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「えぇっ!?はっ?なぜだっ!!!?」
思わず大きな声が出た。
なんと、アレベの手の中の書物には、再び…
“ヒウラ サトミ”
という文字があった。
一度、書物を閉じ、もう一度開く。
やはり…おなじ名が刻まれている。
先日の手違いがあってからは、アレベは、裁く相手の人生記録に細部まで目を通す事を、毎朝の日課にしていた。
そして、今朝の事…
我が目を疑った。
またしても、彼の名が記されていたのだ。
この数日で、彼が急に極悪非道人になったとは、考えにくい…
あの、ぽやっとした感じが、数日で変わる事など無かろう…数年あれば、違う事もあるかもしれないが、たったの数日だ。
意味が分からなかった。
一度見てしまうと、気になってしまい…確かめずに、裁く事などは出来ないと思った。
「はぁ…」
溜息を1つ、再び、死神鳥の所へ向かった。
「「はあ……」」
死神鳥とアレベは、同時に溜息を吐いた。
なんでだ…と思っている事は、死神鳥の表情を見れば何となく分かる。
鳥の顔をしているが、その表情は実は豊かなのだ。
「どうしてなのか…分からぬ…そして、もしかしたら、何度も起こるかもしれぬ…次に、アレベ以外の者へ裁きの指令が出れば…」
結末は分かるよな?と言わんばかりに、言葉が消えた。
「でも、どうしたら…良いのですか?」
しばらく、考えた死神鳥は…重たい口を開いた。
「アレベ、お前…人間界へ行くか?」
「えっ??我がですか?」
「原因が分からぬ故なぁ。かといって、まぁ、人間は、いつか死ぬから…早めに死んだところで…など等とは、思えないわなぁ?ならば、アレベが行くが良い」
アレべは、その選択を丸投げされた訳だ。
お前が居れば、とりあえず、他の死神が来た所で、簡単には死の宣告をされないし、ある程度の説明は出来るだろう…
と言われたが、そもそも、死神が人間界などに、長期滞在しても良いのか?
しかも、1人の人間の為だけに。
「許そう…一応、儂は偉いからのぅ」
「そんな安易な……良いのですか?」
「良い良い…こんな事が、そうそう起きても困るので、調べる故、どの道、その間だけだ」
まぁ、見過ごす訳にもいかない…
上の許可も出た…
あと、ほんの少しだけ、ヒウラ サトミに対して、興味があった。
あれだけ、損得無しに屈託ない笑顔で人を助けれるものなのか。
騙されてると分かっていての笑顔なら、どれだけお人好しなのか。
沢山の悪人を裁いてきたアレベには、不思議で仕方なかったのだ。
下界で、しばらく…人間観察でもしつつ…
奴が勝手に殺されてしまわないように…見張ってやるとするか。
そんな事を考えているアレベを、横で見ている死神鳥は思っていた…
お主も、なかなかのお人好しならぬ、死神好しだがな…と。