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世界樹を抱く巨大な世界エルテラ。

太古のエルテラには、世界樹と、ただ生きている状態を維持する「マーゴ」と呼ばれる存在しかいなかった。

しかし、世界樹の祝福の下、マーゴにはマナが宿り、マナに反応したマーゴはそれぞれの形を持ち、進化していった。そうしてエルテラには一つの小さな生態系が始まった。

その祝福を受けて生まれた、動物と人間の形を同時に持つ獣人という種族が住むナルヒティ。そこの獣人はマナを使用する独自の方法を開発することに成功し、強大な力を得て国を復興させた。しかし、どんなに強大な力があっても分裂は避けられないもの。ナルヒティの数千年を超える歴史は、数え切れないほどの侵略と内部勢力による権力争いに彩られている。そんな果てしなく続くかのような争いの連鎖は、ある出来事を起点として一旦幕を閉じることになるが、その出来事とは、ある日突然現れた強大な存在がエルテラの全種族を相手に起こした大戦争であった。

とんでもなく強大な存在に立ち向かうため、種族は力を合わせ、最終的には彼を打ち負かすことに成功する。この時を境に、エルテラの種族間には平和協定が結ばれ、ナルヒティにも歴史上見られなかった平和がもたらされた。ナルヒティの祭りは年々盛大になり、種族内の分裂も血を流すことなく収束していった。

ある夜、そんな平和なナルヒティの上空に、強烈な光を放つ流星が一個飛んできた。

これはナルヒティだけでなく、周辺諸国でも観測されるほどであったため、エルテラの誰もがその流星に注目した。 それを美しいと歓喜する者もいれば、不吉と考える者もいた。流星はナルヒティの外郭に位置するある森の中央に巨大な轟音を立てて落下する。ナルヒティの指導部は直ちに隕石を調査するために見張りを送る。

朝日が差し込むナルヒティの朝。

本来であれば、夜明けの月と一緒に目覚めた者たちが忙しく働く音で満ちるはずだが、今日だけは違う。

夜明けに起きる労働者たちは基本的に時間を大切にするため、彼らにとって些細な雑談は贅沢に近い。しかし、そんな者たちが今だけは、昨日落ちた流星の話で、すでに明るくなった朝日を無視したまま、時間が経つのも忘れて会話を交わしているのだ。


「昨日のあの隕石...何か不安にならないか?」


「そうかな、ただ綺麗じゃなかった?」


「大戦争...これはまた戦争が起きる予兆だ!!!」


ナルヒティの指導部から公表された情報がない以上、こうした憶測は無意味なものに過ぎないが、彼らはそれを止めるつもりはないようだ。


「何て言ってるのか知らないけど...あれは私の話だろう?」


多くの人の話を聞きながら、建物と建物の間の狭い路地の影に隠れて雰囲気をうかがう黒髪の少年。

まだ土埃が残っている彼の服は一見汚れているように見えたが、左脇腹に持つ黒色の刀だけは綺麗な姿を見せていた。

路地に放置された木箱の後ろに隠れた少年は、息を殺して朝の寒さに緊張で熱くなった体を冷やし、ストレスで溜まった疲労感を少しでも払拭するために、そっと目を閉じた。

新しい世界での生活をどのようにスタートさせるべきかわからず、不安な少年の心を慰めるかのように、鳥の鳴き声が聞こえてきた。

今この瞬間だけは平和に歌える鳥たちの立場が羨ましいと思いながら、少年は顔を上げ、建物の間から狭く照らされた晴れ渡る空を見上げ、ため息をついた。

実はこうして異世界に落ちたのは、彼にとって初めてのことではない。

ただ最初と違うのは、今回は何の案内もなく、いきなり異世界に放り込まれたことだ。

正体不明の神に突然拉致されて始まった最初の旅では、過酷な訓練を受ける日々が繰り返されたため、慌ただしく過酷な日々を送ることになったが、少なくともミアは免れた。

しかし、今度は何も知らない世界に何の対策もなく、いきなり墜落してしまったのが問題だ。

自分の境遇を考えた少年は、思考を断念してため息をついた。


「あのシャルフェルという女神の言う試練って...せめてそれが何を意味するのか教えてくれないの? あの状況から救ってくれたのはありがたいけど...いきなり神としての資格を証明しろって...一体俺は何をすればいいんだ...!」


