選べ旧世界
この作品は、しがない学生が日々思いつく物語を何とか形にしようと、語彙力がないなりに作った作品です。表現不足や至らぬ点があると思いますが、読んでくださると幸いです。
「カエデ、この石はとっても大事なものなんだ。それが入ったペンダントを、君にあげよう。大事にするんだよ——」
はるか昔の記憶。父親の声。
あれ、ここは、どこだっけ……?
「こんにちは。ようこそ、ここは旧世界。神に見放された世界だよ」
可憐な少女だった。
ロングボブの何日も洗ってないような髪。服装はボロボロ。それでもその顔は全てのパーツが揃っていて、美しさと可愛さを共存させている。
その双眸は真っ直ぐ彼を見ていた。地面に突っ伏した状態から上体だけ起こした彼を。
しかしそんな状態にあっても彼の頭は困惑の二文字で埋め尽くされていた。
「……は?」
見たことない景色。砂漠にビルのようなものや逆三角形の立体物を乱雑に刺したように荒れていた。
頬をあたる砂煙がそれが紛れもない現実だと告げる。
彼——楓はなぜ自分がここにいるのかを思い出す。
カエデは至って普通のどこにでもいるような高校生。今年は受験を控えていた。しかし、怠惰を具現化したような彼はゴロゴロとベットでスマホを弄る。
仰向けではスマホを持っている腕が疲れる。だから寝返りを打ったのだ。そしたら今ここ。
体に当たった感触は自分を優しく包んでくれるベットではない。硬くザラザラとした砂。手持ちはスマホ一つのみ。
普段陰キャと呼ばれる分類に属しているカエデは、常日頃からの思考《妄想》を元にたった一つの結論を導き出す。
「異世界転移……」
それに返事をするように彼女は答える。
「そうだよ。私があなたをこの世界に呼び寄せた。あなたにこの世界を取り戻してもらうためにね」
展開が早い。本当にこんなことが起こるなんて。見捨てられた世界。可憐な少女。妄想が今現実になって目の前で動いている。情景は少し違うが。
楽しいことなんて一つもなかった。何となく学校に通い、何となく友達と交流し、何となくで日々を通り過ぎる。
そんなカエデが非日常を手にした。当然、それに応じて気分は上がる。
つまらない日々からの脱却。カエデは自身が無敵かとも錯覚するほどの状態だった。
「そ、それで、俺は何をすればいい⁉︎」
食いつくように彼女の話に乗り気になる。
彼女はそんなカエデを見て少し苦笑いをする。
「あはは、ちょっと待ってね。それは、あそこに行ってから全部話すから」
そういって彼女が指差した先は遠くにある小さなコンテナだった。砂漠の中にあの青色はよく目立つ。
彼女と共にカエデはそのコンテナに向かって歩き出す。歩きながら情景を見れば見るほど不思議な感覚に落ちる。
オーロラがかかった空に星が輝く。妖艶のような靄が空に向かって彼方此方で伸びていた。
「着いたよ。ここが私たちの拠点。改めてようこそ、旧世界へ」
彼女に連れられコンテナに中に入れば彼女はそう口にする。
コンテナの中は小さなリビングのようで、ソファーには大男と小柄な少女と眼鏡をかけた男が座っていた。
その一人、大男が立ち上がる。
「おう、あんたがマナが言ってた救世主ってやつか。俺はドルガ。よろしくな」
その大男、ドルガは身長は百八十センチメートルほどの身長に、鍛えた体が分厚いせいで威圧感がすごい。
短髪の髪に顎と口を覆う髭。右目上の傷が特徴的だが、優しい目をしていた。
「僕はタクヤ。本が好きだったんだ。よろしくね」
タクヤはドルガに続いて自己紹介をする。サラリーマンといったような格好で前髪を掻き上げ、細い目をしていた。
「うぅ……」
もう一人の小柄な少女は小さく蹲る。見た目的に小学生だろうか。人形を抱えた腕に力を込めているようだった。
そんな彼女を見て、ドルガが言う。
「あぁ、こいつはエリカ。少し引っ込み思案でな。あんたのこと嫌ってるわけじゃないから、優しくしてやってくれ。」
そして最後に、可憐な少女——マナがカエデを見る。
「改めまして、私はマナだよ。君を急に呼び出しちゃってごめんね。でも、これからよろしく」
そう言ってマナはカエデに手を伸ばす。
カエデはその手を取り、硬く握った。
(時代は見た感じ未来といったところか?神に見捨てられた旧世界……謎が多いシリアス系か。言語は通じるし、日本人っぽい名前の人もいる。この中を見渡す限り、ソファー、ホワイトボード、ペン。どれも向こうの世界で見たものばっかだ。これはかなり良い環境じゃないか?)
