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第十六話 『コンフィデンス』 8. 願い事

 


 除夜の鐘が鳴り響く頃合い、夕季や忍のアパートからさほど遠くない神社の境内に光輔達の姿があった。

 決して大きくはないが、厄年の輩による酒などの振る舞いもあり、多くの参拝者で賑わっていた。

「さっぶう~」

 白い息を吐き出しながら、忍が夕季に甘酒を手渡した。

「ありがと」

 受け取った甘酒を夕季がずずずとすする。コートにマフラー、手袋の完全防備だった。

「しっかし、すごい人だね。あ」空を見上げると、綿のような白雪が降り始めていた。「雪だよ、雪。寒いはずだって」

「……。光輔達は?」

「みやちゃんとまだ向こうの方で並んでたよ」

「そう……」

「でも、光ちゃんからこんなところに行こうって言い出すなんて、珍しいね」

「うん……」紙コップを見つめながら控えめに笑う。「何かいいことあったみたい」

「ふうん……」たいして気にかけることもなく、何の気なしに忍が続けて問う。「夕季、何お願いしたの?」

 夕季がちら、と忍を見やった。

「内緒」

 すると忍は嬉しそうに笑いながらはやし立て始めた。

「なんだ、なんだ、好きな人でもできたか?」

 むぐ、と顎を引く夕季。

「……お姉ちゃんは?」

 忍がにやりと笑った。

「内緒」

「……」口をとがらせ、夕季がじっと忍を見つめる。「木場さんのことでしょ?」

「! ばか、おま、ちょっ、ばか、違うって、ちょっ! ばか~ん……」

「ばか~ん?……」

 夕季が振り返る。

 ざわざわと風に揺れる木々の彼方へ、遠くを見つめるまなざしを送り続けた。

「……」

「ん? どうかした?」

「……。雪が目に入った……」


 参拝の列に光輔と雅が並んで立っていた。マフラーを首に巻き、ほっほっと白い息を吐き出しながら、楽しそうに順番を待つ。

「光ちゃん、あれ観た? 六時から」

「へ? 笑っちゃいけないやつ?」

「違うよ。踊る神奈川県警二十四時年末特大号、事件は現場じゃなくて犯人が侵入した会議室で起きています!」

「……大晦日にそんなのやってたの」

「すごかったよ」声色を変え、のどを手刀でトントンする。「ハイ、ワタシガ通リカカッタ時ニハスデニコノ状態デ~シタ」

「それ宇宙人とごっちゃになってる……」

「五時間スペシャルだよ」

「五時間て……」

「しぃちゃん、紅白と間違えてそれ録っちゃったらしいよ。後でゆっくり観ようと思ってて、録れてなくてすごくショック受けてた。衣装対決観るの、ずっと前から楽しみにしてたのに」

「途中で気づかなかったの?」

「十一時前に録画が終わったから、夕季がおかしいなとは思ってたみたい。二人でケンカ寸前だった」

「……なんでケンカすんの」

「なんで言わないの! だって! とかって、おもしろかった」

「おもしろかった?……」

「まあ、今の二人だったらケンカしても、前みたいに口もきかなくなるようなことはないだろうけどね」

「え?」驚いたように光輔が雅に注目する。「夕季としぃちゃんってケンカしてたの?」

 すると雅はいたずらめいた笑みを浮かべてそれを受け止めた。

「知らなかったでしょ」

「……。あんなに仲いいのに」

「そうだよ。すごかったんだから」

「なんか変だなとは思ってたんだけどさ」

「今じゃ恋人同士みたいだけどねえ」

「や、それはないしょ……」

 雅が嬉しそうに笑った。

「光ちゃんも来ればよかったのに」

「うん……」伏し目がちに光輔も笑う。「ちょっとツレんち行っててさ」

「こたつで寝転びながらおせんべえ食べてたら、かけらが目に入っちゃって大変だったんだよ。ああ、こんな時、光ちゃんがいてくれてたらなあって」

「俺に何ができたの?」

「ツッコミ」

「ツッコミ?……」

 やがて光輔達の番になり、賽銭を投げて二人で綱を振った。

 振る舞い所で甘酒を受け取り、光輔の横顔を見上げながら雅が問いかけた。

「光ちゃん、何お願いしたの?」

「ん? この平和がずっと続きますようにって」何のてらいもなくそう答える。「雅は?」

「あたしも同じ」いじわるそうににんまりと笑った。「あたし以外の世界中の人達が幸せになれますようにって」

「……嘘くさいんだけど。あたし以外のってところが特に」

「あれ! 思いのほか鋭い!」光輔の顔を熱く見つめる。「ほんとはね、光ちゃん以外の世界中の人達が幸せになれますようにってお願いしたの」

「……なんで俺」

「だって」

「だって?……」

 メール着信があり光輔が確認する。みずきからだった。

『あけましておめでとう。今年もよろしくね』

 光輔が嬉しそうに笑った。

 それを眺め、雅がふと真顔になる。もう一度、己に言い聞かせるように、囁くように願い事を復唱した。

『……』

「え?」ちびりと甘酒をすする。「何か言った?」

 光輔に見つめられ、楽しそうに笑う。

「ううん、別に」

「あ、夕季達だ」

 忍を抱きかかえるようによたつく夕季を発見し、光輔が手を振った。

「おーい、ここ!」

「あ、こーちゃーんっ! やっほおおおーっ!」紙コップを高々と掲げ、上機嫌の忍が大きくそり返った。「コマネチ! きゃはははー!」

「お姉ちゃん!」

 二人の目が点になる。

「……。べろんべろんだね……」

「……。べろんべろんですね……」

「お姉ちゃん、こぼれてる!」

「あ、もったいね~!」

「もう飲んじゃ駄目!」

「飲んでませんってば……、ひっくしん! あ、酒が目に入った!」

「ちょっと、光輔、手伝って! みやちゃんも!」

 光輔と雅が顔を見合わせた。

「もう手遅れだよね……」

「ねえ~……」

「あ~、何だろ、すげーシミる! ぎゃあああ! あたしの目がああっ! 助けて、夕季! おかわり!」

「も~う!」

 楽しそうに微笑み、雅が雪空を見上げる。

 両手を広げ、願いとともにそのすべてを抱きしめようとした。

『みんなを守れますように……』






                                       第二部完

 ストックがつきてきたので、ひとまずキリということになりました。たいして大きな展開もなく、予定ではもう少し続けるつもりでしたが、ちょうどフォラス編の区切りということで。

 またそれらしいものが出来上がったらお披露目しようと思っています。見捨てずにおつきあいしていただいた方、どうもありがとうございました。お忘れでなければ、これからものぞいてやって下さい。

 よいお年を。謝々。



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