プロローグ
首夏の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。私、日高一音は、部活動の大会に来ておりますわ。この大会は多くの高校三年生にとって最後の大会となる大切な大会なんですのよ。私の所属している月華高校卓球部はあまり人数が多くありませんので、二年生である私もこのような大きな大会に参加することができていますの。……お嬢様風の口調でイマジナリーフレンドである皆様に話しかけるのにも飽きてきましたわ。規模の大きい大会は試合までの待ち時間がとにかく長い。こう長いとイマジナリーフレンドに話しかけたくもなってしまう。皆様もそうでしょう……?
ようやく先輩が試合に呼ばれた。数十台の卓球台が並んだ体育館に目を向ける。先輩が呼ばれたコートを探す。無事発見。瞬間、私の目は先輩の対戦相手に奪われる。そこには美少女が懸命にラケットを振る姿。美しいフォーム、揺れる黒髪ポニーテール。その人物は徒ならぬオーラを纏っているように感じられる。
「カッコいい」
思わずそんな声が漏れてしまう。
「ねえ春陽、伊藤先輩と試合してる人めっちゃカッコよくない?」
居ても立っても居られなくなり隣にいる諏訪戸春陽に声をかける。
「そうかなあ」
あぁ、この女あの人の美しさを理解できないのか。可哀想に。
「ええと名前は……一ノ瀬さんか。なるほど、旭高校の三年生なのか」
手元のプログラムで名前、高校、学年を確認する。フルネームで載っていないのが憎らしい。
「何とかしてお近づきになりたいな。ねえ、春陽どうすればいいと思う?」
「ううん、そうだなあ。同じ大学に行くのがいいんじゃない」
春陽が出したアイデアはとても良いように思える。が、一つ問題があった。
「ほう、でもどうやったらあの人が進学する大学が分かるかな?」
「そうだなあ、最近はSNSで部員紹介をやってる部活が多いよ。ほらこんな感じ」
そう言いながら春陽はとある大学の卓球部のアカウントと見せてくれた。そこには部員の名前や写真、出身高校などが紹介された投稿があった。
「一ノ瀬さんは三年生で、一音は二年生。一年あれば見つけられる可能性も十分あるんじゃないかな」
この女、天才か?
「でもそんなことしたらストーカーみたいだね」
「ほう?」
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芒種の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は遂に一ノ瀬さんの通っておられる大学の特定に成功いたしましたわ。五月上旬からさまざまな大学の卓球部のアカウントと調べまして、早一か月、一ノ瀬様の通っておられました高校のレベルから考え、目をつけておりました大学の一つである緑ヶ丘女子大学の卓球部アカウントで一ノ瀬様が紹介されましたの。情報によると一ノ瀬様は沙也加というお名前なのですって。一ノ瀬様にぴったりな素敵なお名前だと皆様も思いませんこと?あらやだ、私ったら興奮してしまいお嬢様風の口調でイマジナリーフレンドである皆様に話しかけてしまっておりましたわ。何はともあれ、あとは私が緑ヶ丘女子大学に合格するだけですわ。
「待ってろ緑女、待ってて一ノ瀬様」




