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王子の溺愛があったとしても、言葉が通じない異世界でドラゴン討伐なんて無理!  作者: 和泉


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41. 騎士団長

 偉い人?

 

 本当は一緒にお辞儀をした方が良いのだろうが、背中が突っ張っていて顔を下にむけることができない。

 せめてソファーから立ち上がりたいけれど、一人でこのふかふかソファーから立てない。


 ミサキが困っていると、おじさまはルイスの前へ歩いた。

 

『ルイス殿下、この度は制勝おめでとうございます』

 ルイスの前で跪くディーの父である第一騎士団長。

 ルイスがスッと手を出すと、その手を合図に騎士団長は立ち上がった。


 え?

 ルイスの方が立場が上なの?

 このおじさまよりも?


 ソファーに座りながら不思議な様子を観察するミサキ。


 騎士団長はソファーに座るミサキの元へやってくると、今度はミサキに跪いた。


『お初にお目にかかります。この度はこの国をお救い下さりありがとうございます、聖女様』

「ドラゴン。ありがとう」

 って言ってるよとディーが通訳すると、ミサキは「は、はいっ」と返事をした。


 ゆっくりと立ち上がるおじさまはなんとなくディーに似ている。

 もしかしてディーのお父さん?


 挨拶が終わると、たくさんの食材が運ばれてくる。

 料理人のような白い服の男性はキッチンに立ち、食事の準備を始めた。


 ディーに手を差し伸べられ、ミサキが立ち上がる。

 侍女に連れられ、ミサキはルイスの部屋へと戻った。


「えっ? シャワー?」

「はい」

 にっこり微笑み、服を脱がすのを手伝ってくれる侍女。


 嬉しいけれど恥ずかしい!

 でも、シャワー入りたい!


 サラシを取り貧相な胸も見えてしまったが女同士。

 ここは温泉だと自分に言い聞かせる。

 

 自分では見えないけれど、傷があるはず。

 でも侍女はイヤな顔をせず傷口にタオルを置き、できるだけ濡れないように配慮しながらミサキを洗ってくれた。


 身体はもちろん、髪もキレイに洗ってくれる侍女。


「ありがとう」

 背中や肩が痛くても、洗ってもらったのがうれしい!

 ミサキが嬉しそうに微笑むと、侍女も優しく微笑んでくれた。


 何ヶ月ぶりかのスカートを履き、ルイスが買ってくれた後ろボタンの服を着せてもらう。

 ベッドにうつ伏せになるように合図されたミサキは侍女に従った。


 髪をタオルで包んでベッドの上の方へ流すと、侍女は扉の方へ。

 すぐに鞄を持ったおじいさんが入室し、ミサキの背中に触れた。


 あ、お医者さんね。


「うん。OK」 

 薬を塗り、右腕に触れ、右手に力が入るか確認すると医師はサラシを侍女に手渡し退室していく。


『サラシを巻きますね』

 侍女はサラシを綺麗に巻き、服のボタンを留め、髪を乾かしてくれた。

 良い匂いがする液体を髪につけ、櫛で梳かしてくれる。


 そういえば王宮にいるとき、ナタリーも髪にいい匂いがする何かをつけてくれていた。

 トリートメントなのかな?


 至れり尽くせりでお世話をしてもらったミサキは侍女に「ありがとう」とお礼を言った。


 部屋を出るとおいしそうないい匂いがしてくる。

 ぐぅと鳴ったお腹の音はこのお姉さんに聞こえてしまっただろうか?

 恥ずかしそうにするミサキに侍女は優しく微笑んだ。


「うぉ! ミサキ、可愛い」

『結婚しよう!』

 初めて見るミサキのスカート姿に騎士達が盛り上がる。


『教会のワンピースの時も思ったけど、やっぱり細いね』

 途中の街で黒いズボンは買ったが、スカートを履かせると標準体型の女性よりも小柄で細いことがよくわかる。

 この身体でよく山まで歩いたよねとディーが笑うとルイスの青い眼が揺れた。


 柔らかいお肉、温かいスープ。

 卵焼きも美味しい。

 楽しそうに食事をするミサキを切なそうな顔で眺めるルイスを騎士団長は笑った。


「そんな顔もなさるとは」

「……第二王子が娶るのはよくないとはわかっているが、諦めたくない時はどうすればいい?」

 5歳の頃から世話になっている二人目の父だと言っても過言ではない騎士団長にルイスが尋ねると、騎士団長は豪快に笑った。


「手に入れればよろしいでしょう」

 何を悩んでいるんです? と笑う騎士団長。


「今まで、幼い頃からずっと我慢されてきたのです。英雄となられた今、願いを口にされずにいつなさるつもりですか」

 国王陛下付きの第一騎士団でさえ音を上げる鍛錬に参加し、ドラゴンまで倒してしまったルイス。

 あの時何があったかはディーからすべて聞いた。

 罪悪感から娶りたいと言っているのならば止めようと思ったが、この表情を見れば違うと誰が見てもすぐにわかる。

 

 子供の頃から常に第一王子レオナルドに遠慮し、彼の顔を立ててきたルイス。

 本当は勉強も周りへの気配りも状況判断も、ルイスの方が優れているのに。

 良からぬことを考える貴族が出ないように、第一王子レオナルドが常に自分より上であると公言されてきた。


 伝承でも聖女と結婚したのは聖剣を持った王子。

 なにも遠慮することなどないはずなのに。

 

「ディーと同じことを言う」

 親子だから当然かと苦笑するルイスに騎士団長は目を細めて微笑んだ。


「まぁ、聖女様にお好きな方を選んでいただけば良いのでは? レオナルド殿下を選ぶかルイス殿下を選ぶか、それとも騎士の誰かを選ぶのか」

 選ばれると良いですねと笑う騎士団長に、ルイスは驚いて目を見開いた。


 言われてみればその通りだ。

 求婚するかしないか悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。

 求婚したけれどレオを選んだなら専属騎士になりたいと頼み、もし受けてくれたら妻に。

 騎士達の誰かに負ける気はしない。


「……そうか。一番大事なことを忘れていた」

 そんな簡単なことだったのかとルイスは困った顔で肩をすくめた。

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