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「いらっしゃい」

「これ、一緒に食べようと思ってパウンドケーキ作ってきた」

聖美に差し出された物からは、とても甘い香りがする。

手作りだから、味は保証出来ないよ…って、葉名は、少し照れたように笑った。


今日は、二人でレポート課題に取り組むらしい。

数人で調べて意見交換した上で、それをまとめ、提出するというのが課題の条件にあるらしく…

葉名の方から聖美に声を掛けてきたようだった。

聖美は誰にでも優しい。

全方向に対して慈愛の念が強い上、容姿も女性と見間違える程に美しいので、割と女性にモテるらしかった。なんなら、男性からも時折、恋愛目線を受けている。

本人にその自覚は全く無い。


「聖美くんは、何が好き?」

「何って…食べ物?なら、唐揚げかな…お菓子はグミで…最近友達とハマってる」

言いながら、友達…のところで、アレベをふいと見たので、友達と思われているのだと知ったアレベは、とても嬉しかった。

アレベには、友達は天界に一人しか居なかった…

人間と友達になれるとは思ってなかった、そもそもが人付き合いがド下手だから。


二人の会話を聞いていると、どうやら、葉名は…聖美が好きらしいと、アレベは気付いた。

時々肩などに触れる手は、少しわざとらしい。

一方の聖美は、どうやらそっち方面には、かなり(うと)いらしく…

笑顔で無自覚スルーだった。


「ちょっと休憩にしよう」

聖美がキッチンへと消えた。

ふぅ…と溜息をついている葉名は、聖美に意識して貰えない事に対しての溜息に見えた。

手鏡を除き、前髪を整える彼女は、恋する乙女の顔をしていた。


アレベは、キッチンへと移動した。

「あっ、アレベさん、ちょうど良かった…ここに置いておきますから食べてくださいね」

アレベの分も綺麗に切り分けられていた。

自分も貰えるとは思っていなかったので、少し驚いた。


「そんな驚いた顔しないでくださいよ、アレベさんの分もちゃんと用意しますよ」

相手の感情には、機敏なのに、恋愛や騙そうとする感情には疎いとは…難儀だな、とアレベは思った。

しかも、葉名が来る前に、門田のレポート課題の事で言い合いになりかけたのに…

そちらはすっかり忘れているのか、変わらずの笑顔だった。

アレベは初めてパウンドケーキとやらを口にする

「美味いな…甘くて。初めて食べた」

「アレベさんは、ここに来てから、初めての食べ物、沢山食べましたよね…天界でお店開きますか?…いつか帰っちゃうんですよね?」

天界に帰る…そう、いずれはここを離れるのだよな…すっかり居心地が良いので、敢えて考えないようにしているが、聖美もそう認識しているのだと思い、見上げると…

彼の顔が非常に寂しげなのをアレベは感じ取ってしまった。


「葉名が…待ってるのでは無いか?」

返す言葉が見つからず、話題を変えてしまった。

「そうだった!」

お盆に乗せた皿をカチャカチャ鳴らし、聖美はリビングへと戻った。

すっかり、ここでの生活に慣れてしまっていたが、本来の業務は忘れていない。

さすがにそろそろ、死神鳥から呼び出しでもあるのでは無いかと思っている。


聖美と葉名が、笑い合い、レポート課題についての話をしているのに対して、アレベは少し疎外感を感じた。

そもそも見えない相手には、何も出来ない…

聖美は、アレベが見えているが、今は葉名をお客さんとして迎えているので、ほぼ相手をして貰えない。アレベが勝手に取り残された気持ちになり、二人の世界に嫉妬しているだけだった。

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