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「あぁ…天使様…ありがとうございます」


なんと、御礼を言われてしまう。

白のローブに変えただけなのに…

まぁ、天使では無いのだがなぁ…と思いつつも、御礼を言われるのは、悪い気はしなかった。


フードは被らず、蒼銀髪をわざとらしく、流していた。一応、自分の見目が…満更でも無い事は、分かっていたから、最大限利用するのも、仕方無しと思っていたが、こんなにも効果があるとは思わず、アレベは大変驚いていた。


それにしても…天使の姿ならば、こんなにも、穏やかな顔をされるのか…

極悪非道の限りを尽くしたヤツですら、最後には許しを得たいのか。

まぁ…そこの道に至るまで、それ相応な理由がある人間も居た。

なるほど…と思わないでもない。

だからと言って、人を殺めたり、傷付けたりしても良いとはならない。

だからこそ、死神が裁くのだが。


何よりも、アレベのストレスが減った。

悲痛な顔をされず、仕事が終えられる。

これに気付いてしまった事は、良かったのか悪かったのか。

元々が天使だからなのか…やはり、死神の仕事には、向いて無かったという事か。


もう、それからは…

毎度毎度…それが自分の正装であるかのように、純白のローブを着込む。

書物を片手に、(きら)めくような姿をしたアレベは、もはや、天使にしか見えなかった。


そして、周りや上から咎められるかと思ったのに…

同僚の死神達は、むしろ似合っているアレベのローブを少なからず羨ましいと思い、特に何も言わない。

上にはまだ、知られていないのだろう、お咎めの文書も回って来ない。


そもそも、死神に決まりは無いのだから。

決まっている事は、トドメの一振りで、裁きを下し、地獄へと放り込む事のみ。

その様式は…それぞれのやり方に任されているようだ。


アレベは、咎められないのを良い事に、もう…漆黒のローブを着込む事をスッパリと辞めた。


そして、今日は、何気なく…

裁く人間のこれまでの人生記録をパラっと見てみた。これまでは、裁く時に自分の感情が入り込むのが嫌で、一切見る事の無かった記録。


そこには…親に捨てられ、養護施設を転々とし、周りの人間と馴染めない生活の末、たまたま見つけたアニメにハマり、それに夢中になった彼は、それだけを生き甲斐だと思い込み…盲信していった。

生活は全て、そのアニメの為にあり、働く理由もそれ。

そんな日々が、急に一変したのは、アニメの原作者が、薬物依存だったという事が発覚し、突然の打ち切りになったのだ。

アニメ自体は、マニア受けする物だった為、一般に向けてはおらず、打ち切りが決まるのも、まぁ速かった。

この世の全てに裏切られた気分になった彼は、暴挙に出た…

手当り次第に火をつけ、1晩に3件の不審火を出した。3件目で火が広がるのを見ている時に、警戒配備された巡査に見つかり、お縄となった。

死者は出なかったものの…

罪の重さは、殺人と同じ扱いだ。

そんな彼が夢中になり、最後はそれのせいで人生を破滅させたアニメの主人公が、アレベと瓜二つの容姿だった。

長い蒼銀髪に、切れ長の瞳に、薄い唇…端正な顔立ちは、アニメの人物のモデルがアレベだったのでは…と思う程。


アレベは、少しだけ、そのアニメの主人公に近くなるように、純白のローブの上に、長い深緑色のベストを羽織り、髪の上にベールと王冠を付ける。


何かの慰めになるのか…

むしろ、傷を(えぐ)ることになるのか…分からなかったが。

とにかく、その姿で…裁きの場へと向かった。


降り立ったアレベに対して、彼は驚愕の顔を見せたかと思うと、ボロボロと涙を流し始めた

「本当に居たんだ…ありがとう、来てくれて…本当に、本当…にっ」

嗚咽を漏らしながら、彼は祈るようなポーズで、膝まづいた。

アレベは、彼に向かって…

書物を開いた…眩い光と共に…彼の存在を消した。


なんとも言えない気持ちになったアレベは、しばらく、その場から動けなかった。

最後の慰めになったのなら、良かったが、彼の向かう先は…地獄だ。

そこでどうなれば、輪廻の中へと戻れるのかは、アレベには分からなかったが…

願わずにはいられなかった。

どうか…彼にも…幸せな人生を送れる時が来るように…と。








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