嫌いと言わせてもらえなかった(企画1234リライト)
しいな ここみ 様 主催の「リライト企画」参加作品です。
本羽 香那 様の作品『秋なんて大嫌い(1234)』のリライトです。
幼なじみのあいつは背が伸びてカッコよくなった。女子の人気ランキングが上がって急にモテ出した。「私が先に好きだったのに」なんて言ってももう遅い。昔の阪神が万年最下位だったって言うのと同じぐらいに誰も信じてくれないだろう。
だから私は人と違う方法で一発逆転を狙うことにした。いわゆるツンデレというやつだ。ギャップの落差が大きいほど効果があると聞いて、私はあいつの好きなものを全部嫌いといってやった。マンガや音楽や食べものまで……。
そうして時間を掛けてツンの仕込みをしてこれからデレに転じようとした矢先に、私は親の都合で転校することになったと聞かされた!
冷水を浴びせられたような気分だ。罰が当たったのだと思った。こんなことなら最初からデレてればよかった。でももう今さらだ。それなら私は嫌われたままでいい。あいつの心に残る傷になって一生忘れさせてなんかやらない。そんな暗い決心をした……。
「秋って好きなんだよな。何でかって言うと……」
「私は嫌い。もの寂しい気がするしすぐに冬が来て寒くなるじゃん」
そうして最後の放課後も私はあいつの好きを否定した。
「じゃあお前が好きなものって何だよ?」
あいつはそう言ってって少し困った顔をしたが「それはあなたです」などとは当然言えるはずもなく、
「好きなものなんて無い。とくにあんたは大嫌い!」
そう言って私はカバンを持って教室を飛び出した。涙はこぼれたがどうにか声は出さずに済んだ……。
それなのに私はあいつにまた会えた。クリスマスのことを考えてぼんやり歩いているときに、私の名前を呼んで近づいてきたのだ。「どうして……」と呟けば転校した学校にいとこがいて教えてくれたのだという。
「言っただろう? 俺は『愛貴』が好きだって」
それでようやく私はあの日のあれが告白だったのだと気が付いた。何て馬鹿な遠まわり、恥ずかしさで顔が火照る……もう一度名前を呼ばれて私はつい逃げようとした。そして反射的にあの言葉を言ってしまいそうになる!
「おっと、今日はそれは無しにしようぜ」
私はあいつのマフラーを巻かれ引き寄せられキスされた。嫌いと言わせてもらえなかった……。