05. トキメキ
『今日はレオナルド様とお茶会です』
ナタリーが準備した綺麗なドレスとハイヒールを見せられたミサキは驚いた。
「レオナルド? 今日?」
聞き取れたのはこの単語だけ。
肝心な部分がわからなかった。
「紅茶」
ナタリーがテーブルの紅茶を指差す。
豪華なドレス、レオナルド、紅茶。
それってレオナルドとデートってこと?
真っ赤になったミサキを見たナタリーは言葉が通じたと微笑んだ。
こんな結婚式みたいな綺麗なドレスを着て良いのだろうか?
繊細なレース、肌触りの良い布。
ドレスは重いのだと初めて知った。
髪もナタリーが編み込みに。
メイクも軽くしてくれて別人だ。
「きれいです」
「ありがとう、ナタリー」
ナタリーの技術がスゴいんです! と言いたいが単語がわからない。
ありがとうと言うのが精一杯だった。
いつかちゃんと言えるようになりたい。
『では参りましょう』
騎士が扉を持って待機しているけれど、亀のように遅くてごめんなさい!
ドレスって歩きにくい!
履き慣れないヒールも不安だが、足元が全く見えない。
歩くたびにドレスのスカートが揺れ、ふらついてしまう。
令嬢達を尊敬します!
こんな重いドレスを着て、どうやって普通に歩くの?
「ミサキ様」
ナタリーがミサキの背中をスッと伸ばす。
『視線は遠くに』
扉を見て。のような仕草にミサキは従う。
あれ?
歩きやすい?
背中を伸ばしたおかげかドレスがあまり揺れなくなった。
スゴい、ナタリー!
なんとか廊下を進み、いつも食事をしている部屋へ。
食事のテーブルは部屋の片隅に寄せられており、ミサキはソファーに案内された。
いつもはこのソファーが片隅にあるよね。
「ミサキ」
初めて会った時のようなキラキラ王子服のレオナルドに名前を呼ばれたミサキは思わず顔が赤くなった。
カッコ良すぎる!
「きれい」
レオナルドはミサキの右手を取り、手の甲に口づけを落とすと綺麗な青い眼を細めて微笑んだ。
「レオナルド、いい」
カッコいいと伝わったと思う。
レオナルドはミサキの頬にチュッとキスをしてくれた。
惚れる。
絶対惚れる。
我ながらチョロいと思うけれど、こんなことされたら絶対好きになるでしょ。
ナタリーが淹れてくれた紅茶と美味しいクッキー。
ソファーの隣にはキラキラ王子レオナルド。
異世界スゴい!
絶対話せるようになってレオナルドと会話がしたい。
好きなもの、嫌いなもの、いろいろ知りたい。
『どっちが好き?』
レオナルドが手にしたのはプレーンクッキーとチョコチップクッキーが載った皿。
ミサキがチョコチップクッキーを取ろうとするとレオナルドの手がミサキの手の上に乗った。
レオナルドはチョコチップクッキーを手に取りミサキの口の前に出す。
これは「あーん」ですか!
真っ赤な顔で半分だけ口に入れると、残りの半分はレオナルドが食べてしまった。
半分こかー!
惚れるでしょ。
ズルいでしょ。
恐るべし王子。
レオナルドは補佐官チャールズから絵本を受け取ると、ミサキに表紙を見せた。
ドラゴンと戦う騎士の絵だ。
タイトルはもちろん読めない。
レオナルドは絵本のページを捲った。
「水、ない」
枯れた畑の前で困っている人々の絵を開きながらレオナルドはミサキがわかりそうな言葉を選んだ。
『聖剣』
女神様のような光った女性が剣を王様に渡している。
『聖女』
次のページは白いドレスの女性。
光った女性とは違う顔なので別人だろう。
剣を持った男性と白いドレスの女性が山に向かって歩いて行く。
ドラゴンと戦う男性の絵は表紙と同じ絵だ。
次のページはドラゴンが倒れた絵。
その隣には男性も倒れている。
白いドレスの女性が倒れた男性の横で光っているイラストにミサキは目を見開いた。
聖女ってこと?
やっぱり異世界の定番は治癒能力の聖女!
「水、ある」
川にドバーッと水が流れる絵と喜ぶ人々。
そして最後のページは結婚式だ。
レオナルドに手を握られたミサキは顔を上げた。
『水不足のこの国を救ってほしい』
レオナルドは手を持ち上げ指先に口づけする。
この剣を持った男性がレオナルドで、白いドレスの女性が私で、ドラゴンを倒したら結婚しようってこと?
言葉がわからないから絵本を作ってくれたの?
ミサキの黒い眼が揺れる。
レオナルドは青い眼を細めて優しく微笑むとミサキの頬に口づけした。
真っ赤な顔で恥ずかしがるミサキ。
時計を確認した補佐官チャールズがそろそろ時間だとレオナルドに告げた。
「ごめん、じかん。またね」
名残惜しそうにミサキの頬を撫でるとレオナルドは立ち上がった。
手を振り扉から出て行く。
ミサキも手を振り返すとレオナルドは微笑んだ。
やっぱり異世界といえば聖女!
王子と結婚!
剣を持った男性は金髪だからレオナルドだよね。
でも白いドレスの女性も金髪。
どうして?
私は黒髪なのに。
ミサキは絵本を手に取り、もう一度自分でイラストを見ることにした。
「……伝わっただろうか?」
「大丈夫だと思います」
ミサキに聖女を説明したが、おそらく伝わっただろう。
言葉がわからないなら絵本で説明してはどうかと補佐官チャールズが提案したのだ。
「ですがスキンシップが多すぎます」
あれでは勘違いするとチャールズが溜息をつく。
「勘違いじゃないから良いだろう」
結婚するのだから問題ないと言うレオナルドにチャールズは肩をすくめた。