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広い広い大学の校内を、壁をすり抜けながら自由に移動する。
やはり誰も…アレベの姿を認識する者は居ない。
次々に部屋を移動していると、聖実とハナを見つけた。
二人は、お盆を手に、様々な種類の食べ物が並ぶ台の前に立っていた。
沢山の人で賑わう空間、ここは、食堂らしい。
ハナは、なんと…聖実の倍の量を皿に盛り、運んでいる。聖実も、アレベには分からない料理を皿に取っていた。
真横で見ていると
「あー、アレベさんにも食べさせたかったな…どこに居るんだろ…帰ったかなぁ」
ものすごい小声で、ボソボソと呪文でも唱えているのかと思ったら、違った。
アレベは、心がムズムズした…
横に居るぞ…と言ってしまいたかったが、今日は、偵察に来たのだと、自分に言い聞かせ、静かに二人の横に腰を下ろした。
すると、数人の男女が、やってくる。
中には、聖実に代返なるものを頼んだ輩もいた。
ハナが強めに言い放つ
「カドタさん!聖実の人の良さに付け込んで、しょっちゅう代返頼むの止めて下さい!」
「怖ぁーい、ハナちゃん、そんな怒んないでよぉ〜俺、留年しそうなんだもん…バイトもあるし」
「はぁ留年?それは、レポート提出してないからで、自業自得ですよね?」
怯まないハナは、中々強い。
「まぁまぁ、ハナちゃん、僕は…代返くらいは、そんなに負担じゃないよ…」
「もう!聖実は、甘いから!」
でも、ノートの貸出は、もうしませんからね!今後は有料になります!
と、今度は、カドタに向き直り、ガツンと言った。
清々しい程の言いっぷりに、思わず拍手した。
その音が聞こえたのだろう…
聖実がキョロキョロし始めたが、どうにもアレベの姿を見る事は出来なかったようで、しばらくすると、黙々と皿の中身を掬い始めた。
今日の所は、この辺で退散しようと…
その場から離れ、聖実の家を目指した。
夕方になり、ガチャリと扉が開いた…宿主の帰宅だ
「あっ、アレベさん!もう帰って…というか、大学には来なかったのですか?」
「あー、何となく気分が、変わって…行くのは止めた」
何故嘘をついたのかは、アレベ自身も分からなかったが、何となく、恥ずかしかったのだ。
色々と盗み見みた事や、アレベにも食べさせたかったなどと言ったセリフを聞いてしまった事がだろう。
聖実と会話をしているうちに、頭の中のカタカナが漢字へと変換出来た。
ハナは葉名、カドタは門田。
どういう仕組みかは、分からなかったが、聖実の何かとアレベの何かは、繋がっているようだった。
これは、多分…裁く者と裁かれる者としての生死の繋がりだろうか。
アレベは、人間界に来てからまだ、三週間程だというのに、かなり…この世界の物の名前や情報が頭に入って来ていた。
ただ単に、見たりしたものを読み取る魔力なのかと思っていたが、そうでは無いのかもしれないと思い始めていた。
聖実の思考が…アレベに流れてくる感じだ。
それは、嫌な感じはせず、単に…情報の移行という程度。感情までは、流れて来ない。
「大学というのは楽しいか?」
「はい!沢山の事が学べますし、友人も、少しですが、出来ましたから」
あのチャラチャラした門田と、しっかり過ぎる程しっかりした葉名の事だと分かった。
「そうか、良かったな…」
ニコニコとする聖実に、アレベは思った。
見張って居なくとも、あの葉名という者が居れば…我が居なくとも…大丈夫なのでは?
と思い始めたが、すぐ否定した。
いや、死が聖実の目前にあるのは、アレベにしか防げないのだと。
アレベは、自分の価値が、初めて出来たようで…嬉しくなった。
「晩御飯にしましょう!僕、材料買ってきたので!」
待ってて下さいと言われ、少しだけ頂戴する為、小さくなって、待っていたアレベの前に出てきたのは…
なんと、昼の食堂で、聖実がボソボソと呟いていた時に、目の前にあった物。
ゴロゴロとした、まるで岩のように茶色い物質。
「これは…その、上手いの…か?」
見た目からは、美味そうには見えず、聞いてしまった。
ただ、とても良い匂いがする…食欲をそそるというか。
美味しいと思います!と自信満々の聖実に押され、口に含むと…ジュワッとした物が滴り、カリカリとフワッの融合は素晴らしかった。
アレベの表情で、既に美味さが伝わったのだろう、聖実も、一つ箸で取って食べる。
「うん、味付けは聞いてきたから…バッチリ!でも、揚げ方は、やっぱり食堂のオバチャンのが上手いなぁ」
どうやら、味付けのレシピをわざわざ聞いてきたみたいだ。
ポイントはハニーマスタードを入れてる事で、これは企業秘密だよ…って教えてくれたんですよ!と嬉しそうな聖実を前に、アレベは、思わず泣きそうだった。
涙脆い死神なんて、情けないが…
突然現れた、善か悪かも分からぬ存在に…ここまでする聖実を心配する気持ちと、胸の奥から沸き上がる感謝の想い。
夢中で食べた後、片付けをする聖実に
「ありがとう」
と言ったが、聞こえたかどうか…
返事が無かったから、洗い物の水の音で多分届かなかったのだろう。
もう一度言う事は、出来なかったが、心の中では、感謝の念でいっぱいだった。




