20
声が聞こえた瞬間、足が震えて、立ち止まってしまった。
会うために、立ち止まり、後悔しながらも、自分を奮い立たせ、早足で、ここまで来たというのに…
一気に怖気付いたしまった。
岩の向こうから、聖美の声がする…
間違い無い。
この3ヶ月の間、毎日聞いていた声だ。
そうか…長いようで短い、そんな期間。
日々が楽しく過ごせたのは、彼のお陰だった。
足を動かせ!心ではそう思うのに、身体がピクリとも動かない。
「うわっあああー!」
叫び声が聞こえ、飛び出した。
「あ、あれ?アレベさん?」
キョトンとする聖美が、そこに居た。
「今っ、叫び声が!」
「あぁ、なんか、青鬼さんが…針山な穴の真横で盛大に転けて、ビックリして、声が出たんですけど…」
「無事なのか?!」
聖美に近寄り、手を取った。
頭から足元まで見てみるが、軽い傷は、至る所に付いているが、大きな傷は無く、出血もしていない。
目下にぽっかりと開いた穴に広がる針山は、2メートルにもなるだろう尖った針がビッシリと並び、その針の所々に血の跡があり、どう考えても、無事では居られないはずなのに。
「大丈夫ですよ…というか、初めて握手出来ましたね」
聖美は笑顔だった。
このおどろおどろしい空間において、輝くような笑顔が出せるのは、彼だからか。
言われて初めて気付いた。
あんなにも、練習した具現化して…触れるという目標は、今、全く違う場所で実現していた。
「むむっ!お前は誰だ!」
鬼共が険しい顔で、ドスの効いた低い声を上げながら、にじり寄ってくる…
「大丈夫!僕の友達なんです!」
「聖美の友達か?でも、コイツは…多分、死神だぞ?人間では無い」
えっ!と小さく叫び、目を見開いてアレベを見ている。
アレベは、ついにバレてしまったと思った。これ
は、全てを話さなくてはならないという事。
自分の贖罪を置いてしまう程、衝撃だったのが、聖美と鬼達が、非常にほんわかムードで、仲良さげにも見える。
「鬼共よ…確かに、我は死神なり…すぐに退散する故、邪魔を許して欲しい…我は他ならぬ、目の前のこの者を地獄より連れ出したく…参った。コヤツは、ここに償いをするような事は、一切しておらん」
こんな事を言ったからといって、鬼共が解放するとは思っていなかったし、むしろ、自分の身すら怪しい。
それでも必死の訴えを…と言葉を続けようとしたら…
「あ、そうですよね、やっぱり何かの間違いでしょ?連れてって良いですよ」
一番大柄な青鬼から出た言葉。
あっさりと、むしろ…もう少し説明してくれ…と思うほどにアッサリ。
「バイバーイ」
聖美が手を振ると、鬼共がニコニコしながら手を振り返している。
この光景は、夢でも見てるのだろうか…
アレベは、釈然としない思いで、聖美の手を引いて、元来た道を戻る。
「鬼共は、何か変な物でも食ったのか?それとも、魔力でも…いや、人間には無理だ…いや、元天使なら…」
アレベは、酷く混乱していた
「魔力とか無いですよ、ハハハッ」
笑い飛ばされてしまった
「では、何故…?」
「いやぁ…鬼さん達、身体を動かす度に、ボキボキ言うから…相当な激務で、お疲れなんじゃないかと思って、マッサージしてあげながら、お悩み相談聞いてたら、何だか泣いちゃう鬼さんも居て」
そういえば、鬼共は、過重労働でたまに、ストライキが、起きる。
ブラック企業さながらの、超超超長時間労働だと。
過酷なのは、むしら、無限地獄を管理し、実施している鬼の方だと…
そういえば、テッドが言っていた。
なるほど…
まさかの鬼共を懐柔するとは、並の人間では無理だ。さすが…元神の子。




