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王子の溺愛があったとしても、言葉が通じない異世界でドラゴン討伐なんて無理!  作者: 和泉


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44. 兄弟

 なんでこんな事に?


 国王陛下に会った広い謁見の間から出たミサキがルイスに連れて行かれたのはレオナルドと食事をしていた部屋だった。


『おかえり、ミサキ』

 切なそうに微笑むレオナルド。

 そしてその後ろの眼鏡!


「ごめんなさい」

 勝手に出て行ってごめんなさいとミサキが謝ると、レオナルドはそっとミサキの頭を撫でた。


 食事をしていたテーブルに3人で座る。

 当たり前のようにミサキの隣に座るルイス。


『座る位置がおかしいだろう』

 思わずレオナルドはツッコんだ。


 レオナルドとルイスが盛り上がっている。

 旅の報告かな?

 やっぱり二人は似ているなと思いながらミサキは大人しく待つことにした。

 

 ナタリーが運んできた紅茶とクッキー。

 ルイスがミサキの紅茶にハチミツを入れ、スプーンで混ぜる。


 片手しか使えないのでハチミツの瓶を開ける事も、粘り気のあるハチミツを掬う事も、こぼさず混ぜる事でさえミサキにとっては大変なのだ。


 当然のようにミサキの世話を焼くルイスをレオナルドと補佐官チャールズは不思議そうに眺めた。


『ミサキ様の怪我は?』

 レオナルドの補佐官チャールズがルイスの補佐官ディーに尋ねる。


『見ての通り、右肩から下は使えない』

 背中も肩もまだ酷い傷でドレスが着られなかったとディーはチャールズに説明した。


『医師は?』

『アンベルも王都も、一生傷が残り、手は使えないと』

『そう……ですか』

 思った以上に深刻だったミサキの怪我に補佐官チャールズは目を伏せた。


『ミサキがルイを選んでよかっただろ?』

 いくら聖女でもドレスから傷が見え、右手が不自由な妃では体裁があまり良くない。

 

 レオナルドは第一王子。

 今後王太子になり国王になれば、公務で国外に行く事もあるだろう。

 王子の想いはわかるけれど、言葉が通じない、ダンスも踊れない妃では国外の公務に支障をきたす。


 第二王子のルイスならば夜会も断りやすく、国のために怪我をした聖女を悪く言う者は少ないだろう。

 国の英雄が聖女と結婚するのは小さな子でも知っている事だ。


『ずっと、最後までルイは悩んでいた』

『でしょうね』

 いつもレオナルド様に遠慮ばかりしているルイス様。

 相当、悩んだだろうとチャールズは笑った。


『ミサキに幸せになって欲しいんだ』

 我々の勝手で呼んでしまった聖女。

 

 言葉がわからない、さらに右腕も右手も使えなくなってしまった彼女がこの先これ以上イヤな思いをしないようにしたいとディーが言うと、チャールズもそうですねと頷いた。


 

 ……どうしてここに?

 レオナルドとお茶の後、連れて来られたのは王宮でお世話になっている時に使っていた部屋。


 あれ?

 ルイスを選んだら、あの家に戻れるわけではなかったのか。


 なぜかあの家に置いていた服やシルバーウルフのぬいぐるみまでこの部屋に届いている。


 おかしいな。

 思っていたのと違う。

 ルイスに部屋まで送られたミサキは首を傾げた。

 

「どうした?」

「これ、ここ?」

 シルバーウルフを持ち、なんでここにあるのか尋ねるミサキ。


「ナタリー」

 ナタリーが運んだと言うルイスにミサキは首を傾げた。


「ルイス、いない?」

 一緒と言ったのにどういう事だろうか?

 また言葉が通じないから勘違いしているのだろうか?


『あっ! ルイ、ミサキは別邸に帰ると思っていたんじゃないか?』

 ルイスが王子だと知らないのではないかと気づいたディーの言葉にルイスは目を見開いた。


 そういえば教えたことはない。


『俺の部屋に行こう』

 ルイスはミサキを連れて廊下を進んだ。

 

 行った事がない場所に戸惑うミサキ。

 騎士が立っているけれど入っていいの?

 ディーが扉を開け、ルイスはミサキを部屋へ入れた。


 ミサキの部屋より広く落ち着いた緑色の壁紙の部屋。

 本棚にはたくさんの本。

 クローゼットにはキラキラ王子服。


「ここ、ルイス」


 ルイスの部屋?

 え?

 どういうこと?


 ルイスはミサキを連れて隣の部屋をノックする。

 開いた扉から出てきたのは補佐官チャールズだ。


「ルイ? ミサキ?」

 どうした? と首を傾げながらソファーから立ち上がるレオナルド。


『兄弟って教えていなかった』

『は?』

『兄は単語を知らないな、どう説明すれば良い?』

 困ったルイスが尋ねるとレオナルドは笑った。


 レオナルドは自分を指差し「大きい」、ルイスを指差し「小さい」と言った。


 背はルイスの方が大きい。

 でもレオナルドの方が大きい?


 隣同士の部屋、レオナルドが大きい?


『え? 兄弟?』

 ウソでしょ?

 気づいたミサキをレオナルドとルイスが笑う。


 補佐官チャールズは『もっと早く教えておいてください』と溜息をついた。


 えぇ〜?

 レオナルドを選んだら王宮で、ルイスを選んだらあの家だと思ったのに違ったんだ。


 ルイスと一緒にいたいと思って手を取ったのに。


『あれ? 落ち込んでる』

 ディーがミサキの様子を見て首を傾げる。


『なんで落ち込む!』

『王宮がキライ? あぁ、逃げ出したくらいだからキライかもしれないな』

 そう呟くレオナルドにルイスは困った顔をした。


「ミサキ?」

 どうしたい? とミサキの顔を覗き込むルイス。

 ミサキはルイスの服を左手で捕まえた。


『なんか……無茶苦茶可愛いんだけど。何で俺の嫁じゃないわけ?』

 レオナルドが呟くと『聖剣を持っていないからでしょう』と補佐官チャールズはあっさり答えた。


「……一緒」

『あぁ、一緒の部屋がいいのか』

 ルイスの言葉にレオナルドが反応する。

 

『おい、ルイ。一緒の部屋とは?』

『怒るなレオ! テントは限りがあるだろう!』

 お前の嫁だって言われたから騎士達から守ったんだと言い訳するルイス。


『やっぱり聖剣か』

 がっくり項垂れるレオナルドにミサキは首を傾げた。

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