少年は右手に拳を握りしめ、ヒューッ! と声を上げ、気合と力を集中させた。

本来なら燃え上がるはずの少年の拳は、震えるだけで何も起こらない。

確実に自分の能力が封印されたことを確認した少年はため息をついた。


「資格を証明できなければ...消滅させられるって言ったよね?どうやら......今更、消滅させられるのは悔しいんだ」


少年は腰に巻いている黒色の鞘に入った剣に手を当て、まだ剣がそのまま残っていることに安心した。

身を隠した薄暗い路地の壁に背を向けて座り、呆然と頭を上げて空を眺める少年。

じっと空を見つめ、混乱してしまった頭の中をできるだけ空っぽにしようとしたが、絶えず浮かび上がる数々の心配事がもたらす不安に身を委ね、彼はため息をつきながら目を閉じた。

少年は今すぐにでもこの世界の人々と言葉を交わし、情報を得たいと思っていたが、一番の問題は言葉の壁だった。

当然のことだが、この世界の人々が少年が元々住んでいた世界の言語を使うはずがない。

それを知っている少年は、不器用な身振り手振りで朝会ったある老婆と会話を試みたが、不審な振る舞いの少年に恐怖を感じた老婆が気絶してしまい、彼はすでに一度、大きな窮地に陥っている。

したがって、彼がこうして身を隠しているのは、自分が墜落したことで村の雰囲気も荒れている中、不審者が現れたという噂が流れたら余計な誤解を招くのが目に見えているからだ。

一歩間違えれば、この世界での生活が始まる前に事態がややこしくなる可能性もあるので、できるだけ最悪の事態は避けようという考えなのだろう。

この世界の正義観はわからないが、少年の道徳観念によれば、とにかく刑務所で始めるのはあまり良いスタートではない。

だからこそ、少年は今はできるだけ静かに隠れていなければならないという自分の決断に確信を持った。


「やっぱり、しばらくは隠れていたほうがいいな、どんな理由であれ、一度犯罪者の汚名を着せられたら大変なことになるだろうから」


少年は席を立ち上がり、路地の奥へと姿を消した。

突然の怒鳴り声や雑踏がなかったので、少年は誰にも気づかれなかったと思ったが、このような光景を見る視線があったから....。

ある建物の屋上に立っているその視線の主人の口元には意味深な笑みが浮かんでいた。


「面白い奴だな?」


微笑みの主は少年を追って歩みを進めた。


*


騒ぎを避けて足を運んだ少年がたどり着いたのは、別の騒ぎの真っ只中だった。

事件の経緯はこうだ。

路地を移動していた少年は、偶然、凶悪な印象の逞しい体格の男たちに囲まれている老人を発見した。

彼は老人を助けたいと思ったが、同時に、まだ人前に自分をさらけ出すことに抵抗があったため、なかなか気が進まなかった。

しかし、そんな考えは無意味だった。

すでに体は老人と凶悪犯の群れに向かって走っていたからだ。

どのような理由でそのようなことが起こったのか、その原因を突き止めて善悪を判断するのは当然だが、まずは老人のような社会的弱者に対する物理的な脅威は正しくないと考えていたため、体が勝手に反応してしまった少年は、自分の道徳的信念がこの時ばかりは恨めしかった。

-おいおい、力のない老人を威嚇していいのかよ、と叫びたいところだが、すでに言葉遣いに問題があったため、少年は無言で老人を背負ったまま、凶悪犯の群れの前に立った。


「こいつは何なんだ、この仕事と関係ない奴はさっさと消えろ!」


凶悪犯の親玉である男が甲高い声で叫んだが、少年は微動だにしない。

声の荒々しさに少年は何を言っているのか理解できなかったが、大体自分を脅かすようなことを言っているのだろうと思ったので、少年は無理やり口を塞ぎ、ただ嫌だという意思表示として首を横に振った。


「何だ、馬鹿か?」


怪盗団の首領は威嚇するように、背中に背負っていた肉を切るのに使えそうな幅広の剣を取り出し、そのままその剣を少年に向けた。


「おれたちは障害者とは見なさない! 繰り返しになるが、インスピレーションを包むなら、お前も無傷では済まされないぞ! さっさと消えろ!」


レンティウスの鼻先まで突き刺さった剣の刃は、不格好な外見とは裏腹に手入れが行き届いており、殺伐とした鋭さを誇っていた。

しかし、その瞬間。

少年の片方の口角がふわりと上がり、やがて笑い声が漏れた。

テレビや映画でたびたび紹介されたこともあり、少年にとって水因は身近な存在である。

問題は、ほとんどの場合、彼らはかわいい存在として描かれていたので、少年は今の状況はテディベアに脅されているような気がしていた。

しかし、今は笑ってはいけない状況であることをよく知っているので、ずっと我慢していたが、目の前のテディベアが剣を取り出し威嚇した瞬間、目の前の怪漢が下らないほど可愛いと思い、笑いを我慢できなくなってしまったのだ。