そんな思考をしていたら忘れていた。まだ自己紹介をしてなかった。
「あ、俺は——」
そう言いかけた時、
「あ、もう知ってるよ。カエデ君だよね。よろしくね」
マナ以外にもみんなカエデの名前を知っていた。本当に謎が多い。
マナはソファーと対面にあるホワイトボードの方に行き、書き出した。
「じゃあカエデ君。今から私が全てについて説明するね」
神に見捨てられた旧世界、『エデン』。この世界では遥か千万年ほど前、国は発展し、何不自由ない暮らしを全世界中の人が暮らせる平和な世界だった。
神からのエネルギー、物資、情報供給があったからこそ、ここまで出来たのだ。
しかし、そんな神は八万年前のある日、突然消え去った。
供給は途絶え、消える前に備蓄していた物資は中央諸国に集まり、各地で貧困化が進む。
そんな物資を巡って人々は対立。彼方此方で戦争が起き、発展しすぎた世界の武器は、人を一瞬にして消し去った。
そして、気づけば生き残ったのはこの四人。旧世界の技術で長生きはしているものの、もう限界は近いらしい。聞けば、あと二百年くらいかなー、他のみんなも、とマナは言っていた。
「神は、カエデが過ごしている世界、新世界へ場所を移した。カエデの世界は、まだ発展してないみたいだね。神も方針を変えたのかな」
そう言ってマナは話を続ける。
カエデのやるべきことはつまり、神をこの旧世界に連れ戻すこと。そしてマナ達を救うというものだった。
「いや、でも連れ戻すってどうやって……」
肝心なのはそこだ。新世界の人間生贄にしますとかは真っ平ごめんだ。
「そこは大丈夫。各々に広がった神が落とした宝玉を集めれば、神と交渉をする権利が与えられる。それさえあれば、あとは私がやるよ」
宝玉を見つける……。宝探し系の話か。なら簡単だ。命を賭けて戦うなんてことはなさそうで安心する。
「君がその胸に下げてるペンダント。それが宝玉の一つ。君になら、わかるよね?宝玉の在り方」
マナに言われて今気づいた。ずっと強く、力を四方から感じていた。方向もなんとなくわかる。
「気づいたみたいだね。それが、君をこの旧世界に連れてきた理由だよ」
なぜカエデがその宝玉の力を感じられるのかはわからない。でも、まさしく物語のような展開に胸を馳せる。
「じゃあ、行こうか。神を取り戻す旅だよ」
そう言って一同は立ち上がり、コンテナを後にした。
一つ目はすぐに見つかった。コンテナから数キロ歩いた砂漠の砂の中。その中に異様に光る拳サイズの青い宝玉を見つけた。
「こんなに早く見つかるなんてな。すげーじゃねぇかカエデ」
そう言ってドルガがカエデの背中をバンバン叩く。
あと三つだ。
まだ見つからない。感じる力は遠い。
すぐ見つかるものだと思ってしまった。全然そんなことはなく、普段運動不足のカエデはここ数ヶ月歩きっぱなしでヘトヘトだった。
「カエデ、大丈夫?全然無理しなくて良いからね。水、飲む?」
お礼をし、マナから水の入ったペットボトルを受け取る。旧世界の技術で、水を一週間に一回飲めば生きられる体にしてもらった。その副作用で、寿命が伸びるそうだが、全然良かった。でも、疲れるものは疲れる。
そんな時のマナの存在はでかかった。心の支えとも言えるような、こんなに女性に優しくされたことはなかった。
まだ頑張ろう。この世界を取り戻すんだ。
旅を始めて半年。
歩いてる途中にエリカが話しかける。
「カエデは、何歳なの?」
年下にそう質問されると少し照れる。
「十八だよ。高校生。受験があったんだけどね……ってまだわからないか」
愛想笑いをしたがエリカはずっとニコニコしていた。この長い旅で少し懐いたのだ。
「そっか……まだ十八年しか生きてないんだ。ワタシより全然子供だね!」
あぁ、そうだった。こんな見た目をしていてもカエデよりずっと年上。それも何万年という差がそこにはあった。
