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9・石子榴との遭遇

 

「――ああ、なるほど。お前の縄張りだから、あっちの道へ行けということだったのか」


 ロウはのんきに呟いた。滝のように水を放出させて現れたのは、岩の鎧を全身にまとった人型の怪物だった。


 その名は、石子榴(いしころ)。体の至る部分が点々と赤く光り輝き、それが果実の石榴(ざくろ)彷彿(ほうふつ)させるのと、岩が独りでに動くというその異形さから、名がつけられたとされる。


 大層な字と図体を持ち合わせているわりに可愛らしい名前だが、決して見くびるなかれ。石子榴の大きな拳が降ってくると、地面に大きくくぼみができた。すぐさまひらりとかわしたが、その矛先は明らかにロウに向けられたものだった。


「まいったな。面倒なことになった」


 くぼみを見たロウは、たじろいだ。


「悪かった悪かった。すぐに立ち退くから、許してはくれないか」


 話が通じたかどうか。返ってきたのは拳だった。ちゃんと謝ってるのに、どうして相手はいつも応じてくれないのだろう。意志はあれど、頭は立派に石で出来ているらしい。


「さて、どうしたものか」


 戦う気は微塵もなかった。争う理由がない。暑くて面倒くさい。ロウは鞘に収まったままの太刀を握りしめ、防戦に呈した。

 こうして石子榴と直接対面するのは初めてだった。だが、巨大な体躯故に動きも大振りなので、手の内を読めないこともない。避けるのはたやすかった。防ぐ際には力で押し負けてしまうので、太刀を盾とし、防いだ後に距離をとるか、または弾いて攻撃を流す。


 それでも油断はならなかった。石子榴が動くと、いちいち荒波が起こって、熱せられた水が岩に叩きつけられる。石子榴の下半身は地表と結合しているため、泉の水が反動を食らっているのだ。

 これは立ち回りにも気を配らねば。身なりのおかげで多少の大胆な行動は許されるが、多く浴びてしまえば、火傷は免れない。


 くぼみに水が流れ込んで小さな水たまりが出来上がっていく。気絶させるか逃げるか、逃げたとしても追ってくることは万一でもないのかと考えあぐねていると、石子榴は別の攻撃を仕掛けてきた。

 空中で岩の体を一度バラバラにすると、文字通り刀身に形成させたのだ。刃先が大地にめり込み、開いていくように払う。


「……これ(太刀)を真似たということか」


 下半身はつながったままなので、こちらの技も見切ることが可能であるものの、破壊力は跳ね上がっていた。もしも体に突き刺さったとして、深々と食い込んだまま刀身を動かされたりなどされたら、相当な大打撃を食らうに違いない。


 刀身が払われた際、石屑に混じって赤い結晶が散らばる。どうやら洞窟内を照らす赤い光源は、鎧の体から剥がれ落ちたものだったもよう。肉片だか角質だかだと思うと、最早綺麗とは言い難い。

 しかし一方で、面白いという感情も湧き起こった。大地が血を吐くようだ、と。


「だが、これで終いにしよう」


 大きな音を立てて石子榴が地面に食い込んだ時。ロウは石子榴の上に飛び移ると、人間でいう手首の役割を担う個所を叩き、ヒビを行き渡らせた。相手が動きを見せる前に背後に飛び、同じ箇所をもう一度。今度は横から突いた。


 ヒビ割れは穴と化し、崩壊した。石子榴は真っ二つに分かれた。


 形勢を立て直される前に、ロウは走った。通路に向かって駆け抜けながら、大分体力を消耗してしまったと反省する。苦手とする環境下であることも相まってか、いつもより異様に足が重かった。


 先の攻撃で終わるような奴じゃない、というのがロウの読みだった。それは残念なことに当たってしまった。地面に残された側の方がバラけると、磁力に引っ張られるようにしてもう片方の体に張り付き、形を取り戻していくのだ。


 再び人型に形を成した石子榴は、両拳を振り上げて落とす。ドブンと音をたてて、泉に大波が立ち上がった。


 ……ああ、これはまずいやつだ。

 ロウの直感が、そう言っていた。


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