセンスを吸収して作成した、なろう系テンプレの上位互換のような作品が人気にもなっています。実際、それら上位互換作品を読むようになって、なろう系テンプレ作品がつまらなく感じるようになったというようなコメントを僕は見た事があります。
つまり、このままでは小説家になろうは衰退をし続ける可能性が高いという事になります。
なろう系テンプレ作品にも需要はあるようですが、世間の反応を観てみるとニッチ層であるのはほぼ確実でしょう。絶対数は多くないのでアニメ化などでユーザーを獲得しようと思っても限界があります(コミカライズ作品準拠ではなく、原作準拠でアニメ化したなろう作品があるのですが、世間の反応を観る限りでは不評だとしか思えません)。
なろう運営が試みたユーザー獲得策で、「オリジナルアニメ作品の脚本がなろうで読める」というものがありました。残念ながら、そのアニメ作品の評判はあまり良くなかったようで客寄せ効果は芳しくなかったでしょうが、発想としては正しいと思います。もし上手くいっていれば、新規ユーザーを呼び込めたかもしれません。
こういった試みをもっと積極的に行うべきです。
もし仮になろう運営が既存のユーザーを重視したいと思っているのだとしても、新規ユーザー層に訴える努力はするべきです。当たり前ですが、このままアクセス数が減っていけば、なろうテンプレ系作品の作者達も出版やコミカライズができなくなってしまいますから。
では、新規ユーザーを呼び込むには一体どうすれば良いのでしょうか?
小説家になろうを見ると信じられないですが、現代は多くのコンテンツが溢れているので「ユーザーの可処分時間の奪い合い」をしていると言われています。その為、消費するのに長時間かかるコンテンツはあまり好まれないとされており、実際にショート動画の人気が伸びています。
ですから、かなりの長編が多いなろう作品はあまり一般ユーザーの需要にマッチしていないのです。では、ショートショートをアピールすれば良いのか? と問われたならそれも否でしょう。今でもショートショートはそれなりにありますが、そこまで集客能力は高くないようです。もっと話題性がなければ無理しょう。しかしそれならば、話題性を作れば良いのです。
なろうはコミカライズに支えられていると指摘しました。なので今回もコミカライズに頼りましょう。コミカライズ原作募集イベントを開くのです。もちろん、通常のコミカライズではコストがかかり過ぎます。が、四コマ漫画ならば比較的コストはかかりません。10作品くらいだったなら、人気漫画家であったとしても充分に作成可能です。更に、そのイベント用作品に関しては、その人気漫画家の二次創作を許可するようにした方がより面白いでしょう。今はそれほど注目されていなくても、コアなファンを持った漫画家やまだまだ人気のある漫画家はたくさんいます。例えば、“すごいよまさるさん”とか“ナルト”とか、“進撃の巨人”とか。そういった作品の漫画家にオファーするのです。
つまり、“自分が考えた二次創作を、本物の漫画家さんがコミカライズしてくれる”という事です。ファンなら垂涎もののイベントではないでしょうか? 海外人気の高い漫画家なら国外からも参加者が現れるかもしれません。
もちろん、仕事を請けてくれたなら、その漫画家さんはSNSなどで情報を発信してくれるでしょうから、宣伝の費用対効果は高くなります。
コミカライズしてくれた作品は、もちろん、小説家になろう内の何処かに公開し、原作へのリンクも貼ります。どちらも短いですから、ページ数当たりのアクセス数を稼ぐ効率も高くなります。
もちろん、この四コマ漫画コミカライズイベントが成功したとしても、なろう復活の決定的な要因にはならないでしょう。その他にも様々な工夫が求められます。例えば、先に述べた“売れた作品に高評価を付けたユーザーだけのランキング”の創設も面白いですし、“1000ポイント以下の作品のアクセス数ランキング”の創設もやるべきだと思います。
今のなろう作品がこれほどまでに偏ってしまっている大きな原因の一つは、ポイント至上主義であるが故に、ポイントを入れてもらえないジャンルの作品にとって著しく不利になってしまっている点が挙げられます。それを回避する為に、ポイントが低い作品だけのランキングを創設するのですね。こうしておけば、ポイントが少なくても期待が持てるようになりますから、作者は宣伝活動を熱心に行うようになるかもしれません。もちろん、そうなればなろう全体のアクセス数も増えます。
また、もう少し公平性を高める為に、“ポイントサンクス”機能も付けるべきだと考えます。ユーザーがポイントを入れると、作者が用意したオマケ(イラスト、漫画、単なるお礼など)が見られるようになる機能です。
“面白い”と思った作品のオマケを見たがるユーザーは多いでしょう。すると、ポイントを入れるユーザーが増え、組織票の割合を低くする事が可能になり、公平性が高まります。また、ポイントを入れる為には、ユーザー登録が必要なので、ユーザー登録者数を増やす効果も期待できます。
余談ですが、なろう運営はユーザー登録者を利用したビジネスをまるで考えていないようですが、これはあまりにももったいないと言わざるを得ません。例えば、コンビニエンスストアが新作デザートをテーマにしたショートショートのイベントをなろうで企画し、それをメールで通知するようにすればそれなりの宣伝効果が期待できます(イベントに参加する為に、そのデザートを買おうと考える人も多いでしょうし)。つまりなろうにとっては新たな宣伝料金を得られるようになるのです。頻繁にメールが来るようなら、ユーザーから疎まれてしまうかもしれませんが、一週間に一度くらいならば許容範囲でしょう。
近年、漫画やアニメなどは、日本にとっての“輸出産業”としてかなり大きな規模になって来ました。そして、海外のユーザーの特性として、日本とは違ってその作品のメッセージ性に対する考察に熱心な点が挙げられます。
実は日本には、深いメッセージ性を持った作品が少なくないのです。最近でそれが最も顕著な作品は、「チ。-地球の運動について-」でしょう。この作品は科学史や科学哲学や社会学などを扱っていて、特に国外で様々な議論が交わされています。
そして、こういった作品は尊敬されるばかりでなく、ビジネスとしても成功しているのです。
ところが、なろう系テンプレ作品はこのような要素がほとんどありません。だからこそ馬鹿にされる事が多く、
「こんな作品に価値などないと、日本に教えてあげるべきだ」
などといったコメントを見つける事すらもあります。
だからなのでしょう。
「日本のアニメの価値を下げるから、なろう系テンプレ作品はアニメ化しないで欲しい」
といったような日本人の声すらもあります。
小説家になろうでは、メッセージ性のあるなしはあまり重視されません。小説とは、本来は、“個人的な説”とったような意味であるにも拘わらず。
メッセージ性を重視したコンテストなどを開けば、“なろう系テンプレ作品”は自ずから除外できますし、そういった作品は社会的に重要であるばかりでなく、ビジネスとしても有望です。
そろそろ検討を始めるべきではないでしょうか?