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王子の溺愛があったとしても、言葉が通じない異世界でドラゴン討伐なんて無理!  作者: 和泉


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39. 王都

 草原を抜け、王都の端っこの街へ着いたのは夜だった。


「ありがとう」

 だいぶ自分で歩けるようになったが、結局あのドラゴンの山からここまで担架で運んでもらったミサキは騎士達みんなにお礼を言った。


『俺達が生きて帰れたのはミサキのお陰』

『そうそう! そろそろ結婚しよ』

『ズルいぞガイル! 俺だってミサキと結婚したい』

『いっそみんなで住むか!』

 アリだなと笑う騎士達。


 宿の食堂でミサキのノートを広げると、ジョンが絵を描き始めた。

 家のような絵の前に棒人間が7人。

 一人だけ髪が長いので女の子だろう。


 絵はあまり上手くないらしい。


「ガイル、ユーイ、クレイグ、リッキー、マリウス、ジョン……ミサキ」

 指差しながら名前を言うジョン。


「……ミサキ?」

 女の子の棒人間をミサキが指差すと、ジョンもガイルも、周りにいたみんなも頷いた。


 一緒に住もうよってこと?


『いいの? 止めないと彼らと一緒に住むって答えちゃうよ』

 笑いながらルイスを急かすディー。

 

 横からルイスは割り込み、サラサラと絵を描いた。

 似たような家と棒人間なのに、ルイスの方がジョンより上手い。


「ルイス、ミサキ」

 家には2人の棒人間だけ。


 驚いたミサキが顔を上げ、ルイスを見る。

 ルイスとミサキは何も言わずに見つめ合った。

 

『えぇ〜、ズルいっす』

『俺達もミサキと住む』


 今度はディーが2人の家の周りにぐるっと線を引くと、線の外側に棒人間を描き、ガイル、ユーイ……と名前を告げた。


『ミサキの護衛っすか?』

『俺、やる!』

『俺も俺も!』

 

 ドラゴン討伐の後の所属は確定していない。

 そのまま第二王子ルイスの護衛になるか、元の騎士団に戻るか、退職するか本人たちが選ぶことができるようにと国王陛下が配慮したためだ。


 ルイスだけでなく彼らは全員、国の英雄。

 この先、働かなくても生活は保証されている。

 もちろん聖女ミサキも。

 

「ミサキ、……レオナルド?」

 2人の絵を指差しながらルイスが寂しそうに笑う。


 驚いたミサキが目を見開くと、ディーがルイスの背中をバシッと叩いた。


「ミサキ、ルイ!」

 手を腰に当てながら言い直すディー。


『隊長じゃないと、この周りって第二騎士団だろ?』

『順番なかなか回って来ないじゃん』

「ミサキ、ジョン!」

「ミサキ、ガイル!」

 だんだんよくわからなくなってきたところで酒と料理が運ばれ、そのままワイワイ盛り上がることとなった。


「明日には王都だぞ、遠慮している場合か」

 早く腹を括れと言うディーにルイスの青い眼が揺れた。


 自分は第二王子。

 第一王子レオナルドの想い人であるミサキを奪うことはできない。

 グッと拳を握るルイスに、ワインを飲みながらディーは呟いた。


「一生に一度くらい、兄に遠慮せずワガママを言ってみたらどうだ? ドラゴンを倒してきたんだぞ?」

 そのくらいの褒美は貰っても良いはずだとディーが言う。


「……褒美……」

「命を懸けて国を救ったんだ。好きな女くらい貰えよ」

 ルイスの肩にポンと手を置きながらディーはワイングラスを持って立ち上がった。


 左手でフォークを持ち、騎士達と楽しそうに食事をするミサキ。

 ルイスはテーブルの上でグッと拳を握った。


 翌朝、久しぶりにミサキはみんなと歩いた。

 舗装はされていないが比較的平らにされており、街の中は歩きやすい。

 

 街を担架で移動するのは恥ずかしいのでミサキも歩いて移動することになった。

 どうしても歩けなくなったらいつでも担架に乗せてくれそうだが。

 

 以前はルイスと右手を繋いでいたが、今は繋ぐことができない。

 左手を繋いで歩くのだろうなと思っていたのに、ルイスの手はミサキの腰に添えられている。


 これはイチャイチャカップルみたいでかなり恥ずかしい。

 

 休憩は店に入って紅茶とケーキ。

 騎士のみんなはパンを食べているが、リッキーのパンはたぶん3個目だ。


 ミサキに合わせて歩いたので、2時間弱で移動できる距離を結局3時間かけて歩いた。

 遅めのお昼ご飯を食べてから馬車に乗り込む。


「な、な、なんで」

 ルイスの左膝の上に乗せられ、腰をしっかりと支えられたミサキは真っ赤な顔で焦った。


 馬車は4人乗り。

 ルイス、ディーと3人なので普通に座れるはずだ。


『揺れる、痛い、OK?』

 OK以外知らない単語だが、ディーのジェスチャーで馬車は揺れるから痛くなるみたいな雰囲気を察したミサキはチラッと密着したルイスを見上げた。


 胸にミサキの頭を押し付け、もたれさせるルイス。


「OK?」

 頭の上から響く低音ボイス。


 全然OKじゃなーい!

 何? このイチャラブな体勢!

 しかもディーの前!

 

 動き始めた馬車の振動で「うっ」とうめき声をあげたミサキは、すぐに椅子に座るのは無理だったと悟った。


 重いだろうなと思いつつ、ルイスに身体を預ける。

 温かくて、ルイスの心臓の音が心地よくなったミサキは、いつの間にか眠ってしまった。


「……寝てるし」

 可愛いなぁと笑うディー。


「信用されているのか、意識されていないのか」

 ルイスはミサキを支えながら切なそうに微笑んだ。

 

 歩けるようにはなったが、右手で何かを握ることはまだ出来ない。

 右ひじはほんの少し曲がるようにはなったが、完全に曲げるのはまだ無理だった。


「明日、王都の医師に診せよう」

 ルイスはミサキの右腕をそっと摩ると、愛おしそうに抱きかかえた。


 夜になってしまったが、馬車は無事にディーの実家の離れへ到着。


 ここはドラゴン討伐前の半年間、全員で共同生活を行った場所。

 ここへ再び無事に戻って来れたことが何よりも嬉しい。


「報告は3日後で調整する。明日・明後日の昼間は自由、夜だけここに居てくればいいよ」

 じゃ、お疲れ様とディーが声をかけると、騎士達は自由に散らばっていった。


 半年生活した慣れた家だ。

 シャワーと着替えを済ませ、ラフな姿で討伐前に買っておいた高級な酒を開けるユーイとリッキー。


「おーい、ミサキがいるんだからズボンは履いて~」

 パンツは禁止だと笑うディー。


 食べかけだったクッキーの缶を開け、『湿気ってる』と笑うジョン。

 

 無事に帰ってきたいと願いを込めて置いていったものをそれぞれ楽しみながら騎士達は夜遅くまで騒いだ。

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― 新着の感想 ―
クッキー缶を置いて行ったの呑気だなあと思いましたけど、戻って来たら残り食べるぞっていう願掛けだったんですね。 命懸けですもんねえ。生きて帰れて良かった。
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