「あ、あった!」
エリカは地面を見るなりそう口にする。
確かに力が強くて、ここら辺にあると思っていたがここにあるとは。
埋まった赤く輝く宝玉をみてカエデはそう思った。
残り二つ。
旅を始めて一年。
「カエデさんは、本読んでましたか?」
休憩中にタクトが話しかける。
「本かぁ……。漫画とか読んでたかなぁ。小説は文字が多くてちょっとね……」
それを聞いてタクトは目を輝かせる。
「漫画も良いですよね!僕は小説派なんですが、たまに漫画を読むと面白いなーってよく思います!」
その元気さにカエデは少し押される。自分の好きなことになると熱中するタイプか。少し似てるな、とカエデは感じた。
図書館のような本がとても多く、何十メートルにもなる本棚を見てタクトは感動していた。
「本当に……まだあったなんて……あ」
本が散らばった中に、緑色に輝く宝玉を見つける。
「本は、戦争で全部燃えたと思ってました。でも、世界最大級の図書館なら、まだ本があるかもって。こんなに残ってるなんて、思ってもいませんでしたけど」
タクトは幸せそうだった。だからこそ、ここを離れるのは、カエデも少し胸が痛かった。
残り一つだ。
「う、うわああああぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
踏み外した。崖沿いに歩いてたら会話に夢中になって足が滑ったのだ。
引き摺り込まれるように体が落ちていく。
ここまできたのに?こんなちょっとした不注意で、死ぬのか?
楽しかったのに。みんなと話して歩いているだけで、それは充実して、今までに感じたことのない時間だったのに。
覚悟をしたその時だった。
「危ない!」
一つの手が、カエデの手首を掴む。
見上げればマナがきつそうな顔でカエデを必死に持ち上げようとしていた。
助けてくれたのか……?俺を。
「うぅ……重い……」
手が少しずつ剥がれていく。
「ったく、しゃーねーやつらだな。ほら、早く上がってこいよっと」
ドルガが腕を掴むなりカエデを片手で持ち上げる。そのまま尻餅をついてカエデはそこに座り込んだ。
「ご、ごめん……ありがとう。死ぬかと思った……」
マナはカエデに笑顔を向ける。
「全然大丈夫だよ。困った時はお互い様だからね」
そう言ってもう一度カエデの手を取り立ち上がらせる。
そんなマナをカエデは見つめていた。
旅を始めて二年。
最後の宝玉を見つけた。神殿の玉座のようなところに置かれた金色に輝く宝玉。
ここまで長かった。でも、歩いただけで、死ぬほど辛い思いはしなかった。
こんなあっけなく終わるのか、この旅は。
「カエデ、本当にありがとう。これで宝玉は全部集まった。全部カエデのおかげだよ。あとはこれを君が持って、空に掲げるんだよ」
マナに渡され宝玉を四つ手に収める。
掲げようとしたその時だった。ふと家族のことや友達のことが浮かんだ。その手を下に下げる。
「どうしたの?」
マナはこちらを見つめ顔を覗き込んでくる。
他の人もカエデを周りから見ていた。
「いや、仮にこれを掲げて、神と交渉し、こっちに連れ戻したら、俺がいた新世界ってどうなるのかなって……」
それが不安だった。異世界転移したからと言って向こうの家族や友達をを忘れたわけじゃない。
これが終わったらまた戻ろうと思ったのだ。
二年と言う時を経てそばにいる人達の大切さに気づいた。
最悪のことは起きないはずだ。マナだって、それを分かった上で、何とかしてくれるはずだろう。
でもマナは、
「うん、滅びるね。この旧世界のように。神の干渉を『エデン』ほどは受けてないにしろ、神がいなくなったら因果がぐちゃぐちゃになるからね」
最悪の答えだった。
この世界を救うには、家族も、友達も全部犠牲にしなければいけないのか?
