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アレベが、夢の中を、うつらうつらとしていると、まだ暗い中をゴソゴソと動く影を凝視した。
「起こしてごめんなさい…ていうか、天使も眠るんですね」
と言われた…
聖実は、毎朝、規則正しい時間に起きていた。
まだ大学生らしく、学校に行く前には早朝のアルバイトとなるものをしているらしい。
アルバイトとは?とアレベが聞くと、スーパーの品出しの仕事です…お金を稼がないと生活の費用が出ないので…と言っていた。
ちょっと言ってる仕事内容が、死神のアレベには、よく分からなかった。
彼は、裕福でも無いのに、友人にすんなりお金を貸してしまうのか?
不憫というのを通り越して…呆れてしまう。
「聖実の、家族はどこだ?」
「えっと、父には会ったこと無くて。母は居るはずですけど…ちょっと、今どこに、居るのか知らないです」
家族の居場所が分からないって…どういう事だ?
家庭的に厳しく、恵まれない環境で、この性格がどうやったら、出来上がったのか疑問しかない。
アレベが、渋い顔をしていたのだろう、慌てたように聖実が言う
「僕を育ててくれた祖母は、とても面白くて優しい人で、先月亡くなりました…けど、大丈夫です!大学の学費だけは、奨学金なので…払う必要は無いので」
だとしても、学業と両立して生活費を稼がなくてはいけないだろう。
親の保護も無く、その上、育ての親を亡くしたばかり…
「寂しくは無いのか?」
アレベから、問いかけるような言葉がつい、口からついて出た
「寂しい…です。なので、アレベさんが来てくれて良かったです」
始めて見せる悲しげな顔から、アレベが心配しないようにと、なんとか作られた笑顔に変わる。
急に現れたアレベの存在を疎ましく思う所か、来てくれて良かったなどど、普通なら、言わないであろう…
それほどに寂しかったのか。
毎日のように御年寄を助けるのは、祖母との良い思い出がそうさせるからかもしれない。
アレベは、ますます…この青年を簡単に死なす訳には、いかないな…という想いを強くした。
そんな感傷的になっているアレベに対して
「 小さくなれるのは、良いですよねぇ〜昔、絵本で見て憧れました。好きな物を食べ放題ですもんね」
羨ましいという全力の視線を向けてくる。
さっきの寂しい顔はどうした?
ホッとしてたついでに、柔らかな言葉が出る
「すまんな…我は、小さくなれても、聖実を小さくするのは無理だな」
「残念…です」
まさか、小さくして貰えるかもしれない…などど、期待していたのか…
そういう欲はあるのかと…アレベは、思わずクスッと笑った。
ヘヘヘっと照れるような聖実と、2人で、何が、そんなにおかしいか分からないが、笑い続けた。
ご飯を少しだけ分けて貰う時、アレベが小さくなると、やっぱり良いなぁ…と言ってくる聖実。
その度、能力不足ですまんというと、お決まりみたいに、やっぱり笑うので、反論するアレベは
「そもそも、なりたくてなってる訳ではないぞ…我の威厳が消えるでは無いか!」
と怒ってる風に言うのに、更に笑ってくる。
あまりに楽しそうに笑うので、つられて笑ってしまう。
これは、人間がそういう生き物なのか…それとも、聖実のキャラクターのせいなのか。
アレベは、下界も悪くないもんだな…と思い始めていた。