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そろそろ人間界に来てから1ヶ月もの月日が経とうという夕暮れだった。


アレベは、流石に何も無い日々を持て余しつつあった。

最初だけは、のんびり出来ることへの喜びもあったが、ただ聖美の命を見守るだけで、何の役目も、裁きの仕事も無いという事は、自分の存在価値について再び考える始めてしまう。

つい小難しい顔になっていたのだろう…


「アレベさん…大丈夫ですか?どこか痛いとか?」

「いや、そんな事は無い…」

「ちょっと散歩行きませんか?夜のピクニックしましょう」


聖美はそんな事を言うと、簡単に、おにぎりを数個握り、ササッと手早く作った卵焼きに、焼いたウインナーを小さなタッパーに詰め込み、ナイロン袋に入れ、アレベの方に向いた。


「行きましょう」

当たり前のように差し出された手を取る事は不可能だったが、聖美の手を通り抜けないよう、自分の手を重ねた。

アレベには肌の温度など感じる筈も無いのに、聖美からの温もりがあるような気がした。


外に出ると、少し冷んやりとしているのか、聖美は身体を一瞬だけ震わせた。

人間では無いアレベには、気温の感覚が無いので、聖美の反応だけを見て判断した。


どこに行くのか?と聞いても良かったが、行く先の分からない楽しさもあるかもしれないと…

アレベは、何も言わず横を歩いた。

ナイロン袋の音と聖美の足音だけが道に落ちた。


夜空には、霞の雲の隙間から時折除く星々が、美しく輝いていた。

天界の夜空には、星は見えない…

死神の住む暗黒世界だからかもしれないが、天使の時の居住区の記憶は無いので…分からない。


「綺麗だな…」

言葉に出していた。


「夜空の下のピクニックは、悪くないですよ…祖母が、時折連れてってくれるんです…僕が学校で嫌な事があった時とか、必ず気付くんですよ…普段は笑い話しかしない祖母なのに」

現在形で話してるのを聖美自身は気付いていないのだろう。

祖母の存在は今も近くにあるのだろうか…


「お気に入りの場所は…もう少しです」

歩いて坂を登る聖美の息は少し上がっているが、アレベは、空中をフワリと飛んでいるような状態なので、これこそが生と死の差なのだろうな…とアレベは思った。


開けた場所に辿り着いた。

草原が広がり、ポツンとジャングルジムがあるだけの公園とは言い難い広場。


「特等席は、この上です」

ジャングルジムのてっぺんに座ると、眼下には、街明かりがキラキラと輝き、夜の星空が下にも広がっているようだった。


「さぁ、食べましょう」

おにぎりを1つ貰うと、今日だけは、小さくなる事なく、聖美の横に座り、口に運んだ。

同じ高さで景色を眺めようと思ったからだ。


「酸っぱい…」

「あはは、梅干しですよ…祖母のお手製…で、す…」

聖美の笑顔は途中から泣き顔へと変わった。


アレベは、思った。

聖美こそ、重たい悲しみを…日々、堪えていたのでは無いかと…

ピクニックがしたかったのは、聖美の方だったのかと。


「泣けば良いと思うぞ」

唯一に近い肉親を突然亡くし、父や母の居場所も分からず、不安の日々に無理をしていたのだろう。

明るく楽しそうにしていたのは、本心では無く、アレベに気を遣い、自分の気持ちを見ないようにしていたのかもしれないと、やっと分かった。

アレベは、反省した。

自分のことばかりに目を向け、聖美は、平気そうにしているから大丈夫だと思い込んでいた。

気付いてやるべきだった。


おにぎりを頬張りながら、涙を零す聖美の横に、只々、座って星空を眺めた。

余計な言葉などは、不要だと分かっていたから。


聖美は、祖母との思い出を噛み締め、また明日からは前を向こうと思っているように見えた。

かける言葉は、頑張れでも、大丈夫でも無い。

聖美自身で前を向く事が大事だし、それを本人も分かっている。

アレベには、いつも通り見守る事しか出来ないのだった。


「そろそろ帰りましょう」

少し腫れた眼を天に向け、そこに居るかもしれない祖母に何か一言呟いたようにも見えた。


帰り道は笑顔の聖美が居た。

また、辛くなったり、しんどくなれば、あの場所へ行くのかもしれない。

その時は、また一緒に行ければ良いと思ったが、先は分からない事を思うと何とも言えない哀しみに襲われるアレベだった。

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