当然のことながらこれは事態を悪化させた。

自分より格段に体格が小さく、しかも獣人以外の種族に笑われたという事実は、怪漢を怒らせるのに十分だった。

「私を嘲笑う気か!?あのインスパイアと並んであの世に送ってやる!」。

怪盗の首領が剣を振りかざそうと剣を振り上げた瞬間、レンティウスは戦いは避けられないと思い、仕方なく剣に手を添え、冷静に怪盗の剣の軌道に意識を集中させ、攻撃を受け止める準備をした。

その時、突然、どこからか女性の声が聞こえてきた。


「そこまで!」


剣を構えた怪漢とレンティウスはそのまま動きを止めた。


「こんなところで何を騒いでいるんだ?」


声が聞こえた場所を見ると、建物の屋上からキツネの耳をしたある少女が見下ろしていた。

少女の姿を見た怪盗団は大騒ぎになった。


「ピンク色の髪のキツネ族の女なら...あれはまさか...イラハじゃね?


「くそっ、運が悪くてもここまでやるとは!?」


彼女の存在に怯えた怪盗団の雰囲気は、一瞬にして騒然となった。

それに彼らの首領も舌打ちをし、剣を抜いた。


「くそったれ......今度こそ運が良かったと思え!」


凶悪犯の集団は素早く逃げ出した。

この状況を理解できなかった少年は、とりあえず事態が一段落したことに安堵した。


(何がどうなっているのかはわからないが、血を見ずに済んでよかった。 まずはこのおっちゃんを起こして、逃げてもらおうか...屋上のあの女の子は...どうやら絡まれると面倒なことになりそうだからな。 まさか建物の間を追いかけてくることはないだろうな?)


気の抜けた大柄な男たちを言葉一発で制圧した屋上の少女は、明らかに身分的に相手にしにくい立場にある人物だと考えた少年は、すぐに逃げることにする。

これは理性的な判断ではなく、単純な恐怖心によって下された決断。

逃げることが最善の判断とは思わなかったが、少年は他に選択肢が思い浮かばなかった。

少年は後ろを振り返り、床に倒れた老人を起こすと、老人のお礼の挨拶が終わる前に、すぐにその場から逃げるために走り出した。


「えっ!?こ、おい! そこから!!」


レンティウスの予想外の突発行動に、狐耳の少女は素早く彼を追いかけ、屋上を疾走し始めた。

何の対策もなく、道が見えたらそこへ足を踏み出して走るレンティウスと、そんな彼を恐ろしいスピードで追いかける狐耳の少女。

ピンク色の髪を振り乱しながらレンティウスを追いかける彼女の表情には、次第に苛立ちが見え始めた。


「本当に...めんどくさいわね!」


少女は眉をひそめ、足元に小さな魔術陣を作り、それを踏ん張って高速で跳躍し、一気にレンティウスが走っている方向の前方に着地した。


「おい! 人が呼んだら止まれ!」


両手を腰に掛け、少年の進路を阻止した少女は、苛立ち混じりの表情で叫んだ。

突然の彼女の登場に、少年は止まるために地面に足を引きずるが、それは最悪の選択だった。

路地の道は舗装が不十分で、その表面が不均一だからだ。

少年は床の小さな凹凸に引っかかり、ついにはそのまま重心を失い、前方に飛ばされるように転倒してしまった。


「「えっ!?」」


このような状況を想定していなかったため、戸惑う狐耳の少女と、そんな彼女に向かって猛烈に飛んでいく黒髪の少年。

スローモーションのように感じるその一瞬、困惑した表情の二人の視線が交錯した。

まるで時間が止まったかのような1秒。

刹那が終わった後、少年は狐耳の少女に襲いかかり、その場に残ったのは、ぶつかり合って地面に倒れこんだ二人の姿だった。

そうして、世界が息を呑むような、深く厄介な静寂が訪れた。



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