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「はぁ…行くか」
独り言が広い広い居室内に響く。
階級ごとに与えられる住処は、そのランクによって、広さや室内装飾、家具や寝具に至るまで、相違なる。
アレベの住処はというと、もちろん最上位階級らしく、神殿のように広く、華美な装飾が至る所に施され、他の死神の漆黒色の住処とは違う、純白な壁の輝く様は、逆に異様な程に…存在感があった。
声を出せば響くほどの広間は、落ち着かない。
アレベは、逆に狭くて、少し包まれた感じの場所が好きなのに…と常々思っていた。
ベットと棚の隙間とか…
机の下とか…
そういう場所の方が落ち着く。
独り言のように文句を言った所で、お上の配慮を無下にする事など出来はしない。
あと何百年…こんな毎日なのだろうか…
考えても仕方が無いことなのに、つい、暇があれば考えてしまう。
最近の悩みは…その事ばかり。
最近と言っても、アレベの最近とは、10年単位なので…ここ数十年は、この悩みをツラツラと考えては、光の如く1日が過ぎる。
ここ数十年、人間の世界が、目まぐるしい程の変化をしている。
古きものは、廃れ…どんどん新しい物が創り出されている。
それについて正しい判断をしなくてはならない神も大変であろうと思うが…
もしくは、それも含めた上で、創造神の仕事なのか。
アレベには、分からなかった…どこまでが神の創り出した物なのか、その線引きは、正に神のみぞ知る…だ。
最近では、小さな手のひらに乗る四角い板を指で操り、世界中の人間が、それを使用している。
老若男女問わずだ。
小さな幼子まで、その四角い板を器用に操作出来る。
こんな事は初めての事だった。
それに伴い悪事も、多様化する一方で…
死神の仕事は、確実に増えたであろう。
善かと思えば邪悪であったり、悪意の奥底には、実は善意が隠れていたり。
しかし、それを制裁すべきかどうか、判断するのは、アレベや他の死神では無く、上位者である冥府の三判官だ。
人間社会の大手企業や中小企業と変わりなく、死神は、上からの業務指示に従っているまでだ。
考え抜いた上で悪事を判断し、裁きを下す!などという大義名分がある訳では無く、一仕事ととして、人の魂を狩っているだけなのである。
アレベは知りたかった。
何のために、自分は存在するのか…
賢いからこそ、天界での矛盾や、自分で無くてもいいのでは無いかという、この仕事への自分の役割りを、つい考えては、毎日溜息をついていた。
つまらないという言葉も、言わないと辛くなりそうだから、出している…
本心とは全く逆の言葉。
死神って…なんだ?
そもそも必要か?
天使が、地獄か天国かを決めて、導けば良くねぇか?などと。
いつものように、ぐるぐると考えを巡らせていた。
というか、死神が狩った魂は、大概、地獄行きだ。
たま〜に、天使があんまりにも多忙過ぎて、過重労働でスト寸前、どうにもならず、仕方なくこちらへ仕事が回ってきて、代わりに狩ってやると、その魂は天国へも行ったりするらしい。
それを聞いて…アレベは、やっぱり、天使だけで良くね?と思ってしまった。
死神が目の前に現れた時点で、人間は地獄行き決定を突きつけられてしまう。
もしも、死神の役も天使がするなら…
狩られる魂も…あそこまで恐怖に満ちた顔はしないだろう…アレベは、あの顔を見るのが、酷く嫌だった。
仕事だから…と思っても、何百、何千と見て来ても、恐怖のだけは…未だに慣れない。
元天使だからそうなのか?…分からない。
死神になりきれない自分に辟易していた。
天使に死の通告されたなら、例え、最後は地獄行きだとしても…分かるのは、昇天した後だろう。
アレベは、ものすごい名案を思い付いたと思った。
人間達が、自分では無い誰かに変身したくて、衣装を変え、髪型を変え、更には化粧によって、男か女かすらも撹乱された。
面白い事やってるな…と眺めていたのが、アレベの頭の中で、突然の考えと融合した。
死神が…天使のコスプレをする。
毎日毎日ツマラナイ…と思っていたのが、一気に開けた気がした。