こんな二年しか共にしていないこの四人のために?まだ十八年共に過ごした家族の方が大事……。
いや、それよりも大事なものがある。目の前の少女だ。
初めて会ったあの日からずっと。ずっと思い続けてきた。
優しくしてもらって、命を助けてくれて。この人のためなら何を払ったって良いのかもしれない。
「でも、カエデが新世界に戻りたいのなら、戻っても良いよ。私たちにそれを止める権利はない。宝玉の力を使えるのは君だけだから。君が選んで良いよ」
カエデの心が揺らぐ。
たった一人の少女のために全てを犠牲にするのか。生みの親でさえ。
いや、もういい。好きな人のためなら何だってする。カエデはそんな人間だったのだ。
「いや、この世界を救うよ。『エデン』を、取り戻そう」
宝玉を空に掲げる。
あたぬはまばゆい光が差し、、太陽が無数に現れたように明るい。
神殿が神々しい光に包まれる。
その上から一人、何十メートルともある白いローブをきた男性が降りてきた。胸まで伸びる髭を生やした老人——神だった。
カエデや他の人はそれを見るなり目の前で紋様を描き始める。それぞれが違う形の文字のようなものだった。
そして一斉に叫ぶ。
「「神よ!我らに従い賜え‼︎」」
その瞬間神はその場から消え、光も消えた。
あたりは静寂に包まれる。
「あぁ、やっと終わった……。これで世界を取り戻したんだ……」
マナは安堵する。
日が一回も昇らなかった空は朝日に包まれ光の筋を作る。
あたり一面砂漠だった場所には緑が覆い茂り、神殿もその緑で包まれた。
「これで……終わり?何をしたの……?」
カエデはあまりにもあっさりと終わりすぎて困惑する。
そんなカエデを見てマナは納得したように話をした。
今やったことは神をこの場に留める旧世界の技術を行使したそうだ。そのおかげでこの世界に神を呼び、神の恩恵を受けた。
カエデしか宝玉が扱えなかったのは理由があった。カエデの父親のことだ。
カエデの父親は神の子と呼ばれた人で、新世界の宝玉の一つを渡されてていた。そんな父親は子供のカエデに、その宝玉を授けた。そうしたことで、自然と神に認められたことになり、宝玉の力を使えたそうだ。
(いつかのあの記憶は……。昔の記憶だったのか)
そんな事実にカエデは驚いていた。
これで全て終わった。新世界——今の旧世界は滅んでいくだろう。友達も、家族も、みんな消えてしまうだろう。
でも、目の前にはマナがいる。それ以外の人もいる。
十分すぎるのだ。この世界で楽しく暮らしていこう。いつかマナにもこの思いを伝えられたらいいな。
「いやー、それにしても疲れたね。二百年って短いようで長いからなー」
「え?」
マナの言葉に驚愕する。二年じゃないのか?
思えば時計も何もなかった。日は昇らないから何日経ったかなんて知るはずもなかったのに。
時間の経過があまりにも早すぎた。
でもそんなことはどうでも良い。二百年。先が長くないマナやそれ以外の人は——
「いや、疲れた疲れた、ほんとほんと……」
ドサっと音がした。
怖くて振り返れない。他の人たちのマナを呼ぶ声が聞こえる。叫んでいるようにも見えた。
マナは、倒れたのだ。
新世界になったばかりの世界に技術など存在しない。旧世界の技術も寿命を追加で伸ばすものはないそうだ。
当然、マナは死んだ。
それに続いて他の人たちも死んだ。
全員死んだ。
ただの高校生の知識で止まった二百歳は、救いようがなかった。
なんのために、何のためにこの世界を救って、何のためにあっちの元いた世界を犠牲にしたんだ。
残ったのはただ一人。無限に湧き続ける資源と旧世界の技術で伸びた寿命。自殺はできないシステムだった。
残り寿命はあとどれくらいだろう。マナが戦争前から生きていることから八万年以上はあるだろう。
子孫も繁栄できない。
溢れ出る感情は声になって吐き出される。涙も涎も全て混ざって体外に出される。
何のために。
ただ一人、カエデはそう思った。
『選べ旧世界』完
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