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アレベは、先日の彼の事が頭から離れなかった。

なんなら、地獄の門番に様子を聞きに行きたいと思う程に…

自分のした事が、彼に悪い影響を与えていないか、若干心配にもなっていた。


門番の知り合いが1人だけ居る…テッドという名だ。

変わり者で有名な彼は、同じく人から避けられていると思っているアレベの唯一の友人だった。

まぁ、死神が地獄行きの中には入れないので…門まで行った所でどうする事も出来ないが。


頭を切り替え、仕事をするしかな無いのだ…と、自分を無理矢理、納得させた。


それからのアレベは、裁く前に…その人間の人生記録をちゃんと読み返す事となった。

悪人だと、決めてかからず…

その成り立ちを知った上で、最後の引導を渡したかった。

例え、理不尽だと感じる事があっても、それは、上が決めた事で、変更不可だとしても、裁かれる者と同じように…腹立たしさを持ってやる事もあった。


根っからの死神には、なれないな…と感じ始めていた。


そんなある日…

非番の変わり者門番のテッドと、街角で待ち合わせていた。

死神の住む天界も、人間界と同じように、商店や飲食店が建ち並んでいる。

ヨーロッパ大陸の街並みに近いだろう。

煉瓦(れんが)造りの建物や、石畳の引かれた道。

行き交う死神は、一様に漆黒のローブを羽織っている。もちろん、アレベも漆黒のローブを着用していた。純白のローブは、裁きの時のみの正装にしていたからだ。


「よぉ〜ご機嫌いかがかね〜」

間延びした口調でテッドが、声を掛けてくる

「まぁ、ぼちぼちかな」

「そうか…昼メシでも食べようぜ〜」


適当にウロウロと歩いて、目に付いた1軒の飲食店に入る。

向かい合わせに座ると、メニューを開いて、本日オススメ!と書いてある定食を頼んだ2人。


「さてと…最近、なんか面白い事をしてるらしいなぁ」

「別に…面白い事は無い。単に、勝手に天使の振りをして…仕事をしただけだ」

ポツポツと、最近の仕事について、アレベは、話し始めた。

誰かに聞いて貰って…

間違ってはいないと言って欲しかったのかもしれない。


「ふーん…まぁ、悪くないんじゃねぇの?」

もぐもぐと咀嚼しながら、テッドは箸でアレベを指した

「良いのか…悪いのか…わからん」

本心だろう言葉が、ポロッと出てくる。

俯き加減になると、パラリと長い髪が垂れてきた。

手を伸ばし、その髪に触れながらテッドは言う

「せっかく、こんな綺麗な髪してんだから、天使みたいってか、天使に戻れたらいいのにな…」

アレベは、笑った。

そんな事は、有り得ない…

一度堕ちた天使が…再びなど。


「別に天使になりたい訳じゃない…悲痛な顔をされるのが嫌なだけだ。先日なんて、涙を流しながら御礼を言ってくれたヤツもいた…」

「あっ!なんか、笑顔で号泣しながら…門をくぐったヤツいたぞ?普通は、みんな怯えた顔なのに…」

もしかしたら、先日の彼かもしれないと思って更に聞いてみた

「ソイツは…どんな様子だ?」

「それがさ…地獄なのに、生き生きしてやがんの…真面目に地獄の沙汰で、与えられた事を…コツコツよ?サラリーマンか!って突っ込んでる鬼共が居たわ」

それを聞いて、思わずアレベは、吹き出した。

地獄で生き生きと…聞いた事が無い。

自分のした事が、彼への活力になったなら…地獄を修行として受け取れる根性があったなら…


自分のした事は、無駄では無かったのかも…と思えた。


「ありがとう…」

「ん?あぁ…は?待て!奢らねぇぞ?」

奢ってくれてありがとうと言われた…なんて勘違いしたテッドが、唾を飛ばしながら、ヤイヤイ言っている。

こういう正直さが、アレベは、割と気に入っている。


「いや、我が奢るよ…」

ラッキー!とか言うテッドに、また、地獄の話しを聞かせてくれ…と言い置いて、店を出た。


アレベの気分は、非常に晴れやかで…

纏うオーラにも爽やかさが出ていた。

死神界は、いつも重たい黒い雲で空が覆われているのに、アレベの周りだけが、キラキラと光が差しているようだった。

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